第9話

まず何をすべきか。


宿屋のかしまし三姉妹に、アガルトの名物を聞いてみた。


「名物? ……占い師のおばさん?」


「屋台なら、にくにく屋ね!」


「可愛い服屋さんもあるわよっ」


「ふむふむ」


それぞれの場所を聞いて、平民町を散策開始。


占い師のおばさんは、裏道の奥に小さな店を構えていた。


というか、近所のおばさま方が集まり、噂話の真っ最中。


「おや? お客さんかい? どれどれ……」


小太りのおばさまは、普通に主婦らしい。ただ、スキルで『占い』を持ってるとか。


なにそれ、欲しい。


不思議な鉱石に手をかざし、私をじっと見詰めたあと。


「……男運が、良くないね。気をつけた方がいい……とんでもない、災難に見舞われるよ」


「ええー」


チラッと頭に浮かんだ。鬼イケメンの顔。……いやいやいや。


災難って、これからなの? 男運って、まだ幼女なんだけど!


そりゃあ、将来的には……いい相手を見つけてみたいけど。


ガックリする私を、おばさま方は温かく見つめてくる。


「……くっ、いいもん! 仕事に生きるもん……っ」


お代を払って、次に行く。


てとてと町中を歩いて、大通りへ。


一番、人が少ない屋台へ。赤い屋台、ここだな!


「らっしゃい」


「……ひとつ、ください」


普通に、お肉の串焼きだ。ただ、サイズがデカい。そして赤い……。


な、なんか危険察知が働いている?


「あ、子供にはちょっ」


「いただきま──! !? !?!」


口から火が出た。


近くにいた通行人が、何人か振り返った。


「やばい! 水! 誰かっ」


「子供に火肉を食べさせんなっ」


「領兵さーん!」


屋台のおじさんが青ざめている。町の人が兵士さんを呼んできた。


誰かが水を、私の顔にバシャりとかけ、火が消えた。


(『治癒! 痛くない熱くない辛くないよーに、治してー!』)


「お嬢ちゃんっ、大丈夫かっ」


「……けほっ、大丈夫れす……っ、すみませんでしたっ」


「火肉は、人族には無茶だぜ。看板見なかったのか?」


看板、あ、屋台の上か。なになに……? 火豚の焼肉、火属性獣人向け専門? 人族は注意。


ぼう然と眺めていると、濡れた顔を布で拭かれた。


いつの間にか、茶髪のお兄さん達が、制服姿の領兵士さんが二人、そばにいる。


「火傷は!?」


「治癒院へ───」


「だっ、大丈夫れすっ! ご迷惑かけましたーっ」


逃走!


……出来なかった。


領兵士の詰所まで、抱っこで運ばれ、火傷がないか念入りに確認された。


うーっ! 恥ずかしい……。


「可愛い顔が、無事で良かったな」


「はぅ……」


椅子に座った私の頭を、領兵のお兄さんがなでなでする。


穏やかな、わりとハンサムな兵士さんだ。


「お嬢ちゃん、名前は? 見ない顔だね」


あれ。地味魔法、仕事してるかー?


なんか、顔を覗き込むお兄さんが、笑ってるのに怖いぞ?


「先輩、一応、治癒院の人呼んできますね!」


「頼む」


もう一人の兵士さんは、バタバタと外に走って行ってしまった。


え? 火傷ないよ、自分で治したもん。見れば分かるよね?


内心焦っていると、残ったお兄さんがにっこり笑いかけてきた。


「さて、見知らぬお嬢さん。それは隠蔽魔法かな?」


「……!」


バレた?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る