第14話

別の宿屋を地図で探しながら、市場で雑貨や、食料品を買い漁った。


リュックに入れるフリをして、アイテムボックスに入れていく。


平民町の、門の近く、横道を入った所に、こじんまりした宿屋を発見。


地図さんのおすすめだ。ここにしよう。


得体の知れない怖さは、この世界をよく理解してないからだ。


私の方が、この世界の異物なのだ。


気をつけないと。






「いらっしゃい、泊まりかい? 600ルツだよ」


愛想のないおば様が、宿屋の女将さんらしい。


一階は食堂、二階が客室、三階は宿屋のひとの住居のようだ。


宿屋の経営は、おば様とご主人だけ。


部屋数は六部屋で、宿泊客は、ひとり。シーンとしてる。


「二泊、お願いします」


料金を払って、鍵をもらい、階段を上がる。


建物は木造で古い。あちこちギシギシ鳴っている。風通りが良い。


辺境都市だけあって、人の出入りが多いのか、こうした古い宿屋が50はある。


新しく大きな宿屋や店舗は、町の大通り中心に集まり、外壁近くや、町の奥は古くて小さな建物ばかり。


二階の窓から、ちょうど建物の隙間越しに、土色の外壁が見える。


ざわめきは遠くて、静か。


さびれてて、いい宿屋だね。


さてさて、仕切り直さないと。







「杖よ……杖以外になれる? たとえば、腕輪とかー、ネックレスとか、目立たないアクセサリーに」


借りた部屋に結界を張り、杖と対面する。


ふわふわベッド脇に浮き、右に左にくるくる回って、杖は頑張ってるようだった。


じっと待つ。


待つ。


10分くらい待った。


ようやく、シュルシュル蔦がほどけて、考えながら、私の左腕に遠慮がちに巻きついてくる。


「おっ」


締め付けないように、動きを阻害しないように、最新の注意を払ってくれてるのがわかる。


ちょっとくすぐったかったが、我慢。手首から、脇の下まで蔦が覆い尽くした。


左腕だけ、蔦分太くなったけれど、長袖に、ローブを着れば充分、隠せるね!


「ありがとう、杖! お利口さんだね!」


撫でて褒めると、とても喜んでるのが伝わってきた。


とりあえず、町中ではこの状態で過ごしてみよう。


杖を隠したらいけないなんて、辞書には書いてなかった。


さらに、念を入れる。


「うむむ……意識されないように…『気配を空気並に、悪意のある相手からは見えない、印象薄弱!』」


ピカッ……。


淡い光が私を包む。成功かな?


ちょっと町を歩いてみよう。





地味アンド印象薄弱の効果か、私から話しかけない限り、注目されなくなった。


杖を隠してるせいも、あるかも知れない。


屋台で色々買い込みながら、市場をじっくり回った。


住民や、冒険者も、杖術師すら、私に気付かない。よしよし。


試しに、気になっていた冒険者協会に、行ってみよう。


協会登録は、重ねてできる。年齢制限は、なかったはず。


入り口は大きく、開きっぱなしになっている。


武装した人が多く、ぶつからないように、奥のカウンターに並ぶ。


特に何事もなく、登録できた。


薬草採取の依頼があったので、ついでにちょっと出して、初依頼も済ませる。


食事処は二階のようだ。


誰にも注目されないのをいいことに、売り場や、素材卸場所にも行ってみた。


売り場には、薬草や、冒険に必要なものが売ってある。


傷薬や、毒消し、血止め、痛み止め。塗り薬が多い。


荒縄のロープや、ピッケルみたいなものや、手袋、タオル、皮袋、虫除け、よく分からない物もある。


卸場所は、天井の高い倉庫のよう。匂いがキツい。奥で動物を解体している。ちらっと覗いて、さっさと離れた。


こんなにウロチョロしてるのに、誰も見て来ない。


イイネ!


てくてく冒険者協会から出た所で、斜め横から走って来た人に、ちょっとぶつかってしまった。


よろけたが、なんとか踏みとどまる。


なんか、急いでいたようだ。


何かあったのかな?


振り返ると、協会の中がざわめいた。


「どうしたっ!?」


建物からはちょっと離れて中の様子をうかがっていると、私にぶつかった人が、真ん中あたりでドサリと崩れた。


一瞬、しいんと静まり返る。


「ア──」


ぱら……と何かがこぼれる。


砂粒……?


次の瞬間には、その人の体が内側から、爆散した。


ペチャリと外まで、肉片が飛び散った。いや、灰色に変質した、乾いた欠片になった。


何アレ。



「……砂嵐だ!」


「燃やせっ!」


「火だ! 早くッ!」


冒険者達の反応は素早い。何人かは建物の外に走り出て、うごめく灰色の塊を燃やす。


住民に避難を叫ぶ者。


慌ててどこかへ走っていく者。


冒険者達の尋常ならざる反応が、町の人々に伝染していく。ゆったりした時間が、急激に壊れていく。


みな、血の気を失った顔になって、逃げ出す。


「術師協会に連絡いれろっ!」


「伯爵家にもだ!」



私は道の端に後ずさり、邪魔にならないよう身をすくめるしか出来ない。


えーっと……鑑定さん、知りたくないけど、アレは何?


二級自然災害、砂嵐───生物を、砂に変質させる?


砂だから、物理は効かない。魔法なら、対策できるかも知れないが、一級杖術師の、風使いが三人は必要。


風で、遠くの地に、吹き飛ばせば災害は防げると。へえ。


防げなければ、この地は砂漠化すると。ふへぇ。大変だね。


えっ、今回は、人的災害?


なんで??


……術師協会に、砂嵐を呼ぶ陣があるぅ……?? はあ?



はああああー!?





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