第18話

「ラデン様〜、こっちですよ〜」


「うふふ、いいえ〜こっちですわよ〜」


「ラデン様〜っ」


「むむむ……! こっちかっ」


「きゃっ」


声のした方にパッと飛びかかると、細くてやわらかな体にぶつかった。


バランスを崩し、そのまま転がる。


草地がクッションになり、全く痛くない。それどころか、とってもやわらかな、いい匂い。


むふふ〜ん。


「つかまってしまいましたわ〜」


きゃっきゃっとみんなで笑う。


はあー、楽しいっ。





いま、私は訓練をしている。


目隠しをして、気配と距離感覚を覚えるためだ。


狩りも、たまに連れてってくれるんだけど、森に慣れ親しんだエルフの身のこなしには、とてもついていけない。


なので、いきなり森に入るのは止めて、先に気配察知や、耳を鍛えることにしたのだ。


なんだかエルフ達から、微笑ましい眼差しを向けられたが、訓練のためだ、仕方ない。


お姉さん達には、気配と足音を消して、声だけかけてもらう。


私は目隠しをして、まずは耳を鍛える事から始めた。


決して遊んでない。


遊んでない。


遊んでないよ?







杖やスキルに頼むと、私の能力が伸びないので、杖は見学だ。


便利な魔法を開発すればいいのかもしれないが、魔法は万能じゃない。


魔力に限界があるし、強い相手や、魔道具によっては、無力化されてしまう。


エルフの里では、地味魔法も印象薄弱も、ぴくりとも機能しなくなった。


必要ないだろう? と、アルケ様にはにっこり言われてしまったが、反論できず。


アルケ様は、ちょっとねー、意地悪っぽいのだ。


ふと、視線を感じ、咄嗟にしゃがむ。


ヒュン、と何かが脇をかすめた。


ぽすっと何かが草地に落ちる。


また視線。右に避ける。


「……」


目隠しを外して振り向くと、アルケ様が楽しそうに、木の実を手にしていた。


「もう、終わりか」


「えっと?」


参加したいんですか? ヒマなんですか?


ポイッ。ひょい。


ポイッ、ひよいっ。


ポポポイッ。


「わわわっ」


遊んでない。


遊ばれてる?





体力もつけるべきと、毎朝里の中を走らされた。


借家の庭に、小さな畑があって、薬草を育てたり、野菜を育てたり。


ヘアオイルや石鹸、美容液も作った。


お姉さん達に、裁縫も習った。


エルフの昔話や、竪琴の弾き方も、教わった。


魔法の使い方も。


杖術も。


木登りも。


弓は……うん。





ひと月過ぎる頃には、すっかりエルフの里での暮らしに慣れていた。


エルフらいふ、最高です。




「ラデン様〜」


お姉さん達と、とても親しくなったよ。


一緒に、お風呂に入って、毎日一緒に寝るくらい。


三人とも、とってもいい匂いがします。花の香りかな?


むっふふ〜ん。


たまに様子を見に、アルケ様がひょっこり現れるんだけど、段々眉が寄っていってるような。


気のせいだよねっ。


……ね?





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