第2話 魔獣

どれだけ寝ていたかはわからない。


俺が目が覚めるとそこは先程までいた場所と全く違う森の中だった。


勇者はどうなったのかわからない。


俺は勇者の魔法を食らって...それで...。


その後が全く思い出せない。


そもそも最後の魔法を喰らってなんで生きているんだ。


そういえばあれ?


全身を確認するが、魔法を食らったのに全然傷ついていない。


受けた時、痛みはなかったけど流石にあれは避けられなかった。


横になって寝ていたからか服は汚くなっているが。


怪我もないし、最後の記憶もない。


もしかしたら、ここは死後の世界なのかもしれない。


そんなことを考えていると、突然、誰かの叫び声が聞こえた。


念のために《加速》を使いその声のした方へ向かおうとするが、


「えっ。」


《加速》出来なかった。


勇者と戦った時に無理して《加速》を使った反動か。それとも死後の世界だからか。


どちらにしても今使えないことには変わりなくて、そんなこと考えても意味がない。


「使えないなら、仕方ないか。」


そう呟くと加速を使わずに悲鳴の聞こえた方に走って向かった。


少し進むと遠くで少女が狼の魔物に襲われているのが見える。


額に赤色の魔石が埋め込まれている。


「魔獣か。」


魔獣は額の魔石から魔力を得て強化された魔物で魔法を撃つことができる。それゆえに通常の魔物とは比べ物にならないくらい強い。


見たことのない魔獣だが、魔獣がいるってことは死後の世界ではないのか?


そんなことを考えていると魔獣が少女目掛けて炎を放つ。


この状況からして、さっきの悲鳴は少女のものだろう。


このままだと危ない。


そう思った俺は右手に魔法陣を展開して氷の剣を生み出すと、


「させるかよ。」


と言って少女と魔獣の間に入り炎を剣で振り払う。氷の剣が解けることはなく炎は一瞬で消える。


少女の怪我を確認するために


「大丈夫か?怪我とかないか?」


と背後を向く。


「はい。大丈夫です。」


「良かった。なら、」


少女と話をしようとすると、


グルルル。


と唸りつつ、俺を警戒して距離をとり炎を放つ。


空気読めない魔獣だな。


「邪魔するなよ。」


そう言って、剣を持たない左手で魔力を流す。左手に流した魔力から溢れた微量の魔力によって周りの空気が凍りつく。


「大人しくしていろ。」


そう言って左手を振り溜め込んだ魔力を放出すると自分に近いところから順に目の前全てが凍り付く。


放たれた炎は冷気によって消え、魔獣は全身氷に覆われる。


氷風


氷属性の魔力を飛ばすことで周囲を凍らせることのできる魔法。


魔力を凝縮させるのではなく魔力を拡散させることで広範囲のものを凍らせることができる。


魔力を拡散させる動作によって魔法陣が大きくなりそうだが、魔力をそのまま小さな氷に変換するだけなので魔法陣を必要としない。


そもそも魔法陣は魔力を物体に変えるものではなく、物体の形を変えるもの。


氷属性の適性を持つ魔力で氷にするくらいなら魔法陣はいらない。大きな氷を作ったり、剣のように形を指定したりするような時に魔法陣は使われる。


と言っても、魔法陣を展開するのが普通なのでよっぽど簡単に作れるもの以外は魔法陣を展開するのが基本だ。


「立てるか。」


少女の方に振り返り手を差し伸べると少女は手を取り立ち上がる。


「あの、えっと。」


少女が何かを言おうとした瞬間、魔獣の方から物凄い熱気を感じ、周囲の氷が一瞬で解ける。


もう解かされたか。やっぱ炎は相性が悪いか。


それにしても本当にこの魔獣は空気読めてないな。


氷を解かした魔獣は全身に炎を纏い雄叫びを上げる。


氷で身動きを封じても相手が炎を使うため簡単に解かすことができてしまう。


凍らせて時間稼ぎするよりは先に倒した方が安全で早いか。


「ちょっと待っててくれ。」


そう言って一歩前に出る。対して魔獣は大きく口を開けて炎を溜め、その炎を放つ。


炎が放たれたと同時に俺はその場で剣に魔力を流す。


今だ。


炎が目の前に来た瞬間、魔力の籠った剣を縦に振り下ろす。


炎の中心を切り裂き打ち消すと、勢いはそのまま地面に剣を突き刺す。


「氷結斬派」


その声と共に氷の剣が地面に突き刺さると、剣から伸びるように氷が発現し地面を伝う。


そして、魔獣がいるところまで一気に進むと、魔獣の下で氷は棘のように変形し魔獣を貫いた。


氷結斬派は剣を魔法発現の媒体とするため魔法陣の展開を省略することができる魔法。


これによって魔法陣を展開してから魔法を発現するよりも早く魔法を使うことができる。


しかし、その代わり氷の剣を消耗してしまうと言うデメリットが存在するため連発することはできない。


「まだまだ。」


そう言って剣を手放して身体を起こすと、左手を伸ばして周りに魔法陣を展開し、4つの氷を生み出す。


同時に右手では魔法陣を展開して新しい氷の剣を生み出しておく。


魔獣は氷を破壊して動き出そうとするが、


「氷弾」


そう言って氷を飛ばす。


一つは魔獣の頭を貫き、残りの三つは魔獣の背中に突き刺さり、頭を貫かれた魔獣はそのまま動かなくなる。


もう安全だと判断して氷結斬派と氷弾を解除する。


地面についた魔獣は魔石を残して消えていった。

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