閑話 オレの先輩KEYさん ♢本編とは関係ないユキトのホスト時代の話

本編とは関係ない閑話です。エブリスタで、スター(いいねみたいなもん)を送ってくれた方だけが閲覧できる特典の為に書いた話です。ユキトのホスト時代の話、源氏名はKEY(キー)でした。3話にちらっとユキトの感想に出て来たラノベ大好き、ゲーム大好きの後輩のリョーマの一人称でユキトとの絡みが読めます。




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営業前。掃除が終わってオレが店のバックヤードでかる~く自主休憩してると、先輩が入って来たんで、一瞬怒られるかとビクッとしてしまった。でも顔を見て安心した。この人なら大丈夫だ。


「お疲れ様っす、KEYさん!」

「んー」


KEYさんはいつものように気怠そうだったけど、そんな姿ですら何と言うか色気がある人だ。ナンバーワンじゃないけど、一部の客層にすげー人気なのも頷ける。


「なに、お前またラノベ?ほんと好きだな」


オレが読んでいた『異世界転移したらレア種族の女の子達に溺愛されてハーレム出来ちゃいました』のピンク多めの表紙を見て、KEYさんは呆れたような口調で言う。


「いや、ラノベだけどこれ、めちゃくちゃ面白いんっすよ!ありがちなハーレムものなのに、序盤からいきなり予想裏切って来るゲキアツ展開で!涙あり笑いありでオレのイチオシなんすから!KEYさんも1回読んでみて下さいよ!」


思わず熱く語ってしまったけど、KEYさんはハイライトの消えた目で「いらねー」とソファに腰を沈めた。


くう、塩対応だけど、それでもなんかオレはこの人、好きなんだよな。

素っ気ない態度は取るけど、オレの馬鹿な話を何気にちゃんと聞いてくれてるし、時々ホントに面白そうに笑ってくれるし、ミスばっかするオレの事もさりげなくカバーしてくれてる。


いい先輩だと思うんだよな。


まあ、なんか色々変な噂もあるけど、オレはそんなのKEYさんに嫉妬した奴らが流した、根も葉もない噂だと思ってるし。


「あれ?そういえば今日は同伴なかったんっすね」

「そりゃ俺だって同伴無い日もあるよ。身体1つしかねぇんだから」


そう言って目を閉じて天井を仰いだKEYさんは、どこか疲れているように見えた。長めの艶のある黒髪がサラリと額から流れて、横から見てると長い睫毛が女の子みたいにキレイだけど、顔色があんまし良くない。


「どしたんすか、なんか疲れてるみたいすよ?あ、オレ肩揉みましょうか!けっこううまいって褒めて貰えるんで」


オレはそう言って、ささっとKEYさんの後ろに回って自慢の手腕を発揮したけど、


「ちょ、止めろって、くすぐったいだけだって」

と笑われて手を離した。


「あれ?あんま凝ってないすね。じゃあ何か飲み物作りましょうか?あったかいの飲んだら疲れも取れますよ!」

「あー。じゃ頼む」


そう言われてオレはキッチンで、オレんちのとっておきのレシピで自信作を作った。


「はい!どうぞ!熱いから気を付けて下さいね?」

「これ、なに?」


怪訝な顔でオレの差し出した熱々のカップを受け取ったKEYさんに、俺はニカッと笑って答えた。


「梅昆布茶っす!めちゃくちゃ体にいーんすよ?オレのばあちゃんがいっつも作ってくれてたんです。あ、それに使った梅干しはウチの自家製っすから!」


「ふはっ」

KEYさんは思わず、って感じで吹き出した。


「お前、俺より若いくせに渋いもん出して来るなー」


ひとしきり笑ったあと、カップに口を付けて少しづつ飲んでくれた。


「ん・・・美味いな」


そう言って口元をゆるめるKEYさんにオレは嬉しくなった。


「やった!でしょ?オレもいっつも飲んでるんで、めちゃくちゃ健康っすよ」

「ははっ」


ガッツポーズをとってみせると、KEYさんはまた笑った。

ほら、みんなKEYさんは愛想が無いとか何考えてるか分かんねー、とか言うけどさ。

こんな風に笑ってくれるし、オレのした事喜んでくれてるし、いい人だって思うんだよな。


まあ誤解されやすい人だとは思うけどさ。


「おい、そろそろミーティング始めるぞ」


ドアが開いて、このホストクラブcharme(シャルム)のナンバーワン、麗央さんが入って来た。


麗央さんはKEYさんとはまた別のタイプの、色っぽいイケメンだ。シルバーアッシュの長髪を綺麗に手入れしていて、人当たりもいいし、オレみたいな下っ端の後輩にも優しくしてくれて、あれこれと世話を焼いてくれるうえに明るくて楽しい。

