第6話 B級冒険者

まあ、信じると言っても自分で確認はしておきたいよな。


Sだから最強とまではいかないにしても、見ただけである程度戦えることは証明できる。Sかどうかの判断は微妙そうだけど。


「ついてきてください。」


シーナはカウンターから出て、奥の扉に向かう。100年前と変わらないのならその先にあるものは、


練習場。


しかも昔と比べて殆ど変わってない。


何人かの人が剣を振り、魔法を放ち、自らを鍛えている。


「ここで何をするんだ?」


まぁ、なんとなくわかっているけど聞いてみる。


「少し待ってて下さい。」


そう言ってシーナは遠くで剣を振っている30代後半のおじさんのところに行った。そこでおじさんと何かを話して連れて戻ってくる。


俺についての説明をしてたのだろう。


「この人はギルドが認める冒険者ランクBの冒険者。ゴルドフさんです。今からこの人と戦ってもらいます。」


Bランクか。


見た目からしてそこそこの戦闘をこなしてきた感じなのは伝わってくるが、感じ取れる魔力がBにしてはかなり低い気がする。


記憶通りならBランクくらいならばそこそこ魔法を使えるはずだが魔力の量からして完全に身体能力で勝負する感じかな。


近距離戦闘特化ならば昔の俺と同じ戦闘スタイル。どれくらい動けるか楽しみだ。


「こいつが身体能力Sねぇー。」


ゴルドフは俺の身体に顔を近づけてじっくりと見る。


「信じられないな。」


そう言われた。


俺の身体はそこまで強そうじゃない。


それなりの筋力はつけているけど、見た目に現れるほどではないのでそう言われてしまうのは仕方がない。


が少しイラっときたので、


「見た目で判断するなよ。それじゃ、三流だぞ。」


と軽く挑発すると、


「事実を言っただけだったんだけどな。」


と返してくる。


またしても煽り返してくるとはなんかイラッとするな。


「まあ、いいや。お前の目が節穴だったことはすぐにわかるから。」


「そうかよ。」


俺らが互いに威嚇しあっているのを見て、受付嬢が距離を取らせる。


「では、二人とも距離をとって、戦闘準備をお願いします。相手を戦闘不能になった場合もしくは相手が降参した場合勝利となります。」


戦闘不能ね。なら凍らせるか。


そんなことを考えながらその場から離れようとすると、


「頑張ってください。」


とアサヒに応援される。


「ああ。」


と返事をして軽く手を上げる。そしてゴルドフと距離を取る。


「準備が出来次第始めてください。」


準備万端。


「いいよ。始めようか。」


と大きな声で叫ぶ。


すると、


「始めようって、お前剣士だろ?早く剣を出せよ。」


遠くから大きな声でゴルドフからそう返される。


「要らないんだけど。」


そもそも今は持ってないしわざわざ剣を出す必要はない。冒険者ランクBくらいなら魔法だけで充分だと思っていたが、


「まあ、いいや。」


変に手加減していると思われたくないのでいつも通り魔法陣を展開して氷の剣を作る。


「一瞬で剣が?!」


とシーナの驚く声が聞こえる。


驚くほどでもないと思うが。


「これでいいだろ。」


そう言って剣を構える。


「じゃあいくか。」


その言葉と共に足元に魔法陣を展開し、展開した魔法陣をゴルドフの足元まで広げる。


そして、


「氷河領域」


と呟くと魔法陣を展開した全ての範囲が凍りつき、ゴルドフを足元から凍らせる。


「なんだこれ。」


自分の身に何が起きたか理解できていない様子のゴルドフ。


殺さないように威力をかなり弱めたが下半身は全て氷に覆われて身動きが取れていない。


弱いな。


魔法陣を展開してから魔法を撃つまでに時間があるので簡単に避けられるのだがそれができなかった。


広範囲上級魔法とはいえこれを避けられないか。

この時代のBランクは昔よりも落ちているな。


後、少しすれば受付嬢が戦闘不能と判断して、この戦闘は終わるだろう。


そう考えていたがゴルドフは手を前に突き出して、魔法陣を展開し、


「石弾」


と口にして8個の石を飛ばす。


身動きが取れなくなったことを理解してすぐさま追撃が来ないように牽制したのは流石Bランクと思うが、


「その程度か。」


そう呟いて左腕に魔力を流す。左手に流した魔力から溢れた微量の魔力によって周りの空気が凍りつく。


身動きの取れないゴルドフを止めるだけなので魔力の量はそんなに多くなくていい。その為貯める時間は殆どいらない。


周囲が凍り出したの見て腕を振り抜く。


周囲が魔獣の時よりも薄い氷で覆われる。勿論、石もだ。石は氷に覆われて速度を落とし、そのまま地面に落ちていく。


氷風によってゴルドフの上半身も頭だけ残して軽く凍りつく。頭まで凍らせると殺してしまう可能性があったのであえて範囲を絞っている。


身動きが完全に取れなくなったゴルドフの口から


「これが剣士の使う魔法かよ。」


という言葉が漏れる。ゴルドフは何もできずにクロストを見ているだけだった。


ゴルドフに近づき、


「終わりか。」


そう呟いてゴルドフの首元に剣を当てて止まる。


不意打ちとはいえ、ここまで何もできないとは思わなかった。


魔法を避けるので精一杯だったし、その後の俺の攻撃に手も足も出てなかったし。


俺は魔法を解除してゴルドフを覆う氷と氷の剣を消す。氷が解除されたゴルドフはその場で跪く。


辺りはしーんと静まりかえっている。

ゴルドフ、アサヒ、シーナ、そして、俺とゴルドフの戦いを面白半分で見ていた者全てが俺を見ながら動かなかった。


しょうがないので、シーナの元に歩いて行く。


「今のでよかったか?」


黙ってこちらを見ているシーナにそう聞くと、


「あ、はい。今のであなたがSクラスの身体能力、魔力を持っていることは確認できました。この後すぐにステイタスカードの更新を行うので少々お待ちください。」


と即座に走っていった。


身体能力は見せてないんだけどなぁ。

まあ、確認できたって言ってるから大丈夫か。


そう思いながらゴルドフのところまで歩く。


「大丈夫か?」


といつまでも座っているゴルドフに声をかける。


「寸止めされたからな。俺は大丈夫だ。それよりお前、何者だ?」


ゴルドフは一人で立ちそう聞いてくる。


「冒険者をしているただの旅人だ。」


「ただの旅人にしちゃ、強すぎるけどな。」


俺からしたら弱すぎるくらいだが。


まあ、それだけ平和になったってことだ。戦争がないこの時代では別に強さにこだわる理由がない。


「旅をしてればいろんな魔物に遭遇するからな。そいつらと戦ってたらこのくらいになるんだよ。」


適当なことを言って納得してもらう。


「そうか。悪かったな。」


「別にいいよ。」


若くて、新人みたいな冒険者が自分よりも強いとは思わなかったのだろう。


「じゃあ、俺はこれで。何かあったら頼ってくれ。」


「ああ。」


その返事を聞いて、俺はアサヒの元に歩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る