第4話

「あ……ありがとうございました……っ」


おかしいな?


お世話になって、色々、必要な事を教えてもらったのに、何でお礼言うのがこんなに悔しくて、素直に言えないのだろうか。


それはきっと。


「ああ、最後に───もう二度と会う事はないだろうから、オレの事は綺麗さっぱり忘れろよ。いいな?」


冷たい表情と眼差しで、突き放すように言い捨て、背中を向けて立ち去る相手のせいだ。絶対。


後ろ姿まで格好いいってなんだろう。


私はため息をつきながら、奴が見えなくなるまで見送った。


……まだ眠い。


さっきまで、分厚い辞書のような時事本をギリギリまで読み込んでいたから、頭の中がパンクしそう。


ふー……。


───本に載っていたよ、使える貨幣。


それによると、私が女神様?からもらったお財布に入ってた金貨だけでも、

一生遊んで暮らせるらしい。


一種類だけ、見本が載ってない派手な金貨があったけど、奴に渡したその派手金貨はあと二枚あるけど……まあいいや。


鬼なイケメンは町を去っていった。


自由である。


これからは、私ひとりで頑張らねば!


とりあえず……この世界に慣れるまで、この町に滞在しよう。


私はギュッと、杖を握りしめた。


杖が、嬉しがっているのが伝わってくる。可愛いヤツめ。


うーむ、不思議。


ひとりだけど、ひとりじゃない、そんな安心感がある。


手頃な宿屋を探してあるので、今日はとりあえず……ご飯食べて、寝ようかな?






新しく借りた宿屋は、900ルツ。こじんまりとした、古いけれど清潔な宿屋だ。


「あら、お帰りなさい、ラデンちゃん。ご飯にする?」


宿屋のお姉さんは、優しくてのんびりしてる。宿泊客も女性が多い。


私はいそいそと、食堂のカウンターに座った。


夕食は、シチューと丸パン。優しい味にホッとする。


この世界……大陸の主食は小麦だ。


三千年の歴史ある大帝国が東と南を支配していて、大穀倉地帯がある。


現在、私がいる町は、ほんの三百年の歴史しかない小国の端っこ、大森林を挟んで西にある、ハクシュラ領地のラーツ町。


大森林は危険な動物や魔物がいっぱい。


ただ、魔力値が濃く、貴重な薬草や果実が採取できるので、冒険者がたまに踏み込むらしい。


だから辺境に近い割に、人がそこそこ行き交い、物資が流れ、生活はして行ける。


一般的な庶民なら、この町で十分暮らせるだろう。


もぐもぐとご飯を食べながら、私はどうすべきか思考する。


まずは、この世界に慣れるために、術師会でお仕事をこなし、ノウハウを学ぶでしょ。


女神様にもらった資金とは別に、お金を稼いでみたい。


他の町とか、都市にも行ってみたい。


個人でも商売は可能と分かったから、何か私だけの商品を、考えるのもイイネ!


あとは……自由魔法の使い方かな。


「ご馳走さまでした!」


「はーい」


宿屋のお姉さんに挨拶して、借りた部屋にテトテト向かう。


階段を上がるのも、ひと苦労だな。早く大人になりたい。


部屋は、シングルベッド一つと、小さなテーブルのみ。細長い窓。狭いけれど、清潔だ。シャワー室はない。


服を脱いで、薄着に着替えて、ふふふ……魔法の出番です。


「『お風呂あがりのさっぱりに! 清潔? 浄化?』」


ピカーン!


頭からつま先まで、爽やかな感覚に包まれた。リフレッシュ〜。


便利すぎるよ、自由魔法!


魔力の残りを確認すると、ある事に気付いた。


「んん……? 増えてる?」



体力・9/25

魔力・55/250


加護・星女神の加護

杖・星女神の加護杖

スキル・自由魔法、浮遊、杖術、忍耐、暗記、浄化



「ふむふむ……?」



増える分には、いいよね。


「ふわぁ……ねよ」


ちょっと布団が薄いけど、早めに就寝、就寝っと……。









身綺麗な幼い幼女が、一人きり。


加護杖持ちで、世間知らず。


その状況が、どれほど危険なのか……この時の私は、気付いてもいなかった。






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