第3話 職業と魔法
魔獣が消えたのを確認して少女の方へ向き直る。
少女は立ったまま動かなかった。いや、驚いて動けなかったのか。
「改めて聞くけど、大丈夫か?」
少女は何が起きたのか困惑していたが、
「えっ、あっ、はい。」
と答えてくれる。
「なら、良かった。」
そう言って剣を解除する。
すると、氷の剣は氷の粉となって空中に消えていく。
俺が剣を消すとすぐに少女は、
「えっと、ありがとうございます。」
と頭を下げる。
戦争中は感謝されることが少なかったので素直に嬉しいが少し照れくさい。
「魔物は危ないから気をつけるようにした方がいいよ。」
「はい。次からは気をつけます。」
そういえばどうして俺よりも若い少女が森に来ているのだろうか。
気になったので聞いてみる。
「どうして君は森に?」
「えっとですね。薬草を取りに。」
薬草採集か。冒険者ギルドは冒険者の初級冒険者の人数が少ないことから冒険者以外でもできるような依頼を出している。それを受けたのだろう。
「そっか。薬草取りってことは冒険者ギルドの簡単な依頼か。なら、手伝っちゃ行けなさそうだし、俺はこれで。」
冒険者ギルドの依頼は本人がこなさなければ意味がない。
俺が手伝えば、その手柄のうち半分くらいはク俺のものとなる。なので邪魔はしない方がいい。
そう思って立ち去ろうとすると、
「あの、待って下さい。」
と少女に服を軽く引っ張られる。
「何だ。」
振り返ると
「薬草はもう取り終えたので、一緒に街まで帰ってもらいたいんですけど。」
おずおずと聞いてくる。
魔獣に襲われたばかり。心配なのだろう。
ここがどこだかわからない為、少しこの森を散策したかったが街でここが何処なのか情報収集するのも悪くない。
「いいよ。でも、少し待ってて。」
そう言って足元に大きな魔法陣を展開する。
俺の周りに八本の氷の槍が生み出されていく。全ての氷の槍が完成すると同時に、
「やれ。」
と腕を一振りして、一斉に全ての氷を放つ。
「氷槍ハ発」
氷の槍は勢いよく放たれると様々な方向に一直線に飛んでいく。氷の槍が全て当たったかどうかわからないが何匹かの魔物の叫び声が聞こえ、さっきまであった魔物の気配がなくなる。
これであらかた倒しただろう。
残りは攻撃してきた時にどうにかしよう。
そう決めて、
「よし、殲滅完了。」
と呟いた。
そんな俺を見て、少女は呆気に取られていた。
少女の顔を見て
「さて、行こうか。」
と提案した。
提案したのはいいが、少女は俺が歩き出すのを待っていて、俺も少女のが歩き出すのを待っていたため数秒その場で二人とも立っていた。
そもそもクロストは街の方向なんてわからないので歩くことはできない。
カッコつけて「行こうか。」なんて言わなければよかったと後悔する。
「ごめん。行こうかとか言ったけど、俺はここら辺の冒険者じゃないから、街が何処にあるかわからない。だから、街まで案内してくれないか?」
「そうなんですか? じゃあ、着いてきてください。」
と少女は返事をして俺の前を歩いていく。
そんな少女の後をついて行く。
少しの間無言が続いていたが、途中で前を歩いていた少女は振り向き、
「あの、名前聞いてもいいですか?」
と聞いてくる。
そういえば、名前聞いていなかったな。
「俺はクロスト・セイレイン。冒険者だ。君は?」
「私はアサヒ・ユウラギです。新人の冒険者です。」
新人か。だから、魔獣を倒せなかったのか。
「そっか。新人冒険者か。」
なんとなく少女の状況がわかった気がする。
新人だから初級の依頼である薬草採集をしていて、うっかり森の奥まで入り込んでしまったのだろう。
そう言うのがあるから最初は誰か付き添いするべきなのだろうけど、冒険者にそんな余裕はない。
やっぱり自己責任になってしまう。
そんなことを考えて、
新人冒険者も大変だなーと思っていると、
「えっと、セイレインさんは魔法使いなんですか?」
と尋ねてくる。
俺は魔法が使えるが魔法使いではない。本職は剣士だ。
今は剣を持っていないし、さっきから剣を使わず、魔法ばかり使っていて、本職魔法使いみたいな動きをしていたので魔法使いと勘違いされてもおかしくないけど。
「いや、俺は剣士だよ。魔法は水属性しか使えないし。」
氷属性魔法は水属性の応用魔法であるため、基本的に水属性の魔法に分類される。
そもそも魔法の属性は
火、水、木、風、土、光、闇
の七つ存在する。
基本的に七属性のうち一属性以上の魔法の適性を持つ。
一般的に人間は一人一属性。よくて三属性。
魔族は複数属性の適性を持っていることが多く、一人だが五属性使っているやつもいた。
六属性以上の適性を持つものは例外を除いて一人もいない。
例外は勿論、勇者と魔王。
「あんなに凄い魔法を使えるのに魔法使いじゃないんですか!?」
とかなり驚く。
やっぱり魔法使いだと思われていたみたいだ。
「俺よりも凄い魔法を使える人は多いからな。流石にそういう人が周りにいると魔法使いになりたいとは思わないよ。」
魔法使いの多くは複数属性の適性があり複合魔法を扱えたり、属性最強の、使うだけで一つの国が滅ぼせるくらいの魔法である絶級クラスの魔法が使えたりするようなやつらだ。
