第11話
「今日はどうしよう……」
翌日。宿屋のベッドの上で、私はゴロゴロしていた。
朝ごはんは食べ終えている。大きな宿屋のため、食事はビュッフェ様式だ。
デザートが見当たらなかったのは残念。
宿屋の場所が、ちょうど大通り沿いにあり、領兵士さんがしょっちゅう宿屋の前を通る。
朝ごはんを食べてたら、何気にイリヤさん達が覗きに来て、いっぱい食べなさいと、頭をなでなでされた、まる。
とりあえず、魔法を作るかな?
それとも、商売用の商品でも、考えるかな?
「んー……よしっ」
新しい町に来たばかりだし、色々見て回りたいので、市場調査をしよう!
鍵をフロントで預け、テクテク外に出たら、イリヤさん達が待っていた。
「お出かけかな?」
「おはよう、ラデンちゃん」
「……おはよう、ございます?」
いやさっき、朝の挨拶はしたよね。
横を通り過ぎようとしたら、当然のようについてきた。
そうですか、今日もですか。
せっかく地味魔法してるのに、領兵士を二人も引き連れてるから、通行人に何事かと見られるという。
どうしたのと聞かれたイリヤさんが、保護者代わりと笑って答え、納得されている。
くそぅ……買い物しても、アイテムボックス使えないじゃないか。ぷんぷん。
時間的には、10時くらいだろうか。町中は、それなりに人が多い。
オシャレな喫茶店、美味しそうなパン屋さん、なにかの雑貨屋さん。
武器屋さんとかあるよ。あ、冒険者協会発見。建物は頑丈な石造り。ゆっくり歩いて、ついジロジロ眺める。
武装してる人が出入りしている。わー、筋肉凄いなあ。
綺麗なお姉さんがちょうど出て来て、目が離せなくなった。筋肉が! 胸が!
わーお!
お姉さんと目が合ってしまった。ウインクされたよ! ふわぁ。
あれ? お姉さんがこっちに来た。
「イリヤ達じゃない、今日は子守り?」
私の頭を飛び越えて、図上で会話が始まる。
目の前に、お姉さんの胸が……!
「おはようございます、ベラさん」
「子守り……」
三人に見下ろされた。なにかな?
「んー? お嬢ちゃん、まさか杖術師かい」
「はいです」
意外そうな表情をされた。
「冒険者協会に、用事かい?」
「いいえです」
なんとなく見てただけだし。
私はきょろりと周囲を見回す。
んー、あっ、お花屋さん、発見。
てくてく。
「あっ」
なんか三人で話し込みそうな様子だったので、放置してお花屋さんを覗き込む。
おー、けっこう種類いっぱい。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん」
すぐに、見慣れた赤い花に釘付けになる。
「これ……椿……?」
「ん? この花は、カメリアだよ」
おおー! 鑑定鑑定! ──椿発見!
これは……アレが作れるのでは?
「このお花、全部ください!」
「へっ? あ、ありがとうー」
来る時にあった雑貨屋さんで、木製のカップと、小さなガラス瓶を購入。あとは、布屋さんで、端切れをゲット。
果物屋さんでオレンジぽいのを購入。
あとは、部屋に戻って実験だー。
ウキウキと宿屋に帰る私を、慌ててイリヤさん達が追い掛けてきたが、もう気にしない。
鍵を再び受け取り、急いで部屋に引きこもる。
さすがに部屋の中までは、誰も邪魔しに来ない。
テーブルの上に材料を乗せて、私は腕まくりをした。
よーし、作るぞーっ。
まずは、買ってきたばかりのカメリアの花から、椿エキスを取り出す。
オレンジを剥いて、皮から精油を取り出す。
あとは、適量を混ぜ混ぜ。
自由魔法凄いな、蒸留機もいらない。空中でいい香りを放ちながら、私専用のヘアオイルが出来ていく。
ガラス瓶に入れて、完成。
簡単にできたよ。ムフフ。
シャワー室の石鹸だと、あまり肌に合わないし、髪用じゃないし、不満だったのだ。
せっかくだから、石鹸も自分用を作るかな。
えーと、木炭とか、売ってるかな?
宿屋のフロントに行って、女将さんに聞いてみたら、宿の木炭を無料でもらえた。
よし、お花を他のも買ってこよう!
今日は色々、製作だ!
椿油のヘアオイル(ラデン専用)
ラベンダーとミルクの石鹸(ラデン専用)
ハーブの保湿美容クリーム(ラデン専用)
「……できた!」
テーブルの上に、三つの品が乗っている。
色々作ってる間に、スキルも増えた。精製と付与と錬金。
かなり魔力を使ったなあ。集中力が切れて、へなりとベッドに突っ伏した。
ああ疲れた……楽しかった……いい香りが部屋に充満してる。窓開けとこ。
お腹が減ってる事に、遅まきながら気付く。
お昼は、宿屋では出ない。頼まない限り、自分で用意しないとだ。
アイテムボックスにストックしてあるサンドイッチを食べた。
時間を確認。夕方四時くらい。
夕食まで、ひと休みしよう。そうしよう。
ぐー……。
コンコン、と、ドアをノックする音で、目が覚めた。
「ラデンちゃんー? 夕食食べないのー?」
三姉妹のうち、ひとりの声だ。
ムクリと起き上がる。時間が……八時過ぎてる。しまった。
「いま行きます!」
慌ててドアを開けると、末っ子だった。
「あれ? いい匂い?」
くんくんと、匂いを嗅がれる。
「色々作ってたの、あ、部屋は汚してないよ」
「うん、今日のご飯は、ボア肉よー」
食堂に降りると、私で最後だった。慌ててカウンター席に座る。
一人分を残しておいてくれたみたいで、急いで食べる。
「慌てないで、ゆっくりお食べ」
女将さんに笑われた。
食堂の片付けを三姉妹がテキパキしてる中、眠い目をこすりながら食べ終えた。
「あ、ラデンちゃん、さっきのいい匂いは、何だったのー?」
片付けが一段落してか、興味津々に聞かれた。
「なんのはなしー?」
「いい匂いって?」
三姉妹に包囲された。ちょうど、女将さんが席を外していた。
モグモグモグ、ごっくん。
「オレンジ食べたの。残りの皮で、ジャムを作ったから、香りが部屋に残ったみたい」
「オレンジかー」
「美味しいよねっ」
ちょっと疑問顔をされたが、香りはオレンジが強かった。それ以上は、分かるまい。
「ご馳走様でしたー!」
たったか部屋に退却だ。面倒は起こしたくない。
次から部屋での作業は、匂いにも気をつけよう。
「『浄化……クリーン?』」
ピカッ。
香り付けはやめとくか……自分の拠点を手に入れてからのが安全だな。
でも、作ったんだから、さっそく使うぞ、石鹸! ヘアオイル!
服を脱いで、シャワー室に飛び込んだ。
ゴシゴシ、キュッキュッ、シャワー。
「さっぱりー、すっきりー」
お陰で、ピンクプラチナシルバーの髪が、ツヤサラです。お肌もしっとり。
ラベンダーの香りを満喫しながら、ベッドに潜り込む。
眠気が急に襲ってくる。魔力使ったせいだな……でもお腹いっぱい、幸せ。
お布団ふかふか。ほっこり。幸せ。
おやすみなさい……。
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