第17話

「ふわああぁぁ……っ」


エルフの里は、天国のようだった。



一面、緑の草が生え、花が咲き、蝶々が舞っている。


空気は澄みきって、綺麗な小川があちこち流れ、果物の樹木や、薬になる樹木が植えられている。


木造の小さな家が離れて建てられ、小さな畑があちこちあり、里の中央には、高い木がそびえていた。


住民のエルフは、当然美男美女ばかり。


気候は過ごしやすく、風は気持ちよく、みずみずしい。


大森林で見かけた森とは、全く植生も、空気も違う。


まるで別世界の、美しい里。


「ラデン様の荷物、こちらにあるの」


「あっ、テント!」


三人の美女エルフに案内されて、私はテントを収納した。


突然消えたテントに、お姉さん達がびっくりしている。


「え……消えたわ」


あっ、しまった。


「私のスキルです! 空間倉庫みたいな」


「まぁ……っ、凄いのね」


「あの、私の名前、呼び捨てでいいですよ?」


なんで、様呼び??


お姉さん達は、困ったように顔を見合わせる。


「アルケ様が、賓客扱いに決められたから……」


「そうね」


「あきらめて、慣れてね」


えー。


里を軽く案内されたあと、元いた家に戻って来た。このまま、この家を使っていいらしい。


この家だけ、蔦で編まれた感じで可愛い。


「狩場とか、水場の使い方を教えるわね」


里の外に、野生動物が豊富な森があるらしい。


「か、狩りは……できません……」


「あら?」


なんか、イキイキと弓矢とかも用意されたけど、無理です。


「弓くらいひけないと……せっかくだから、覚えたら?」


「……はぁい……」


アイテムボックスに、ご飯はたくさん入ってるけど、ダメですか?


エルフは、やっぱり弓なのね。


里には、腰に剣をさげた人もいる。


「あれは、見回りよ。必要ないけど、一応ね」


「美味しい果物を、収穫しましょうか」


「薬草はね……」


お姉さん達が、いっぺんに喋る。


言葉も態度ものんびりだけど、あれもこれも、聞くのは大変だー。


なんか、デジャブ……。






歓迎の宴は、翌日の夜、開かれた。


やっぱり白い衣装を着せられて、髪や服にいっぱい花をつけられ、花だらけに。


クスクス笑うアルケ様の隣に座らされて、すごく緊張しながら、たくさんのエルフさん達に優しく話しかけられた。


エルフのお酒もすすめられ、飲んでみた。


花の蜜が入った、甘い果実酒にちょっとクラっとしたけど、スッキリして美味しい。


「……飲みすぎるなよ?」


隣から、心配そうな声。


「だいじょーぅですぅっ」


他のエルフさん達だって、飲んでるもんねー。


それにしても……。


ふわふわしながら、私は目の前の光景を眺める。


こうも、美男美女のエルフが集まって賑やかに談笑する様子は、夢みたいだな。


この里は、平和なのだろう。


良い里だ。




「ラデン?」


「ふぁい?」


気がつくと、アルケ様が私の頭を撫でてきた。


優しい手つきに頬がゆるむ。


「……手触りの良い髪だな」


「そりゃあ、ラデン特性のへあおいる、使っれますからっ」


「ふむ?」



かがり火が炊かれ、宴がたけなわの頃、誰かが唐突に歌い始めた。


竪琴を手に、語るように歌われたのは、神々の昔話だ。




『 むかし、昔


美しい、光の女神がいて


月の道を通り、地上に降りてきた


あまりにも、花が美しく うたうので 』




綺麗な、不思議な韻律の歌はエルフの言語で語られ、夜空に吸い込まれていく。


ちょうど、歌の通りに、月灯りが差してきた。キラキラと。


歌に、誘われたように、誰かがついっと踊り出す。


美女と、美男子の美しい踊りだ。


ゆっくり、ゆったり、月の光をまとって。付かず離れず、追いかけるように。


幻想的な光景に、目が釘付けになる。



『 光の女神の美しさ


あまりに輝かしく、尊く


大地の神が目を覚まし、とらわれた


花に、眠りの歌を歌わせて


大地の神は、光の女神をつかまえる


空に帰すまいと、婚姻の……印を… 』








手の中から、杯が滑り落ちる。


音楽が遠のく。


ぐらついた体は、誰かに優しく抱きとめられ。





「───そなたの為だ」


耳元で、密やかに呟かれた。
























「───ハッ……!」




黄緑色の、蔦の天井。


隙間から、陽の光が差し込んでいる。


ピチピチと、小鳥のさえずりが耳に心地よい。


「…………」


ちょっと待って、待って……っ。


左右の腕に、なんだかなめらかでやわいぬくもりがあるんだけど……っ!


おそる、おそる、視線をめぐらすと……。


すやすやと、エルフお姉さん達が私の腕を抱きしめて、眠っていた。


一人は片脚を抱きしめている。


かすかに、お姉さん達からお酒の香りがする。


はぁ、と安堵のため息が出た。


あーびっくりした。


杖は珍しく、傘立てでじっとしていた。




エルフも、酔っ払うんだなぁ。


なんとかお姉さん達の抱きつきから脱出して、外に出てみると、草地の上でみんな寝転んでいた。

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