第12話
ふわぁ……眠いよー。
おはようございます。ラデンです。
なんとか起き出して、再び町の中を散策しました。
雑貨屋さんでは、ガラス瓶をもう少し購入。
今日は、布地屋さん? に来て、白めの生地を二メートルほど買い込み、針と糸もゲット。
宿屋の部屋にて、裁縫タイム!
服がね。やっぱり着慣れない異世界の服は、肌触りがあまり良くないのだ。
気になると、無視できなくなり、自分で作る事にした。
下着もちゃんとしたい。
試してみたけれど、ゼロから物を作るのは流石に無理だったため、材料を揃え、品質を魔法で良くする事で、問題は解決された。
とりあえず、下着を二着。パジャマを一着。
「えーっと……『伸縮性のある、通気性と肌触りの良い生地に! 私にピッタリサイズで! パンツとタンクトップ!』」
ピカッ?
あれ、なんか魔法から戸惑う気配が……大丈夫。ちゃんと出来てる。よしよし。
「『サラサラ素材の寝やすいパジャマ! 水玉模様で!』」
ピ、ピカッ??
魔法を使うたび、なんか杖が喜んでくるくる回ってる。楽しいの?
これなら、生地さえ買っておけば、好みの服が作れるな! とニヤニヤしていたら、三姉妹が呼びにきた。
「ラデンちゃーん、なんかお客さんよー」
「なんか怒ってるー」
「術師協会のひとー」
ん?
何事?
「───貴方が、杖術師……ですって……?」
呼ばれて顔を出したのに、私の姿を目にした途端、イヤな表情をされました。
ローブ姿の、二十歳くらいの女性だ。紺褐色の、不思議なソバージュの髪色。眼が緑だ。ちょっとキツ目なそばかすがあるお姉さん。
もちろん初対面です。
ジロジロと眺められ、私の杖を見て眉を寄せる。
うん。わかりやすい。
「なんで、こんな子供が……っ」
三姉妹はオロオロしているが、口を挟めないのか黙っている。
場所は宿屋の広い食堂の隅っこ。何人か、宿泊客もくつろいでいたけれど、なんだなんだと視線が集まってきた。
私は、わざとらしく、首を傾げた。
「どちら様でしょうか?」
「なっ、私を知らないというの! 緑のマーラよっ」
鑑定さん、教えてー。
なになに、ほほう。
術師協会の学校があり、そこそこ有名学校を卒業した、緑属性の二級術師さん、と。
そこら辺は、あの辞書にも載ってたね。
緑属性というのは、杖の属性だ。確かにマーラさんが握る一メートルくらいの杖は、緑っぽい。
私の杖は、鮮やかな緑色をしている。出来たばかりだからかな?
嬉しかったのか、手の中で跳ねそうになるのを、ぎゅっと握って押さえた。
危ない危ない。じっとしててね。
「マーラさんですね、私はラデンです。なにか、ご用ですか?」
「なっ……失礼よ!」
いきなり怒り出した。訳が分からない。三姉妹を見たけれど、首を横に振られる。
「ご用がないなら、もういいです。忙しいので」
「あっ、ちょっと! 待ちなさい! なんで術師協会に来ないのよっ!」
ん? どういう意味だろう?
自分の部屋に戻ろうとしたけれど、マーラさんが追い掛けてくる。仕方なく、足を止める。
「協会に、特に用事ないんですが……」
所属はしていても、義務はないのだ。
お金も、女神様からもらったのがあるし、あまり雰囲気好きじゃない。
そのうち、やることなくなった暇つぶしに依頼は受けに行くかもしれないけれど。いまは気分が乗らない。
マーラさんはプルプル震えている。何がそんなに気にいらないんだろう。わからん。
肩をすくめて、背中を向けた。とたん、誰かが叫ぶ。
ヒュッと風を切る音がして、何かが後頭部あたりで弾かれた。
私の杖が、ほどけて、私を守るように広がっている。
振り向くと、ぽかんと口を開けたマーラさんが、杖を私に向けて固まっていた。
私の杖がキラキラ輝く。シュルシュルと蔦がうごめく。ヤル気満々な杖を、私はなだめた。
一歩、マーラさんに歩み寄った所で、食堂の入り口から誰かが駆け込んできた。
イリヤさん達だ。ちょっと表情が引きつっている。驚愕に見開かれた眼差しとぶつかって、私はついクスッと笑ってしまった。
良いタイミングで現れるもんだ。ずっと見張ってるだけはある。
「──イリヤさん……っ」
「! マーラさん?」
青ざめていたマーラさんが、さっと身を翻して、イリヤさんに抱きついた。
「助けてっ! あの子がいきなり襲ってきたのよっ!」
はああー?
三姉妹も、食堂にいた他の客も、唖然として見ている。
いや、最初に私の後頭部狙って、杖を振り下ろしたの、マーラさんだよね?
あきれていると、困ったようにイリヤさん達が、私を眺めた。
「……ちょっと、詰所に行こうか」
えっ、なんで?
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