KEYさんが月なら麗央さんは太陽って感じ。


「あれ、KEY。お前、なんか顔色悪くないか?体調悪かったら我慢せずに言えよな?」


麗央さんはやっぱりKEYさんの事にすぐ気付いて、心配そうに顔を覗き込んだ。


「いや、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけですから。行きましょう」


KEYさんは麗央さんにそう言って立ち上がると、ドアを開けてバックヤードを出てった。


「う~ん、KEYのやつ、素直に言わないからなあ。気になるけど、まあ様子見るか。リョーマも気を付けてやっててくれよな」

「もちろんっす。任せて下さい!」


麗央さんに言われてオレは頷いた。




営業時間になり、オレ達は忙しく働いていた。オレなんかはまだ指名もそんなないし、主に雑用や片付けや、誰かのヘルプに入るくらいだけど、麗央さんはもちろん、KEYさんも指名客の相手で休む間もない。


KEYさんはバックヤードで見せる気怠げな、素っ気ない態度が嘘みたいに、営業の時は好青年だ。

品のいい微笑みで、客の話をしっかり聞いて的確に言葉を返している。


前に麗央さんが「あいつ、○○高校だったらしいよ」と言ってたんだけどさ、それ、めちゃくちゃ頭のいいやつが行く、レベルの高い学校なんだよな。なのになんでホストになろうって思ったんだろうな?

KEYさんはそういう事は全然話してくれないから分からないけど。


とか考えながらテーブルの上を片付けていたら、KEYさんにヘルプに呼ばれた。

急いで行くと、KEYさんの指名客に連れられて来た客がラノベとかゲームが大好きって事で、オレが呼ばれたみたいだ。


「任せて下さい!そーゆー話、大好きなんで!」


オレが胸を叩いて言うと、客の女の子が「ええ~私の話に付いてこれるかなあ。私けっこうディープだよ?」と悪戯っぽい目をして話題に出したゲームは、いわゆる乙女ゲー。


だがしかし!オレはこういう事もあろうかと女の子が好きそうな乙女ゲーもBLゲーもチェックしている!なんてな。単にオレがそういうのも好き、っていうだけなんだけどな。


あ、ちなみにそーゆーゲームしてるからって、オレ自身は男には興味ないんで。女のコしか好きにならないんで。

それはともかく、オレは色めき立った。だってこの前終わらせたばっかのゲームだったしな。


「あー『紅の桜散る永遠の泡沫』はオレもやりました!王子キャラの吉良が闇落ちするBADエンドが、あれはあれで良くて面白かったっすね!」

「えっ、うそ。あれって出すのけっこう難しいエンドなんだよ。凄いやり込んだんじゃない?男の子なのにクレウタやってるって子初めて~」

「一応コンプしたんで!」

「えっすごーい!じゃあさ、一番好きだったの誰?誰推し?」

「オレはやっぱ吉良ですかねー。キャラデザも良かったし声もいいんすよね!」

「え~分かるけど私はやっぱ、璃央かなあ。儚い美少年って大好物でさ」


オレが水を得た魚みたいになって女の子と盛り上がってるのを、KEYさんは面白そうに見ていた。


何とかいい感じで満足して貰えて、次は指名してくれるって事になった。やった!


