魔王討伐部隊の最強と呼ばれた剣士、100年後の世界でも最強だった
吹雪く吹雪
第1話 勇者vs剣士
この世界では長きに渡り人間と魔王率いる魔族との争いが続いていた。
きっかけは魔族の魔物による侵攻とされていて、魔物による被害が拡大したことを理由に人間が魔族の国に攻め込んだのが始まりであった。
この戦争により人間、魔族共に多くの被害を出し続けていた。
長きにわたる戦争に負けられない人間は勇者に魔王討伐を任命し、勇者と四人の冒険者が討伐部隊として派遣された。
選ばれたのは
無敵と呼ばれた聖騎士
神童と呼ばれた僧侶
最強と呼ばれた剣士
天才と呼ばれた魔法使い
という、ずば抜けて強いとされたそれぞれの役職の冒険者。
そんな人間界最強の討伐部隊の活躍によって各地の戦いで勝利することが増え、人間が優勢となっていった。
このまま戦えば人間が勝つと誰もが考えている中、討伐部隊の中に本当にこの戦いに意味があるのかと疑問を持ち始める者がいた。
それが剣士、クロスト・セイレインであった。
何度戦っても魔族は魔物を使って攻撃をしてこないことから魔族に魔物を操る力はないと仮定したクロストは、この戦いは誤解から生まれたものであると考えた。
魔族に誰かを殺されたわけではない自分に戦う理由はないし、もし、誤解であれば無意味な戦いである。
彼はこれ以上誰も殺さないやり方で終わらせるために討伐部隊を抜けた。
そして、勇者よりも先に魔王の元に向かった。
その間に最後の戦いが始まった。
戦いの最中、魔王の元にたどり着いた彼は魔王との話し合いを始める。
長い話し合いの末、誰も傷つけたくないという気持ちが伝わったのか魔王はクロストの話を聞きいた。
真剣に聞く魔王にクロストは戦いを終わらせる方法を話した。
その方法は魔王の命と引き換えに不可侵条約を結すばせるというもの。
自分を殺すと言われたのにも関わらず魔王はそれを受け入れた。
そして...。
クロストは魔王を討ち取ったことを人間側に伝え、約束通り不可侵条約を結ばせた。
そして戦いは終わりを迎えた。
これがクロストの知る人魔戦争の全てだった。
戦いから数日が立った今、最終決戦があった場所のその中央に俺は立っていた。
周りには誰もいない。
あの不可侵条約によって世界が平和になったのかわからない。
今は最悪の事態にはならなかったことを誇りに思うべきなのか。
本当にこれでよかったのか。あの日の選択は正しかったのか。
毎日この場所に来ては自問自答する。
「考えても仕方がない。もう帰ろう。」
ここにいても意味がない。
本当に平和になったのかを自分の目で確認する為に、
世界の為に戦った剣士ではなく、
普通の冒険者クロスト・セイレインとして
元の平穏な暮らしを送ろうとその場から故郷の方向を向く。
そして一歩を踏み出した瞬間、背後から強力な魔力を感じる。突然のことだったが、大きく横に跳びなんとか飛んできた魔法を避ける。
魔法の通った場所を確認すると、地面の草が燃えていた。
炎の魔法。しかも、かなり高レベル。
「何処だ。」
誰が放ったのかわからない為、魔法が放たれた方向を見て確認する。
かなり遠くからフードを被った男が歩いて近寄ってくるのがわかる。
近寄ってくる男に対して警戒をする。
剣は少し前の最終戦前に魔王の魔法を止める際に折ったため今は持っていない。
なので代わりに右手に魔法陣を展開して氷の剣を生み出し構える。
本職は剣士。手加減なしでいくのなら剣は必要だ。
「何者だ。」
次の魔法を警戒しながらそう尋ねる。
魔法を連発してこない。何かを考えているのか。
「クロスト・セイレイン。僕は君を殺しに来た。」
「お前。」
前にいる人間が誰なのかすぐにわかった。
理由は簡単。「殺す。」そう言い放った男の声を知っていたから。
「何のために俺を殺すんだ?」
「何のためって、それは今のお前が裏切り者だからだよ。」
男はそう言うと高度な魔法陣を複数展開する。
さっきまで何もしなかったのは魔法を発現する為か。それとも、正面から俺を倒したかったからか。