絶級クラスなんて使えないし、そもそも水属性の正統派魔法は中級魔法程度しか使えないので魔法だけではろくに活躍できない。
それに討伐部隊の時は魔法の天才と勇者がいたので魔法使いに困ってはいなかったし、冒険者の頃は魔法を上手く扱えなかったので魔法使いになると言う選択肢がなかった。
スキルも魔法より剣士向きだったし。
「セイレインさんより凄い人。」
新人だからさっき見せた魔法でもかなり凄いものだと思うのだろう。
「まあ、異次元の人だよ。」
勇者もそうだけど、彼らの助けを借りなければ戦争は止められなかった。さっきまでのことなのに何故か懐かしい感じがする。
また会いたいな。
平和になったこの世界で彼らが何をするのか楽しみだ。
そういえば、勇者はどうなったのだろうか。さっきの場所に姿はなかった。もしかしたら、トドメを刺さないでくれたのかもしれない。
今生きているかどうかはわからないが、生きているのなら勇者が過ちを犯さないように早くあいつを止めなきゃな。
「さっきから少し気になってたけど、名前呼ぶ時はセイレインじゃなくて、クロストでいいよ。なんかセイレインって呼ばれるの慣れてなくて。」
ずっとクロストと呼ばれていたのでセイレインと呼ばれると自分じゃないような気がしてくる。
「そうですか。なら、これからクロストさんと呼びます。私のことはアサヒと呼んでください。」
「わかったよ。アサヒ。それで話を戻すけど君の職業は?」
自分のことを話し終えたのでアサヒのことを聞いてみる。
冒険者は戦闘職の人たちでギルドに所属している人たちの事をいい、職業はまた別。
剣を持っていないので剣士ではないと思うけど。
「私ですか?クロストさんの話を聞いて恥ずかしいのですが、魔法使いです。」
新人の魔法使いか。俺の魔法を見て凄いと思う思ったってことは絶級魔法ではなく、複数属性持ちなのかな。
「魔法使いか。なら、複数の属性を使えるのか?」
「いえ。私は光属性しか使えないです。」
「そっか。」
これからってなるって感じかな。別に絶級が使えなくても、魔法が使えれば魔法使いにはなれる。努力次第で、あいつらにも並ぶことだってできる。
俺はすぐに諦めたけど。
それに最初から魔法をあそこまで扱えたのは勇者くらいしかいないし、大変だとは思うけどなれないわけじゃない。
そんなことを考えて、
「頑張れよ。」
と呟いた。
それからまた少し無言になって、
「着きましたよ。」
とアサヒが言った。森を抜けた先に見たことのない街が見えていた。
アサヒの隣に並び、
「凄い街だな。」
と呟いた。
正直、知らない場所だったので田舎だと思っていたが門の先に僅かに見えるその街は俺が知っているような街並みではなく、思っていた以上に栄えていた。
こんな街があったなんて。
「そうですか?」
「ああ。なんで知らなかっんだろって不思議に思うくらいだよ。」
こんな大きな街何故知らなかったのだろうか。
ってか、ここは一体何処なのだろうか。
「えへへ。自分の住んでいる街が褒められるって何か嬉しいですね。」
アサヒの横顔を見るとほんの少し頬を赤らめていて、本当に嬉しそうだった。
「さあ、まずは門を潜らないとですね。ステイタスカードはありますか?」
ステイタスカードか。無くしてないかな。
俺は多分入っているであろう内ポケットに手を突っ込む。
ちゃんとカードはある。
「それならある。」
そう言ってカードを取り出して、アサヒに見せる。
「それです。なら、後で門で出してください。身分証として使いますから。」
ステイタスカードは本人の魔力を流すことで情報が開示される魔法道具。本人以外の魔力では最低限の情報しか開示されない。最低限の情報だが嘘はつけないため身分証明書として機能している。
大きな門の前まで来た俺たちは門番をしている男に止められる。
「見ない顔だな。お前。」
「旅人なんで。」
「そうか、まあいい。ステイタスカードを見ればわかるからな。」
そう言って俺が手に持っていたステイタスカードを取り、ステイタスカードに魔力を流して、情報を読み取る。
「クロスト・セイレイン、18歳。冒険者。過去に罪を犯したことはないっと。特に問題はないな。」
そう言って俺にステイタスカードを返すと、
「よし、通っていいぞ。」
道を開けてくれる。
門を潜る最中アサヒに
「へー、セツナさん18歳なんですね。」
と聞かれる。
「おかしいか?」
見た目と一致しないのかな。
「かなり大人びていたので、20歳は超えてると思いました。」
「20くらいなら悪い気はしないな。」
30とか言われたらただ老け顔って言われているだけだが、20なら少しだけ嬉しいかもしれない。大人っぽいと思われていたわけだし。
でも、20超えてるか。なんか複雑な気持ちだ。
そんなことを考えながら街に入る。
門の先に拡がっていたのはどこか見たことがある、でも初めて見るようなそんな街だった。
アサヒは街を眺める俺の前に立つと
「ここがアストルシア。私が住む街です。」
と聞き覚えのある街の名前を口にした。
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