でもオレなんてKEYさんや麗央さんの足元にも及ばない。


営業時間が終わりに近付く頃、KEYさんの太客の理恵子さんがロジャーグラートを入れて来た。

この人、会社の社長とかでコンスタントに高い酒を注文してくれるんだよな。


でも理恵子さんは、ちょっとヤバい人だ。独占欲が凄いというか・・・でも金払いがいいし、KEYさんはフツーじゃない執着心で迫られても、笑顔でうまく躱している。


オレだったら絶対無理だな・・・


店が終わった後、KEYさんは理恵子さんとアフターに行った。当然やってんだろうな・・・


オレは駆け出しのぺーぺーだし、枕はまだ、した事ない。


好みの女の子なら喜んで出来るけど、もし理恵子さんみたいなヤンデレ客が付いて、やらなきゃいけないってなったら・・・オレ無理かも。


でもやんなきゃ上には行けないんだろうな。


あーあ。

ラノベ読んでゲームしてるだけで生きていけたらいーのになー。


そんな事を考えながら掃除をして、仕事を終わらせて家に帰った。


安アパートの一室で風呂に入ってちょっとスマホチェックして、BLゲームの続きしてたらいつの間にか寝てたらしい。


オレはなぜか寝る直前までやってたBLゲームの『Fall into pleasure』の世界にいて、あ、これ夢だなって思った。


ちなみにどんなゲームかって言うと、ある日突然異世界転移してしまった主人公が、魔王を倒すって目的の為に色んな攻めキャラとセックスして能力を高めて、魔王倒すまでに一番好感度が高かったキャラとのエンディングを迎えるって話なんだよな。


で、そのBLゲーの世界にいるオレは、映画見てるような感じで、そこで展開するストーリーをただ見てるだけだった。


たださ。その主人公が、なぜかKEYさんになってて。


ちょうど寝る直前までオレが攻略頑張ってた、熱血ハイテンション攻めキャラ君と、ゲームにはこんなシーンなかったよな!?っていうような濃厚なR18シーンを繰り広げてて。


現実のKEYさんなら絶対にしないだろう、甘くて切なげな表情で攻め君の名前を呼びながら派手にイッちゃった姿を見たところで目が覚めたら、朝だった。


「な、なななななんて夢を見てんだ、オレは!!」


KEYさん、すんません!オレ、勝手にKEYさんのこと、夢で穢しちゃいました!!


オレはうわあああ、と頭を抱えて布団の上でごろんごろん転がって悶絶した。




その夜、店でオレは真面目に掃除をして、開店準備をしていた。


そこにKEYさんが話し掛けて来た。


「リョーマ。今日また唯奈さん来るから、お前にヘルプ頼むな」

「ひゃ、ひゃいいッ!」


KEYさんは、いつものように気怠げでつまんなさそーな顔をしていたけど、オレは昨日の夢の色っぽく喘いでたKEYさんの顔をオーバーラップさせてしまい、めちゃくちゃ動揺してヘンな声を出してしまった。


KEYさんは呆気にとられた顔をしたあと、ぷっと噴き出した。


「なに、その声?お前ホントおっかしーよなあ。お前さ、動画配信とかしたら人気出んじゃねぇの?愛嬌あるしさ」

「へあっ、配信っすか?は、はは、いやぁできるか分かんねーすけど」

「向いてるって絶対。てかお前・・・お前にはあんま、自分を殺して枕とかやって欲しくないっていうか・・・いや、何でもない」


KEYさんは何でもないって言ったけど、オレちゃんと聴こえた。

オレがどんな人とでも枕出来るタイプじゃない、って分かってくれてるんだよな。


やっぱ、優しー人だよな。


その後慌ただしくなって話はそこで終わったけど、KEYさんが言った言葉はオレの中に残ってて。


オレは顔出しで現役ホストのゲーム配信チャンネルとか作って、動画を配信してみるようになった。

そしたら段々人気が出て来て、お店にも人が来てくれるようになって。嫌な相手と枕しなくても大丈夫なくらいのお金が、動画配信で入るようになって。


でも、ある日突然麗央さんに続いてKEYさんも消えてしまった時、オレもホストを辞めた。


KEYさんがなんで消えたのか、オレには何も分からない。

けど、ホストやってるKEYさんは、いつもつまんなさそーでダルそーだった。


今KEYさんが何をしてるのかはオレには分かんないけど、今は、楽しくて、幸せだったらいーな。てか、また会いたいな。いつか会えるかな?会えたら夢で変な登場のさせ方しちゃってすんません、って謝んないとな。





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ちなみにリョーマの配信で人気あったのは、リョーマのリアクションを見ながらの乙女ゲー、BLゲーの実況動画だった、という裏設定。

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