第6話

付かず離れず、追跡してくる気配は五つ。


魔力の残りを確認して、作ってあった魔法を起動する。


(『マップ機能、周囲の地図表示と、敵を赤点で表示!』)


ピコンと、視界に簡易地図が浮かぶ。


さりげなく後ろを振り向いたけれど、視界には人の姿は見えない。木々ばかり。


でも、地図には赤点がしっかり、400メートルくらい後ろに表示されているのだ。


拡大表示できるかな? おっ、できた。


斜め上からその地点を見下ろすと、冒険者の格好をした、いかにも荒くれ者、といった男達が慎重に歩いていた。


杖は持ってないから、見たまんま、冒険者だろう。


杖術師と、冒険者は明確に異なる。


杖術師が、神の加護を持つ特別な存在なら、冒険者は誰でもなれる、ならず者。


そんな連中が、私を尾行する目的はなんだろう。金品の強奪か、犯罪目的か。


いまから町に戻っても、彼らに見つかってしまうに違いない。


「はぁ……どーしよう……」


この場をうまくしのいでも、町に戻ってからも狙われる可能性は高い。


私は行く手の森の奥を眺める。


このまま真っ直ぐ進むと、私がレイヴィに出会った、あの大草原に出る。


草原の先は、大森林だ。


……うーむ。


薬草をたまに見つけては、採取しながら悩む。


普通なら、悪い相手は遠慮なく、撃退する流れだろう。


だがしかし。今の私は、か弱い幼女なのだ。


あ、間違えた。か弱い、美幼女なのだ。


いくら杖があるとはいえ、万能ではないし。


女神様から、便利な自由魔法をもらってはいても、魔力には限界がある。使いこなせてもいない。


「……よし」


杖をお尻の下に敷き、横座りする。片膝の下に挟むように、しっかりと杖に掴まる。


浮遊魔法を発動。


バランス取るのはちょっと大変だけど、ふんわりと空中に浮いた。杖が嬉しそうに、きらっと輝いた。


「移動だけなら、そんなに魔力使わないし、飛べば早い」


迷ったら、自分の好きな選択でいい。


「逃げるが、勝ちだよねー」


今の私は、自由なのだ!


方向を支持するだけで、杖は勢い良く飛び出した。髪がサラサラと、背中に流れる。


ぐんぐん先に進む私に気付いてか、赤点が慌てているが、すでに遅い。


私は、鼻歌を歌いながら、木々の合間を飛んで進んだのだった。
















───夕空に、星が流れ落ちる。


美しくて、冷たい星明かりだった。



はるか地上を上空から眺めやりながら、黒髪に青い瞳の青年は、前方に見えてきた城塞都市の中ほどを目指す。


小国にしては、かなり栄えている方だろう。日暮れの青い闇にのまれ、輪郭が溶けてきている都市は、無防備に彼の目の前に、さらされている。


上空を、高度を維持して飛べる杖術師など、ほとんどいない。


だから、だれも気付かない。


兵士達は門に固まり、早くも酒を杯に満たし、空など見てもいなかった。歓楽街から、女達の嬌声が響く。


なんと無防備な国か。


今日まで続いた安寧が、明日もあるとは限らないのに……。


皮肉げに、杖術師の青年は笑う。


杖を、大剣に。


空から降り立ちながら。


「───いまから、任務を遂行する」


独り言のように、虚空に呟くのだ。





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