第4話 100年後の世界

「アストルシア?」


聞き馴染みのある名前。というか最近聞いた名前だ。


「どうかしました?」


とその場で立ち止まっていた俺を不思議そうに見つめている。


「いや、ないんでもない。」


そう言って、何歩か前に歩く。


うーん。アストルシアか。


「って、アストルシア!?」


この街が何処だか思い出した俺はその場でまた立ち止まる。


そして、街を見渡す。


確かに道や門に僅かに面影が残っている。だが、自分の記憶にある街ではない。


要塞のような街が綺麗な観光都市のようになっている。


もし本当にアストルシアだったとして、この街にここ数日で何があったんだ。


そう思うくらいには違いすぎる。


「本当にここはアストルシアなのか?」


「はい。そうですけど、知っている街でしたか?」


街の外も中も知らない事ばかりだ。


確かにここ最近は来ていなかったけど、ここまで変わるものなのか?


「えっと、少しだけな。」


「そうなんですか。どんな感じで知ってるんですか?」


「人間と魔族の戦争によって一番栄えていた街って感じかな。」


平和になってから多分何かあったのだろう。いや、それしかない。


「100年前のあの大戦後の話ですか?」


えっ?100年前?


何を言われているのか理解できない。


知っている限りでは100年前も戦争はしていたが、100年前に始まったわけではないし、終わったわけでもない。終わったのはつい最近だし。


なのでわざわざ100年前の大戦なんていう必要はない筈。


「100年前の大戦って?」


「魔族と不可侵条約結んだあの大戦ですよ。知らないですか?」


不可侵条約を結んだ大戦って、俺が終わらせたあの戦争のことだよな。


ってことは、あの場所で100年間寝ていたのか?


いや、それはない。


100年寝ていたとしても人は死ぬ。


何故、100年の時が経ってしまったのか。

そもそも本当に100年経っているのか?


