第5話 ステイタス

ギルドは今も昔も変わらなかった。依頼を探す者、依頼達成を報告する者、パーティを組む者、昼間から酒を飲む者。


俺の覚えている昨日と変わらない風景にどこか安心する。


「早く依頼の報告に行こうか。」


「はい。」


ギルドに入り立ち止まることなく受付に行く。


「あっ、アサヒちゃん。戻ってたんだね。」


とアサヒが若い、多分俺と同じくらいの歳の受付嬢に声をかけられる。


受付嬢の服装も100年前と昨日と変わっていない。


「あっ、うん。シーナちゃん。一応、依頼は達成したよ。」


「そうなんだ。あの森に魔獣が確認されたらしくて襲われていないか心配だったんだけど、帰って来て安心したよ。」


アサヒを見てシーナはほっと胸を撫で下ろす。


そして俺の方を見て、


「ところで隣の方は誰?」


と聞いてくる。


俺が答えようとする前にアサヒが俺の紹介を始める。


「彼は私の恩人で、私が魔獣に襲われているところを助けてもらったんだよ。」


「魔獣に襲われたの!?」


と驚く。かなり動揺している。


さっき魔獣に襲われていないか心配だと言っていたからな。それを聞いたら驚くよな。


「う、うん。」


シーナの反応にアサヒは戸惑っている。


「大丈夫?怪我は。」


前のめりになってアサヒの心配をする。


「怪我とかはないよ。その前にクロストさんに助けてもらったからね。」


「なら、よかったー。アサヒちゃんに何かあったら私、この仕事辞めてたかも。」


辞めてたか。そこまで言うのだから仕事以外でも仲良い友達なのかもしれない。


「ごめんね。心配させて。」


「こっちこそ、情報が遅くて怖い思いさせちゃったね。ごめんね。」


そう言い合う二人はとても仲がいいみたいで微笑ましい。


「じゃあ、話を戻すけど、魔獣はどんな感じだった?」


シーナはすぐに切り替えて、依頼を出す為にも必要な情報を聞いてくる。アサヒはあの時のことを思い出そうと考え始める。


アサヒは襲われていてあまり詳しくは覚えていないだろう。それにあの状態では恐怖で頭の中が一杯一杯だった筈だ。思い出したくもないだろう。


そもそも、魔獣に襲われている時の状況を詳しく話す為について行くって話だった。


「詳しい話は俺がするよ。」


そうアサヒに言ってから話し始める。


アサヒは


「お願いします。」


と言って俺の邪魔をしないようにと黙り込んだ。


「俺が確認した魔獣の数は1。魔石の属性は火。場所は地図を出してもらわないと説明できない。」


そう言うとシーナは後ろの棚から地図を取り出して俺たちの前に広げる。歩いた時間、方向から考えて自分たちのいた場所を確認する。


「ここら辺だ。」


俺がそう言って指差すと受付嬢は指の先に×印をつける。


「では、この情報を元に依頼を出しておきます。情報提供ありがとうございます。」


依頼?何の依頼だ?