なんでもいい。今は目の前の敵を止めるだけだ。
魔法陣を見てすぐにスキルを発動する。
《速度変更》
「加速」
自らに加速をかけることで動きを速める。
スキル《速度変更》
指定したものの速度を変えることのできるスキル。
スキルを使い中央に展開された光線のような魔法をギリギリで避ける。
避けた直後、同時に展開された無数の魔法が一斉に放たれた。
全ての属性の追従弾だ。
魔法追従弾は魔法が対象に当たるか魔法自体が破壊されるまで追い続ける必中の魔法。
全ての属性で、しかもその量は各属性、通常の2倍以上。全てを破壊することは絶対にできない。
反撃する余裕はない。
「反射」
そう言って《速度変更》の反射を使う。
《速度変更》は速度を変えることができる能力。
これは速さを変えるだけでなく向き、ベクトルを変えることも可能である。
反射を使って相手に魔法を返す。跳ね返せるのは剣が壊れない程度のもの。魔剣クラスになればほとんどの魔法が反射可能になる。
「氷弾」
と呟いて、常に背後に魔法陣を展開し、反射しきれないものは氷を発現して防ぐ。
反射した魔法の後を追う形で男に迫る。男は更に追従弾を生み出して反射された魔法を相殺する。
反射された魔法を防ぐために守りに徹していたため、一気に男との距離を詰める。
俺は男が全て破壊する頃には男に向かって剣を振っていた。
だが、男もそれに気づき腰の剣を抜き防ぐ。
「俺が不可侵条約を提案したからか?」
それしか思い当たることがない。他にあるとすれば、討伐部隊を抜けたことだけ。
「そうだ。」
魔法の撃ち合いをやめて、俺と男は剣と剣でぶつかり合う。
「多くの犠牲を出さないためにもあの争いは止めなければならなかった。お前もわかるだろ。」
「そうだね。それは分かっているよ。あの戦いを止めたかったからこそ僕は魔族と戦ったのだから。僕が言いたいのはそこじゃない。僕が言いたいのは君程の剣士が何故、人間を裏切り、魔族側についたのかだ。」
「何を。」
俺はどちらにもついていない。どちらにも無駄な犠牲が出ないようにするために争いを止めたかっただけだ。
「僕が言いたいのは何故あそこで不可侵条約を提案したのかということだ!
魔族は魔物を使い、人間を殺してきた。人間は和解なんて望んでなどいない。大切な家族を失った君が一番、それを知っている筈だ。」
俺は5年前に家族を魔物に殺されている。魔王討伐部隊として行動していたのはなぜ家族が殺されたのか真実を知りたかったからだ。
その答えはただの自然災害で運だった。
だから、元々魔族と戦う必要なんてなかった。
「ちがっ。」
否定しようとする俺に被せるように男は続ける。
「魔族は滅びなければいけない。そんなことをなぜ君はわからないんだ。」
俺を無視して続けようとする男に対して、
「話を聞け、カナタ。」
とフードの中を覗くように見る。
俺が今戦っていたのはかつて共に戦っていた俺のことをよく知る人物。
勇者 カナタ・アイラージュ
「魔族は何もしていない。魔物は魔族と関係ない。お前も薄々気がついていたはずだ。」
勇者は驚いて動作が鈍る前に距離をとり一旦、冷静になる。
勇者は魔物に家族を殺され、その後勇者として人間の最後の切り札として戦い続けていた。
その勇者がずっと敵だと思っていた魔族が敵ではなく、もう復讐ができないという行き場のない怒りや憎しみを俺にぶつけてくるのはおかしくないことだ。
今のこの世界では俺だけが勇者を否定する存在だから。
「黙ってくれ。裏切り者の君が何を言おうと、僕は信じない。あの戦いで勝てば人間が魔族を滅ぼすことができた。それで戦いは完全に終わったんだ。なのに。君があんなことを言うから。」
勇者の使命。敵ではないと気付いていながらそれを理由に魔族を殺そうとするのなら、
勇者。今のお前は悪だ。
このまま俺が負ければ、もう一度争いを起こす火種となる可能性がある。
俺は止めなければならない。この歪んだ勇者を。
