第8話 魔族の男
ギルド長との話を終えて入り口で待っているアサヒの元に向かう。
「待たせたな。」
アサヒは入り口で扉に寄りかかりながら自分のステイタスカードを眺めていた。俺が来たのに気づいて、ステイタスカードをしまい扉から離れて俺に近づいてくる。
「いえ、全然待ってないですよ。」
「そうか。」
「それよりどうなりました?」
結果が気になっていたのだろう。すぐに聞いてくる。
「話を聞きたいから明日来てくれって言われた。条件はあるみたいだけどどうにかなりそうだよ。」
「そうですか。よかったですね。」
アサヒは何故かホッとしている。アサヒには関係ないことなのだが、何か思うことがあったのだろう。
「この後はどうする?一応、報告も終わったしここで別れるか?」
用は済んだと思うのでこれ以上、一緒にいる理由はない。
「えっと。」
アサヒはなんて返そうか困っていた。
自分から嫌というのが気まずいのかもしれない。
「君が良ければだけど、街の案内を頼みたいんだけど。」
街のことを何も知らないので案内人が欲しかったが、アサヒにも用事がある。無理して頼めないので断られたら一人で街を周るしかない。
そう思っていたが、
アサヒは
「はい!私で良ければ!」
と笑顔で返事をする。
断られなくてよかったと内心ホッとする。
「じゃあ、まずは武器屋かな。」
最終決戦以降、剣が折れてしまい氷の剣で代用していたが、いちいち剣を生み出して消してを繰り返すなんてめんどくさい。
それに俺は剣士だ。一本くらいまともな剣を持っておかないと魔法使いと間違われてしまう。
「なら、私がよくお世話になっているお店を紹介します!」
そう言ってクロストの前を歩き出した。
歩くこと数分。アサヒはこじんまりとした少し古めのお店の前で、
「ここです。」
と止まった。
裏路地では無いのに辺りには人がいなく、避けられている気がした。
「入りましょ!」
アサヒは気分良くそう言うと扉を開ける。
すると、
「いらっしゃい。」
と声が聞こえる。
声の聞こえる方にいたのは角の生えた40歳くらいの見た目の男。
魔族だ。
魔族とは魔法のみを扱う種族のことを言い、魔族という種族の中にさらに魔人、吸血鬼、悪魔、小精霊などという区分がある。なので魔族と言ってもその見た目は様々である。
角が生えてるということは魔人か、悪魔か。
「アサヒ嬢ちゃんじゃねーか。」
アサヒの知り合いか。よくお世話になっていると言うだけあってかなり顔見知りのようだ。
「こんにちわ。おじさん。」
「今日はなんのようだ?」
「クロストさんの武器を売って欲しくて来ました。」
「クロスト?彼氏か?」
「違います!」
すぐさま否定するアサヒの顔は真っ赤だった。
「まあ、何でもいいや。」
「良くないです!クロストさんは恩人で最強の剣士なんですよ!」
「恩人で最強の剣士か。『最強の剣士クロスト』って100年前の英雄と同じだな。」
「はは。よく言われます。」
と誤魔化すように笑う。
「そういえば、確かに英雄と一緒ですね。」
「アサヒの嬢ちゃんはクロストのこと見たことないし、知らないからピンとこないよな。」
「ザズさんは見たことあるんですか?」
「一度だけな。その時はまだ子供でクロストは父親の店に武器を買いに来てた時に見たんだよな。」
子供の頃か。魔族は人間の倍の寿命であるため、100年経ったこの時代でも生きている者は少なくない。
「確か...。アサヒの嬢ちゃんの隣にいるその少年に似ていた気がするぜ。」
似てるというか、同一人物なんだよな。
「同性同名で似ている。クロストさんって英雄なんですか!?」
「うーん。」
どうしようか。本当のことを言おうか悩んでいると、
「クロストは人間だろ。100年も生きてられないぜ。」
とザズが口を挟む。
「そうですよね。それじゃあ、生まれ変わりか何かですかね?」
生まれ変わりか。魔王討伐部隊のあいつらが生まれ変わってこの世界にいたらいいな。
そんなことを思いながら、
「そうかもな。」
と適当に濁す。
「で、今日は何を買いに?」
「片手剣をお願いしたいんですけど。」
「それじゃあ、そこにあるやつか。」
「誰も同じようなものなんだけどな。好きなもん選んでくれよ。」
俺は一本一本剣を持ち、鞘から抜いて刃を見る。
どれも良くできていて、一流の鍛治士であることが伝わってくる。
十本程剣を確かめて、しっくりきた剣を選ぶ。
「これで頼むよ。」
そう言って剣を渡すと、
「それを選んだのに理由はあるのか?」
と聞いてくる。
「どれもいいけど、こいつが一番剣に重さがあった。殆どの剣が軽く鋭い剣だったから、俺には合わないかなって。」
重すぎると振れなくなるが自分にとって最適な重さがある。俺はそう思っている。
「剣に重さが必要か。普段はあまりそんなこと言う奴いないんだけどな。」
「軽いと魔物に深く剣が入らなかったり、軽すぎると対人戦闘で相手の剣に弾かれたりするから俺は重い方が好きなんだ。」
剣による一撃は大切にしたい。それが致命傷になるかならないかで勝負は決まってしまう。今はわからないが昔は
「なんか考えが100年前のやつみたいだな。」
今は違うのか。今は速さで攻めるのかな。なんか古い考えのおじさんみたいな感覚だ。
「祖父からよくそう言われたので。」
「いい祖父だな。」
お金を払うとザズは俺に剣を手渡す。俺は渡された剣を腰に装備する。
やっぱり剣があると落ち着く。
「じゃあ、またくるよ。」
「おじさん。また来ます!」
「おう!」
と俺達は武器屋から出た。
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