ありえない状況に混乱する。


「大丈夫ですか?」


アサヒは俺の顔を覗き込み、考え込んでいた俺を心配するように見てくる。


まずは冷静になって情報を整理しないと。


「大丈夫だ。俺の想像とかなり違くて少し困惑しただけだ。それよりこれだけ栄えている理由、100年前の対戦後何があったのか知りたい。」


「そうなんですか。私の知ってる範囲でならいいですけど、その前に道のど真ん中では邪魔になるのでお店に入りましょう。」


そう言ってアサヒは近くにあるお店に向かい、俺たちはそのお店に入った。


席に案内されて座る。


メニューを開くと知らない名前のものが多くある。とりあえず知っている飲み物、コーヒーを選ぶ。


「クロストさんはコーヒーですか。なら、私も同じコーヒーでお願いします。」


とアサヒも同様にコーヒーを選んだ。


コーヒーはすぐに運ばれてきて、俺は一口飲んで話を振る。


「それで、100年間で何があったんだ?」


「えっとですね。私も16なので詳しいことはわからないんですけど、大戦時ここは招集された凄腕の冒険者たちの休み所だったらしいんです。」


アストルシアは人間側の最終拠点であり休憩地。


俺は人間だったため魔族の方の休憩地を使えなかった。そのため必要なものを買い足したり、人間側の情報を得るのに何度かアストルシアに戻ってきていた。


アサヒによると、冒険者から利益を得ていたこの街は戦いが終わった直後に冒険者に頼らないような街づくりを目指したらしい。


戦いが終わり新しい種族との交流が始まり、そこから人間と異種族との貿易が始まり、この街は栄えていったと言う。今の街並みがあるのはその貿易の成果であること。


そんな街だから人間の他の街よりも異文化が取り入れられているらしい。


アサヒが知っているのはここまで。


アサヒが嘘をついているようには見えなかったのでここが100年後の世界であることは多分事実だ。


それにしても魔族との交流か。


交流があると言うことは勇者は魔族を殺さなかったわけだ。


なんだかんだでいい奴だから、気が変わった可能性がある。それか最後の一撃が当たって死んだか、俺を殺したことで怒りなどの感情が抑えられたか。


どちらにせよ100年後の世界が平和でよかった。


「そっかー。異文化を取り入れた街か。なんかいいなそれ。」


「はい。みんなが仲良く暮らせる街。それがアストルシアなんです。」


クロストの望んだ街。それがここなのかもしれない。


「色々話してくれてありがとな。」


「いえいえ、これくらいは普通ですよ。」


「それに一度この街には来たいと思っていたから、ここまでの道を案内してくれて。」


この街のことを教えてもらえなければどうなっていたかわからない。


多分、今の世界では伝わらないような意味のわからないことを話していたかもしれないし、そもそもここがアストルシアだとわからなかった。


未だに全部は信じられないが、こんなに早く現状を把握できただけでも感謝しかない。


「いえ、私はクロストさんに助けてもらったのに比べたら全然。そもそも、この街に連れてきたのは森の魔物から守ってもらうためのですよ?忘れちゃいましたか?」


「そういえば、そうだったな。」


何か、100年時が経っていると言われてからさっきまでのことが昔のように感じていて、完全に忘れてた。


なんか一気に歳をとった気分だ。


「まあ、いいや。話は終わったし、外に出ようか。」


俺たちはそう言って席を立つ。


そこでポケットから金を出す。いくら出せばいいのかわからないが、金貨を出せば何でも買えるだろう。


「セツナさんそれは?」


「金の入っている袋だけど?」


見たことないなんて言わないよな。もしないとしたら、金というシステムすらなくなったのか?


「金?まさか、金貨ですか!?」


なにを驚いているのか。金貨ってそんなに驚くものか?


「そうだけど。」


「確かにクロストさん、冒険者として強いからお金は持っているとは思っていましたがそこまでとは。」


「えっ。何。」


「金貨はこのお店じゃ使えないですよ。そもそも、金貨は普段使うような金じゃなくて、固定資産みたいなものですよ。」


金貨は固定資産か。お宝みたいな感じなのか。

でも、金貨はもう買い物に使わないのなら何を使うのか。新しいお金でも発行されたのかな。


「そ、そっか。」


何にも理解していないが返事はする。


「普通、お金はステイタスカード内に入っている筈なんですけど。」


「あ、えっー、そうなんだ。田舎にいたからそこら辺わからないんだよねー。」


と適当に誤魔化したがどうゆうことだか理解できない。


ステイタスカードにお金って。掌サイズのカードにお金なんてどこに入るんだか。


「なら、私が払っておきますね。」


貸しは作りたくない。かと言って今、金は金貨しかない。


それじゃ、払えないとなると貸してもらうしかない。ここは借りてすぐ金貨を渡せばいいか。


あまり金は貸し借りしたくないんだけどな。気が引ける。


そうは言っても今の金を持たないせいで払うことができないので、


「頼む。」


そう言ってアサヒが隣で会計をしている姿を見守る。


会計はすぐだった。


ただ、店に置いてある魔石にステイタスカードをかざしただけだった。ステイタスカードをかざすと魔石が少しだけ光り、それを見てアサヒはカードを離してしまう。それで終わりだった。


「終わりましたので、外に出ましょう。」


アサヒにそう言われて俺たちは店の外に出る。


支払いのシステムが変わっていた。100年もあれば多少変わるのはわかるけども、こんなことになっているとは。


未来だな。


「さっきのやつ、これでいいか?」


そう言って銅貨を渡す。


しかし、


「こ、こんなの貰えないですよ。」


とすぐに断られる。


もう銅化とか言う使えないお金はいらないか。


「ごめん。これしか小さいのないからあとで払う。」


後でと言ったが本当に払えるのか。


「いいですよ。それよりもこの後はどうしますか?私は一度ギルドに行きたいのですが。」


ギルドか。


ギルドならある程度、情報がありそうだし、あそこなら金を引き出せる。


「俺も行くよ。この街のギルドに行ってみたかったし、魔獣の件について聞かれた時、俺がいた方が説明しやすいと思うからな。」


「そうですね。なら、このままギルドに行きましょうか。」


そう言ってクロストたちはギルドに向かった。

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