周囲に他の魔獣がいないかどうか確かめるために依頼を出すのかな。


「他の魔獣の調査なら俺が行きますよ。」


暇だし、俺が一番魔獣を戦った場所を知っている。それに調査なんて他の人に頼むほどの依頼じゃない。


「非常に頼みたいのですが、魔獣相手に一人で行かせるわけにはいかないんですよね。」


あのレベルの魔獣相手なら熟練の冒険者一人で充分だろ。


「いや、俺、一人で充分だよ。」


「ギルドの決まりなので一人は認められません!」


「いや、一人でいいって。」


「ダメです。」


なんで駄目なんだよ。あんな魔獣相手に複数の冒険者出すとか効率悪すぎるだろ。


「だから、俺一人で。」


「ちょっといい?」


「なに?アサヒちゃん。」


「あの。シーナちゃん。私が言うのもなんだけど、クロストさん一人で充分だと思うよ。」


「だから、それは駄目なの! 襲われたアサヒちゃんならどうして駄目かくらいわかるよね?」


「魔獣の強さだよね?それならわかってるよ。」


「なら!」


「それ以上にクロストさんは強いの。」


「助けてもらったってくらいだからアサヒちゃんより強いと思うけど、魔獣よりは強くないでしょ。」


うん? 魔獣より強くない。倒したから強いに決まってるような。


「クロストさんは魔獣なんて目じゃないくらい強いよ! だって、私を襲った炎の魔獣をたった一人で倒したんだよ!」


「一人で?!」


シーナはアサヒに聞き直す。


「うん。」


「本当?」


どうやら、シーナは俺が魔獣を倒さずに、気を逸らしたか何かでアサヒを助けたと勘違いしたらしい。


俺はアサヒが頷く前に


「本当だ。」


と断言する。


「えー、一応、ギルドとして事実と判断するにはある程度実力を示して貰う必要があるんですけど。」


まだ疑っているみたいだ。


「だったら、ステイタスカードを確認してくれればいいよ。ついでに更新もしておいてくれるとありがたい。」


争いの時は時間がなくて更新できていなかったからな。それに100年経ってしまったので、新しくしないと不都合が出そうだし、早めにやっておいて損はないだろう。


「わかりました。此処にステイタスカードを置いてください。」


とカウンターにある魔石の上にステイタスカードを置いた。それと同時に魔力を流す。


この魔石はステイタスカードに自分の魔力を流すと他の人もステイタスカードが見えるというもので俺のステイタスカードに魔力が流れて情報が出てくる。


「こ、これは。」


出てきた情報に受付嬢は思わずそう呟いた。


クロスト・セイレイン

出身 サイコク

職業.剣士

冒険者ランクS

身体能力S

魔力A

使用できる魔法 水

所持金額. 1856万1936


表示された情報にびっくりする。


100年前のものなのにちゃんと更新されていること、そして


冒険者ランクS


だと言うことに。


俺はついこの間(100年前)までAだった。冒険者ランクは依頼達成度によって上がるものだ。更新されたとはいえ依頼をこなしていない俺がSになっているのはおかしい。


それに、そもそもAまでしかない冒険者ランクがSってことが異常だ。


魔力などは忙しくて更新が出来なかったから、上がっていてもおかしくはないけど、流石に存在しないSランク冒険者ってのはおかしい。


「こ、これは嘘ですよね?」


シーナも驚きを隠せていない。隣にいるアサヒも、


「これはやばいです。」


と同様に驚いている。冒険者ランクSは流石に嘘だと思うよな。


「やっぱり、おかしいよな。」


俺がそう聞くと、


「はい!」


と二人同時に返してくる。受付嬢は


「こんな、ステイタス見たことないです。」


と続ける。


「冒険者ランク、身体能力、共にSってなんですか? それに魔力もAですし。」


後の二つのどこがおかしいんだ?と思っている俺に構うことなく異常さを話し出す。


「まず通常の冒険者は身体能力はBあれば優秀で、Aになると最高レベルの冒険者と言われているんですよ。なのにその上のSって。」


身体能力がSであることは納得できる。

元々、最強と呼ばれた剣士。誰よりも身体能力が高くなければ最強ではない。なので、そこは最初からSだ。


「それに魔力もAが属性最高魔法師と言われるくらいの魔法使いですよ。そのレベルの剣士って。」


属性最高魔法師。


それはその名の通り各属性の魔法を極めた属性における最強の魔法使い。


俺に効率の良い魔法の使い方や上級以上の魔法が使えるように教えてくれたのは属性最高魔法師だ。


それが今ではA止まりか。属性最高魔法師は俺が越えられないくらいの魔法使いであって欲しかった。


「そもそも冒険者ランク、身体能力にSなんて本当に存在したんですね。100年前の人たちがSだったという話は聞いていましたが正直、信じてなかったのでSは存在しない空想のものだと思っていました。」


冒険者ランクについては俺も同じ意見だ。Sってなんなんだ?


魔王討伐部隊のメンバーはステイタスのどちらかがS(勇者はどちらもSだったけど)だった。

だが、誰一人として冒険者ランクSはいなかった。


長々と話してくれたが、要するに平和になった今の世界で浮いてるってことだ。


「これを信じるのか?」


見るからに信用できない情報だらけだ。信じないというのが普通だろう。


「ステイタスカードの偽装はできませんから、ここの情報は信じるしかありません。」


確かにステイタスカードの偽造はできない。魔力内にステイタスが刻まれているらしくて勝手に変更しようとステイタスカードが破壊される。


変えられるのはギルドの冒険者ランクくらい。


「そ、そうか。」


偽装できないとわかっていてもこんな嘘っぽいやつを信じたくないだろう。


なので信じてくれるのはありがたい。


「信じると言っても、あなたがどのくらい強いのかわかりませんからそれだけ確認させてください。」


実力くらいは示さなければならない。本当に冒険者ランクSだということを。


「わかった。」


シーナに向かってそう返事をした。

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