第20話 ☆俺も好きだ

「あはは!見られちまったなあ~。まあ、そういう事だ!」


「は、はい…」


明るく笑うヒューゴに誰もそれ以上何も言えず、俺も含めてただただ顔を赤くして固まるだけだった。


「あ、魔王の事だけどな。やっぱ他の転移者の力を借りる事になったから、俺ら、明日ここを発つわ。神官長に伝えといてくれるか?」


続けてのヒューゴの言葉に、やっとルイや神官達は、ハッと我に返ったようで、


「わ、分かりました!あの、お邪魔してしまってすみません…!」と、頭を下げるとバタバタと去って行った。


「…あ―――っ!!」


ドアが閉まって足音が遠くへ消えて行ったのを確認して、俺は赤くなった顔を両手で覆った。


「いや~、せっかく盛り上がってたのになあ~。んじゃ続きするか?」

「…もう、そんな気分じゃない…ていうか、お前、恥ずかしいとか無いのか?いつも取り乱したりしないよな」


俺は上半身を起こすと、逆切れ気味にヒューゴをじろっと見たが、ヒューゴは涼しい顔で言う。


「そんなの気にしてたら、死んだ時に後悔するからな。誰にどう思われるかなんて、どうでもいいんだよ。他人の事なんか気にして、自分がやりたい事をやれずに死ぬ位なら、恥かいたり失敗する事の方が1000倍マシだ」


その言葉に俺は、頭を殴られたような衝撃を受けた。


本当に―――その通りだ。


―――俺は、死んだはずのあの時から、ここに来ても、後悔ばかりしていた。


なのに、今だって人からどう見られるかを気にして、過去の事を気にして、これ以上ヒューゴと深く繋がり、関わる事を躊躇している。


…やっぱり、ヒューゴは凄いよ。いつでも真っ直ぐで、揺らがない芯を持ってて。


…俺も、誰かの目や言葉を気にするのはもう、やめよう。俺は、俺が好きなやつを好きだと言って、そいつと一緒にいる。誰にも非難も邪魔もさせない。


俺は心の中でそう、決めた。そしてヒューゴを見上げて言う。


「ヒューゴ…ありがとう。俺、お前の言葉で気付かされた。お前のそういう真っ直ぐで芯のある所、尊敬するよ」

「はは、そうか?まあユキトにそう言って貰えると嬉しいな」


ヒューゴは笑うと、俺の手を引っ張って立たせてくれた。

俺はそのまま、その首に両手を回して抱き着くと耳元で告げる。


「…ごめんな。俺弱くて、色んな事が怖くてあの時、はっきり答えなくて。…でも俺、やっぱりお前の事が好きだ。これまで生きて来た中で一番、大事だ。だからこれからもお前とずっと一緒にいたい。お前の―――恋人として。何があってもずっと」


息を呑む気配がして、息も止まるほど強く抱き締められる。


「ユキト―――!嬉しいよ…俺も好きだ、俺も何があってもお前とずっと一緒にいる」


そして顔を見合わせると、どちらからともなく唇を触れ合わせた。

触れたところが熱くて、ドキドキして、たまらない気持ちになった。


ああ、やっぱり、俺はヒューゴが好きだ。胸が熱い…気持ちいい…誰かにまたこんな気持ちを感じるなんて。そして自分が好きだと思う相手に、こんな風に好きだと言われて抱き締められる事が、こんなにも心地良くて幸せだなんて。


