第5話

たっぷり寝て、ゆっくり起きたら頭がすっきりしていた。


杖が、ふらふらと私の方に飛んでくる。


「おはゆー、杖ー」


呼びかけると、くるくる回って喜んでる。ううむ、元気だなあ。


着替えて一階へ降りて行くと、あらかた朝食が終わりかけていた。


慌ててカウンターに座る。


「あら、おはよう、ラデンちゃん」


「おはようございます!」


ご飯ご飯〜。


パンにスープ、サラダに果物のジュース。


高級宿屋からはちょっとグレードは落ちるけど、普通に美味しい。もぐもぐ。


パンに塗る、バターとかは見当たらず、果物のジャムがある。ただ、お砂糖は高いらしく、甘くない……酸っぱい。


飲み物は、果実水か、大人はワインを飲んでいる。


のんびり朝ごはんをいただいて、いったん部屋に戻った。


魔法で、試したいものがあるのだ。


多分、できるはず───。


魔力の残り量は満タン。一晩寝れば復活するらしい。


杖に見守られながら、イメージを固めていく。


「……よし、『私だけが使える、無限のアイテムボックス的な! 時間停止つきの、整理整頓つきで!』」


ピカーン!


ごっそり魔力が失われた。こてんとベッドに倒れる。ちょっと頭痛。


あ……危なーっ! 意識が遠のきかけたよ!


でも、上手くいったのは感覚で分かった。


10分くらい休んでから、のそりと起き上がる。


「はぅ……どれどれ」


カバンを開ける感覚で、手元に指を走らせる。……空間に、私にだけ見える穴が空いた。


希望した通りに、オレンジ色の広い空間が出来ていた。


試しに、寝巻きを入れてみる。


吸い込まれたあと一度閉じ、再び開けて、無事取り出せる事を確認。


よしよし……とりあえず、アイテムボックスはこれでよし。


あとは───。






お昼を屋台で食べてから、術師会に行ってみた。


チラホラと視線が集まってきたけど、気づかないフリをして、二階に上がる。


テーブル席は少し埋まっていて、昼間から賑やかだ。


なるべく静かに壁側を見ていく。


あったあった、簡単な薬草採取!


あれ? 手が届かないぞ……ふんぬーっ!


「取ってやるよ、ほら、これか……?」


ぴょんぴょん跳ねていたら、見かねたのか後ろから誰かが手を伸ばし、依頼票を代わりに取ってくれた。


「ありがとう!」


「いや、……大丈夫か?」


助けてくれたのは、二十歳過ぎのお兄さんだ。一緒に居るのはお姉さん二人。


親切なお兄さんは、腰に剣。お姉さん二人は、短い杖? 持ちだ。田舎出身ぽい、地味な装備。


なんだかお姉さん達にジロジロ見られている。私の杖を見て、眉が寄っていくのを見て危機感を覚えた。


ペコッと頭を下げて、さっさとその場から退散した。


町の出入口から、てくてく歩く。時間的には、二時近く。草原に人はまばら。


いや、まあ、なんとなく気付いてはいたけれど……他の人の加護杖、短いんだよね。


身長より長い杖持ちは、ひとりふたり。


その他の人のは、指揮棒くらいのものから、長くて一メートルくらい。


しかも、手を離しても浮いてる様子がないし、杖に乗って、浮遊してる人も見ない。


……うーむ。


術師会の中で向けられた視線が、半分はあまり良くないものだったんだ。


気にいらない事を隠しつつ、嫉妬や羨ましいといわんばかりの、イヤな眼差し。


鬼イケメンが一緒にいる時は、注目を集めていたのは奴の方だったから、子供な私はあんまり見られてなかったみたいだけど。


ひとりになった途端、町中でも、そんな視線が増えた。


中には、外見を舐めるように見てくる人もいる。


……自分の外見が、かなり目立つのに今日、気付いた。


町の住民も、武装した人達とかも、茶髪や褐色の髪色が多い。


服装も違う。みんな古びた、古着なのだ。綺麗な格好をしている人が、少ない。


目立つ訳だ。


参ったなあ。







町を出てから、離れてついてくる気配がある。


私は薬草を探して、近くの森に入っていた。


偶然ではなく、追跡されているようだ。


やれやれ……さっそくトラブル発生かな?





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