第7話 条件

「終わったし受付まで行こうか。」


とアサヒの前まで歩いて戻ってくるとそのまま足を止めずに練習場の出口の方向に歩いて行く。


「あ、うん。」


そう言ってアサヒは俺の後を追いかけてくる。


受付ではシーナが資料をまとめていた。


シーナは俺が受付に来たことに気づいて顔を上げると、


「依頼に関する資料はもうすぐ作り終わりますから、後少し待っててください。」


そう言って再び資料を整理し始める。そんなシーナを黙って見まもる。


それから数分が経ち、

これからどうしようか考えているとシーナは


「終わりました。」


と資料の上に手をのせた。それを見て一歩前に出る。


「えっとですね。まず、これが魔獣に関する依頼です。」


と数枚の資料を目の前に出す。


「周囲に魔獣がいないかと周囲の魔物の状態の調査か。わかった。じゃあ、行ってくる。」


そう言って外に出ようとすると、


「待ってください。他にも知らせなければいけないことが。」


と言われたのでその場で立ち止まり戻る。


「なんだ?」


「えっと、クロストさんについての書類提出についてです。」


そう言って先程目を通さなかった資料を提示される。


「俺の?」


「はい。クロストさんは冒険者ランクSというギルドが把握しきれていないランクの冒険者なので上に確認を取らなければいけないと判断しました。これがギルド本部に送る書類です。」


そう言って俺のステイタスカードに載っていた情報を書き写したであろう書類を取り出し見せてくる。


ギルド本部に俺の存在を伝えるか。


俺のことを知っている人がいるならば話は早いが、この時代にそんな人間は殆ど存在しない。


どう考えてもめんどくさくなるに決まってる。


今はこの世界がどうなっているか確認する必要があるし、ここで行動を規制されるのはあまり好ましくない。


それにあの後、勇者がどうなったのか知る必要がある。


この街に魔族がいるってことは暴走してないと思うが。


「それは君が持っていてくれないか?」


「えっ?」


「上に連絡されると俺の身動きが取れなくなると思うんだ。だから、君が管理して欲しい。」


ギルドの上に出さないで俺のことは隠してほしい。そういうことだ。


「その代わり俺がこの街にいる間は君からの依頼を必ず受ける。」


「それは無理ですよ!」


即答。当然の返事だ。隠蔽などバレたら即クビだろうからな。


「頼む。君が不利益を被るようなことにはしないから。」


「うー。私の勝手な判断で決められることじゃないんですよ。」


このままだとここのギルド長まで話が行きそうだな。絶対知られてはいけない情報じゃないから最悪知られてもいいけど。


「わかったよ。なら、」


しょうがない。諦めるよ。そう言おうとした瞬間、シーナの後ろにかなり体格のいい、ギルドの制服を着た男が現れ俺の言葉を遮った。


「お前がさっきの氷の魔法使いか。」


さっきのせ戦闘を見ていたギルドの関係者か。さっきのを見られていたのなら誤魔化しても意味なさそうだ。


「ああ。そうだ。」


と返事をする。


シーナは振り返って男を見ると


「ギルド長!?」


驚いた。


この人がギルド長だと!


俺も声には出さなかったが驚く。


「どうしてここに。」


シーナは恐る恐るそう聞く。


「トラブってそうだったし、それにさっきの魔法のやばいやつの受付をしてたからな。変わってやろうかなって思ってきたんだが要らなかったか?」


シーナはそう聞かれると俺を気づかって、


「いえ、そんなことは。」


と隠す。


「何の話をしてたんだ?」


「えっと。」


一応、俺から言ってもいいと許可を貰いたいのかチラチラと俺の顔を見てくる。


これ以上はシーナに悪いので


「ギルド本部に俺の情報を提出しないで欲しいってお願いしてたんだよ。」


と俺の口からギルド長に話す。


「ああ。そう言うことか。あれだけの高度な魔法を使える人間をギルドで把握できてないってのは問題だもんなー。」


「まあ、でも流石にもういいよ。ギルド長に知られた以上、隠し通せるものじゃないし。」


「そうなのか。別に提出しなくてもいいけどな。」


「うん?」


そうなの?


「提出しなくていいんですか!?」


とギルド長の隣で聞いていたシーナは驚いている。


「まあ、詳しい話は俺がしておくから、シーナは別の仕事をしておいてくれ。」


そう言われて、


「は、はい。」


と返事をしてその場から離れる。


「さて、話を始めようか。っと、その前にアサヒ。君も少し席を外してくれ。」


さっきまで黙って隣にいたアサヒにもそう言う。


「あ、はい。」


と返事をしてその場から離れようとしたので、


「入り口で待っててくれ。」


とだけ伝えておく。


それを聞いたアサヒは入り口まで歩いて行った。ギルド長は俺だけになったのを確認して話を始める。


「まず、さっきも言ったと思うけど、結果から言うと君のことを報告しないでおくことはできなくない。」


条件があるのか。ギルドもめんどくさいな。


「できなくないか。条件か何かがあるのか?」


「ああ。ギルドの決まりとかそう言うのじゃない。俺個人から出す条件なんだが。」


「どう言うことだ?」


「ギルド本部には俺の口から言わなければ伝わらない。だから、俺で止めておいてやるって話なんだが、何もなしで黙ってるってのはこっちにメリットがないからな。そこで条件を出すってわけだ。」


黙っておくから、俺の話を聞けって感じか。


「理解した。で、その条件ってのは?」


「俺が出すある一つの依頼を解決する。それが条件だ。」


「内容は?」


「それはここでは話せないからな。明日、もう一度、ここにいてくれ。」


人には聞かせられない内容か。内容次第だな。


「明日か。わかった。だが、内容次第では条件を飲むことがないないかもしれない。」


「少し危険かもしれないからな。勿論、明日、条件を飲むかどうか決めてくれても構わない。」


ヤバすぎたら条件を飲まなきゃいいだけだ。これでいいだろ。


「なら、また明日ここに来るよ。」


そう言って俺はその場から離れた。

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