嬉しくて幸せで、いつの間にか俺の閉じた目から涙が一筋零れていた。


「ユ、ユキト…?」


気付いたヒューゴが戸惑って慌てたような顔で俺を見るから、俺は笑って首を振った。


「幸せでも、涙って出るんだな…俺、知らなかったよ」


ヒューゴは優しく笑うと、俺の涙のあとを指で拭って言った。


「…これからずっと、俺がお前の涙拭いてやるから、好きなだけ泣いたり笑ったりしててくれ。愛してるよ」

「俺も…愛してる」


そして口付けを交わした。


「今度は邪魔されないように、な」


そう言って笑って『結界』を張るヒューゴに、俺も笑った。

そして二人で縺れるようにベッドに倒れ込むと、性急に服を脱ぎ捨てて裸の体をぴったりと合わせ、またキスを交わした。


「あっ、ん、ヒューゴ…早く…」

「うっ、ユキト、そんな煽るなっ…!」


俺がヒューゴのものを握って扱くと、ヒューゴは眉をひそめて快感に耐えながら、俺の足を広げ、イリヤのオイルをそこに塗り広げた。

くちゅくちゅといやらしい音が響き、それがまた情欲を刺激する。


「う、くぅっ」


ヒューゴがそこに熱く固いものを沈めて堪えきれない声を漏らすのを聞くと、俺もたまらなくなって自然に腰が揺れて来る。


「あ、はぁっ」


そこで快感を拾う事にも慣れて来て、特別気持ちいい箇所がある事も知った。

自分でもそこに当たるように、ヒューゴの動きに合わせると、そうしようと思ってないのに、びくびくっと体が震えてしまう。


「あっ、あ…いい、いいよ、ヒューゴ…気持ち、いいっ…」

「ユキトっ、俺も、すげえいい」


はあはあと荒い息遣いと、激しく肉を打つ音が響く。


「あっ、もうっ、イく!あ、ああっ!」


急激に大きな快感の波がせり上がって来て、俺は夢中で叫んでいた。それに合わせるようにヒューゴの動きも速くなり、


「お、俺も、―――ぅ、くぅっ!」


中で熱いものが弾けるのを感じた。


気が付いたら俺のものからも、たらたらと白濁が垂れていた。こんな風に射精したのなんて初めてだ。俺、どうなっていくんだろう…少し、怖い気もしたけど――――


「はぁ、はぁ…ユキト、すげえ良かった…愛してるよ」


そう言って愛しくてたまらない、という風にキスされて、俺はヒューゴとなら、どうなってもいいかな、と思った。




♢♢♢





「俺も一応神官長のとこ、行って来るよ。俺はここで半年世話になったからな。ユキトは休んでな。今日一番スキル使ったのお前だし、気付いてなくても凄い疲れてると思うぞ」


「分かった、そうするよ」


俺は頷いてヒューゴを見送った。甘い時間をたっぷりと堪能した後、ヒューゴは優しい顔で俺を気遣って部屋を出て行った。


一人になると、ふう、とため息をついてベッドに寝転がる。


胸が甘く痺れているようだ。まさか、死んだと思ったあと、こんな異世界で、こんな風に思える相手と出会えるなんて。しかも冗談じゃないと思っていた、自分が受け入れる側だというのに。それなのに、幸せだなんて、本当に分からないものだ。


でも、明日にはもうここを去って、ケレスに行くのか。


そしてケレスにいる別の転移者と、俺はセックスしてスキルをコピーさせて貰わないといけない。


そう思うと、気が重い。好きだと思える相手とするセックスの心地良さを知ったのに、昔のように体だけの繋がりを強いられるこのスキルの特性が恨めしい。


だけど、ずっとこの世界に閉じ込められているのは嫌だ…いや、それでもいいのか?魔王を倒せなくてもヒューゴとずっといられるのなら…


答えは出ない。今はもう考えるのはやめよう。


神殿の、時を告げる鐘が聴こえた。俺にとっては少しの間だったけど、ここの人達にも世話になったな。俺もあとで礼を言っておこう。


あー…ルイにはあんなとこ見られたから、ちょっと気まずいけどな…この世界では同性の恋愛がどう思われてるのかは知らないけど、どっちにしろ年端も行かない子にあんないちゃついてる所を見せて悪かったな。



そんな事を考えながら、寝返りを打って窓の方を向く。窓の外で風に揺れる枝を何となく眺めた。



この世界に来てからもう何日経ったんだろうな。俺は日本で失踪扱いかな。死体が無いわけだから、あいつも罪に問われる事はないだろう。


「失踪か…」

麗央さんと同じだな、とふと思う。


麗央さんはなんで失踪なんてしたんだろうか。俺が傷付けてしまったから?いや、それだけで失踪までする筈無い。皆に慕われていたし、麗央さんは仕事にプライドを持って真剣にやってた…なのにそれを全部中途半端に放り投げて消えてしまうなんて、麗央さんらしくない。何か、俺の知らない何か、があったんだろう。


「もう、考えても仕方ないのにな…」


ぽつりと呟いた言葉は、妙に耳に響いた。




♢♢♢





その後しばらくして部屋に戻って来たヒューゴが、旅立つ前に神殿の人達が夕食会を開いてくれる事になった、と喜んでいた。


「美味いやつ、たくさん用意してくれるってさ。楽しみだな!」


機嫌よくそんな事を言うので、俺はヒューゴらしいな、と笑った。


それから二人でベッドに転がって話している内に、やっぱり疲れていたらしく眠ってしまい、ドアを控えめにノックする音で目が覚めた。


「あ、あのー。入っても大丈夫でしょうか?」


おずおずとルイの声が掛けられる。俺は起き上がると「大丈夫だから!開けていいから」と声を張った。


「し、失礼します」


ルイが遠慮がちにドアを開けて入って来ると、ベッドの俺達を見てちょっと顔を赤らめる。

いや、『今は』何もしてないから。ただ寝転がってただけで。


「…あ?俺寝てた?やっぱ疲れてたんだなー」


ふわあ、と隣でヒューゴも目を覚ます。


「あの、夕食会の準備が出来たので呼びに来ました」


「ああ、ありがとうな」


ちょっとばかり恥ずかしいが、最後だしちゃんと伝えておきたいと思い、俺はベッドを降りて、ルイに向かい合った。


「ルイ、ここにいる間すごく助けてくれてありがとうな。お前の天真爛漫さに癒されてたよ。…それなのに純粋なお前に、あんな所見せちゃってごめんな。忘れてくれると、助かる」


ルイは入って来てからずっと顔を赤くして、微妙に目線を合わせないでいたけど、俺の言葉にはっと顔を上げて真っ直ぐ俺を見た。


「そっ、そんな!僕、ユキト様やヒューゴ様のお役に立てて、僕の方こそ感謝してるんです!そ、それに」


ルイはまた少し顔を赤らめる。


「あの…お二人の愛し合うお姿を見て、びっくりはしましたけど、なんか、すごくドキドキして…何だか感じた事がないような…とても忘れられそうにありません」


…あれ?

何か、ルイの扉、開けちゃった…?


「あっははは!そうかー!ルイ、お前も大人の階段上り始めたんだなあー!」


後ろでヒューゴが腹を抱えて笑い出し、俺は小声で「やめろよ!」とヒューゴを突いた。


☆☆☆

(挿絵:表紙絵の全体図)顔の見えない相手はヒューゴでした!

https://kakuyomu.jp/users/padma/news/16817330652929338909

********

2021/11/16加筆修正しました。最初のバージョンでは二章でしっかり気持ちを通じ合わせてからのヒューゴとのらぶえっちでしたが、改訂版ではここで気持ち通じ合い、からのらぶえっちに突入します。※かなりラブ度上がってます。

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