「戦いは終わった。もう戦う理由はない。まだ俺を殺したいというのなら、俺はお前を殺して止める。」
ここで俺を殺そうとするということはもう殺される覚悟は出来ているのだろう。
これ以上の話し合いは無駄だ。俺はこいつを全力で止める。
「僕たちはわかりあえないみたいだね。なら、僕は君を殺した後、この手で魔族を滅ぼす。」
「させねーよ。」
お互いに距離を詰めてぶつかり合う。
近づけば剣で少し離れれば魔法でお互い攻撃し合う。
身体能力、魔力共に負けている。
スキルは全員が持つことのできるものではない。神に選ばれた者だけが持つ力。
俺が知っているスキルをいくつかあげると、
自らの持つ《速度変化》、
聖騎士の持っていた《絶対防御》、
僧侶の持っていた《完全治癒》、
魔法使いが持っていた《魔力増強》、
そして、《勇者》と《魔王》。
勇者の持つスキルはその名の通り《勇者》。
身体能力、魔力ともに通常の2倍となり、全ての属性の魔法を操ることができる。
それに加えて、聖なる加護による状態異常耐性。
勇者は他者を寄せ付けない圧倒的な身体能力と魔力を持っている。それはスキルによる恩師があるからである。
高スペックな勇者に勝てるのは《速度変化》のスキルだけ。
「これで、最後だ。」
そう言って剣を強く握り、スキルを発動する。
「停滞」
対象の動きを完全に止めるスキル。それで勇者の動きを止める。そして、勇者の首を目掛けて、大きく剣を振る。
しかし、それは当たらない。
「なっ!」
目の前の光景に驚きが隠せない。確かに停滞を使った。
それなのに勇者は動いていたから。
「どうして。」
動けるだけの体力はあるので、全属性魔法を避けることはできる。勇者のカウンターを避けながらどうして防がれたのか考える。
触れた対象を止める停滞は剣同士ぶつかり合っても発動するため、避けることはできない。それを防がれた。
もしかしたら、勇者のスキルの状態異常にならないと言うものが発動したのかもしれない。
いつもは加速をかけていたので停滞もできるものだと思ったが、そうではないのか。
通常魔法は多くても三属性ほどしか扱えない。それは俺も例外ではなく、俺は水属性しか使えない。
だが、勇者はそれを超えて七属性全てを操ることができ、同時に全ての属性を放つことができる。
スキルが封じられた今、圧倒的に不利だ。
スキルを無効できその上自分はスキルを使うことができるそんなやつにスキルなしで勝てるのか?
距離を取ろうと足に力を入れた。しかし、跳ぶことはできなかった。
「は?」
理解が追いつかなかった。
突然身体が止まる。
時が止まったような感覚。
「まさか、停滞!?」
自分のスキルだからこそわかる。
どういうことだ?なんで俺のスキルを使える。
何故。
動けなくなったそれだけで頭がいっぱいになる。
そんな俺に構うことなく、勇者は魔法の展開を始める。次の一撃で終わらせる気だ。
ここで負けるわけにはいかない。絶対に止める。
俺はあいつとの約束をはたさなきゃいけない。負けるわけにはいかない。
「動け!」
そう叫び、
「加速」
とスキルを発動する。停止を打ち消すように加速する。まだ完全に停滞した訳ではない。スキルは使える。
加速すればもしかしたら。
その願い共にクロストは動き出す。自身の持てる力、体力全てを出し切って《停滞》を超える。
僅かに動き出した俺は、
「ウオオオオオオ」
と叫び加速する。勇者は叫び声も気にせずに無慈悲に魔法を放つ。
「俺は!」
ありえない速度で加速した身体は徐々に光りだし、一瞬眩く光る。加速しても届かないと感じた俺は剣を投げる。
剣は魔法の外側をギリギリ当たらないように飛んでいく。
「当たれ!」
目の前に迫り来る魔法を避ける術はもうない。そのまま加速しながら、魔法に突っ込む。
その直後、俺は感じたことのない不思議な感覚に襲われ、そのまま意識が飛んだ。
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