第75話 戦後処理
オレの姿は元に戻っている。オレの正体がばれてしまった。これからどうしようか悩んだ。とるべき方法は2つだ。1つは正直にすべて話す方法。この方法をとると、オレはもうこの世界にいられなくなる。まだ、帝国の処理もあれば、サティーニ魔王国も残っている。なによりも、この世界の平和が道半ばだ。2つ目は、オレの正体を知った存在の記憶を消すか、改ざんする方法だ。だが、愛する人達をだますことになってしまう。
ここで気づいた。オレは自分のことしか考えていないことに。エリー、ミク、リリーは元天使だ。本人たちは知らないが、修行のために今回は転生しているのだ。俺の都合で、彼女たちの修行を邪魔するわけにはいかない。
オレは、2つ目の方法をとることを決めた。みんなごめん。
「ロストメモリー」
魔法を発動し、全員の記憶を消して、ここに転移した直後に戻した。
ミクが不思議な顔をして言った。
「あれ、私、ここに転移して何してたにゃ?リリー!よかったにゃ。無事だったにゃ。」
エリーもマジョリカも同じだ。
「リリー!良かったー。無事だったんだ。」
だが、一人だけオレを見ている存在がいる。バビロンさんだ。
「レイさん。みんなの記憶を消しましたね?事情がおありのようですから、私は何も言いませんが。」
やはりバビロンさんは何かに気づいている様子だ。
みんなの不自然な様子を見てリリーは言った。
「みんな大丈夫?」
エリーが聞いた。
「リリーは大丈夫なの?痛いところない?」
「うん。私、夢の中にいたんだ。皇帝とビスマンに翼をむしり取られて、すごく痛かったの。体も痛かったけど、レイ君のお気に入りの翼がなくなっちゃったって思ったら、つらくて。でも、レイ君が助けてくれたんだ。不思議だけど、レイ君が大きな翼を付けていて、髪も赤くて、目が金色だったんだよ。すごくかっこよかった。」
オレは、自然と涙がこぼれた。
ミクが気が付く。
「あっ、レイ。泣いてる~。」
「うるさいな。いいじゃないか。嬉しいんだよ。リリーおかえり。」
オレはリリーを抱きしめた。きつくきつく抱きしめた。
「レイ君、ずる~い。でも、今日はいいかな。」
その様子を見ていた、マジョリカさんの顔に笑顔が戻った。
「リリー。あなた幸せね。みんなに愛されて。」
「うん。」
その後、オレ達はステイル王国に転移した。そして、マジョリカさんを家まで送り届けた後、オレとエリーミクとリリーはいつものように王城に来た。バビロンさんは転移でダンジョンに戻った。
「国王陛下、戻りました。」
「レイ、ご苦労であった。で、帝国の状況はどうだ。」
「はい。皇帝ナイル=ビクティアと宰相ビスマンは、私が倒しました。」
「殺したのか?」
「はい。」
「そうか。では、ビクティア帝国の今後を相談しないといけないな。世界会議を開くか?」
「はい。早急にみんなに相談したいと思います。」
翌日各国の代表もステイル城に集まるように招集をかけ、オレ達は一旦帰ることにした。その日はみんな疲れていたので、『フォラン』で夕食をとり、翌日の朝食も買い込んで、家に帰ってぐっすりと寝た。
翌日、オレが起きて居間に行くとさすがに誰も起きていなかった。珍しく、オレは朝食の準備をした。準備といっても、前日『フォラン』で買った食料を並べて、お茶の用意をするだけだけど。すると、リリー、エリー、ミクの順で起きてきた。
「おはよう。レイ君。あっ、朝食の用意が出来てる。これ、レイ君が用意したの?」
「そうだよ。」
「旦那にやらせちゃった。ごめん。」
「いいさ。疲れてるときはお互い様だよ。」
「優しいね。レイ君は。」
エリーが甘えるようにキスしてきた。
「私も!」
「私もにゃ!」
オレは、そんな騒々しさが嬉しかった。
“この何でもない日常が幸せなんだよなぁ。”
オレ達が王城に行くと、すでに会議のメンバーはみんな揃っていた。
「すみません。遅くなりました。」
精霊王アポロが擁護してくれた。
「みんな怒っていないよ。レイさんが一番疲れていることを知っているからね。」
「ありがとうございます。では、始めましょうか?」
会議では、それぞれの状況を報告した。古代竜ギドラさんからは帝国軍と王国軍の双方の死者数も報告された。犠牲者を出したことに、心を痛めているようだった。
後でフォローしないと。
精霊王アポロさんからは、オレの活躍が報告された。オレからは、皇帝ナイルと宰相ビスマンを殺したことを報告した。
そして、これからの帝国のことに話が移った。
「帝国の統治をどうするかだな。」
ライル国王が聞いてきた。
「帝国には皇帝や宰相の政治に反対していた貴族はいないのか?」
チャーチルさんが提案する。
「フェアリー連邦国とステイル王国が隣接しているのだから、そのどちらかが領土を広げて統治してはいかがでしょうか?」
精霊王アポロさんが答える。
「我々は、世界樹を守る使命があるので、難しいですね。」
ライル国王が答える。
「我々が治めるのはやぶさかでないが、我々の領土が広くなりすぎてしまい、この東大陸の均衡が崩れるのではないかな。」
古代竜ギドラさんが発言する。
「では、まずふさわしい人物を帝国内で探しましょう。それで、該当する者がいなければ、ライル殿にお願いするしかないわね。」
オレは、話が行き詰ったところでバビロンさんを呼んだ。
「バビロンさん。聞きたいんだけどいいかな。」
「どんなことでしょうか?」
「帝国内で、皇帝や宰相の政治に反対していた貴族っていないかな?できれば、帝国を統治できる人物がいいんだけど。」
「いることはいますが、相手がこの話を受けるかどうか?」
「誰ですか?」
「前皇帝の弟で本来公爵だったのですが、ナイル皇帝に逆らってばかりで、辺境伯に降格させられた人物です。戦争反対の穏健派の代表人物ですね。名前は、確か、マリオ=サンドレスだったと思います。」
精霊王アポロさんが提案する。
「その、マリオ=サンドレスという人物に会ってみましょう。」
「はい。では議長として、私が会ってきます。」
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