第13話

この世界には、身分制度がある。


各国ごとに多少の違いはあれど、大まかに、王族、貴族、平民、奴隷に分かれている。


そして、この世界には、本当に神様達がいらっしゃる。


びっくりだね。


神様もたくさんいて、神様達にも階級がある。


最高神、上級神、下級神。


加護杖をもたらしてくれる神様は、上位神様のひとりの『運命神』らしい。


そして、上級神は、『契約神』『運命神』『恋愛神』。


下級神は、たくさん。


辞書には、そんなに細かくは書いてなかったけれど。


神からの加護にも、ランクがあるのだ。


そして、この世界で絶対的に正しいのは、神様なのだ。


神様に逆らったら、生きてはいけない。






「私は、イリヤ様をお慕い申しておりますのよ! その私の想いを踏みにじったお前が、悪いのですわ!」


えーっと?


何コレ。


「マーラさん、落ち着いて。気持ちは嬉しいけど、僕はアガルトのレディみんな、大事なんだ」


「先輩、さすがっす。尊敬します!」


「イリヤさまっ……!」


なんか、ピンクの空気が振りまかれている。


詰所の狭いスペースで、私は言葉を失い、眼前の成り行きを見ている。


なんだろう、コレ。


「イリヤさまが優しいからって! 協会にも顔を出さない子供が、イリヤさまのお仕事を邪魔してるのは、見過ごせませんわっ!」


うろんな目をイリヤさんに向けても、彼はニコニコしてるのみ。


それどころか、可愛いなぁとマーラさんを眺めている。うわぁ……この男。


さっきの、杖で殴りかかった件は、全く話に上がらない。


問題視もされてない。


ただただ、マーラさんがいかにイリヤさんが好きかを、聞かされる。


イリヤさん達も、まるで当たり前みたいに聞いている。


周囲を通りかかる、他の領兵士もだ。


ちらっと思い出したのは、時事問題の内容だ。


重要なのは、神様。


───契約と、運命と、恋愛は、何より尊い。


この言葉の意味が、分からなかったのだ。ただの比喩か、何かかと。


(……マジですか)


つまり、犯罪よりも、恋愛が認められる、という……。



私はさっさと、頭を下げた。


「マーラさん、すみませんでした。私、まだこの町に来たばかりで……知り合いもいなくて。イリヤさん達とは、関わらないように気をつけますね」


「まっ……ちゃんと言えるじゃない。初めから、頭を下げればいいのよっ!」


偉そうに胸を張る彼女に、ひたすら謝って、詰所から退散した。


地味魔法、地味魔法、地味魔法──。


あ、でも杖で目立つのか。


やれやれと宿屋に戻ってくると、三姉妹が楽しそうにおしゃべりしていた。


「まさか、本当に行くとは思わなかったよねー」


「運が悪い、しか言わない占いに、人種には火傷必須な屋台に、センス悪い服屋だもんね」


「騙される運命なんじゃない? 久々に笑ったわー」


「運命なら、仕方ないよねー」


「あ、そろそろ休憩終わりだね、母さんがうるさいから、行こっか」


パタパタと足音たてて、三姉妹は厨房に消えていった。


食堂では、他の宿泊客が、たむろしている。


「杖術師ってのは、本当におっかないよな」


「帝国の噂聞いたか? 皇太子がなんでも、術師を片っぱしから召し上げて、自分のものにしとるらしい」


「本当かっ? 羨ましい話だなー。加護持ちを奴隷にできりゃあな……」


「お前のツラじゃあ、無理だって!」


出来るだけ、気配を消して部屋に戻り、荷物を持って、フロントに鍵を返した。


外出していたらしい、アンゼさん達とすれ違う。


「あれ? ラデンちゃん?」


幸せいっぱいなカップル。この二人からは、ほんわか空気しか感じない。


「ちょっと、他の宿に」


笑ってごまかす。


ちょっと、本気で対策考えないと。


───異世界の常識、舐めてたわ。






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