第74話 神の怒り

 オレが世界樹の森近郊で帝国軍と戦っていた時、リリーは母親を探してデリーの街の領主館にいた。そこには、体中傷だらけで縛られた母と宰相ビスマンの姿があった。



「お母様!」

 

「お前が『神の使徒』を名乗るレイとかいう者の妻か?」

 

「それが何?」

 

「逆らえば、そ奴は殺す。お前の能力などすでにお見通しだ。」

 

「あなたは何者なの?ただの人族じゃないよね?」

 

「お前が知る必要はない。」


「リリー、私のことは構わず逃げて。こいつは危ないわ。」

 

「逃がすわけないだろう。ここに来い。」

 


 リリーは反撃しようと、『シャドウミスト』を発動しようとした。



「魔法を使うか、ならば、こうしよう。」


 ビスマンは、容赦なく母親の背中の翼を1枚むしり取った。



「ウ―――。」



 マジョリカは必至で痛みをこらえる。



「待って!それ以上何もしないで!あなたのいうこと聞くから!お願い!」



 リリーがビスマンに近づくと、ビスマンは容赦なくリリーを殴り、蹴飛ばし、足蹴にする。



「俺様の計画を邪魔する奴は許さん。」


「やめてー!この子は助けてあげて!お願いします。」



 それでもビスマンはやめない。血だらけでぐったりしたリリーを担ぎ、ビスマンは姿を消した。

 

 エリーとミクとバビロンは、バビロンの眷属により場所を特定し、領主の館まで来た。

 

 そこで、壮絶で残酷な状況を見た。翼をみしりとられ、血だらけで縛られているマジョリカを見つけたのだ。


 エリーがマジョリカに治癒魔法をかける。



「リカバリー」



 するとマジョリカの翼が元に戻り、体中の傷が治っていく。



「マジョリカさん、起きてください。」 



 マジョリカが目を覚ますと、見知った顔が目の前にいる。



「エリーさん。ミクさん。リリーが攫われたの。あの子を助けて。殴られて傷だらけだわ。何されるかわからない。」



 マジョリカは取り乱して泣いている。



「マジョリカさん。落ち着いてください。リリーを攫ったのは誰ですか?」


「ビスティア帝国の宰相ビスマンよ。あいつは、人族のようだけど違うわ。強すぎる。それに残酷だわ。」


「どこに行ったか分かりますか?」


「リリーを担いで、突然姿を消したの?」


「エリー。恐らく『転移』ね。」


「『転移』を使えるということは、かなりの実力者よ。レイに連絡を入れようか?」


「そうね。レイ君に連絡したほうがよさそうね。」



 エリーは『通信』でレイに連絡をした。連絡を受けたレイは、エリーに大体の場所とイメージを送ってもらって転移してきた。



「バビロンさん。リリーがどこに攫われたか調べてくれる。」


「レイさん、もう調べてありますよ。リリーさんはビクティア帝国のナイル城にいます。」


「そこまで、オレ達を連れて『転移』できる?」


「やってみましょう。」



 レイ、エリー、ミク、バビロン、マジョリカがナイル城に転移した。城中をバビロンさんについて移動し、謁見の間まで来た。ドアを開け中に入ると、そこには、豪華な椅子に座る皇帝ナイル=ビクティアとうっすらと笑いを浮かべる宰相ビスマン。その足元に両方の翼をむしりとられ、血だらけで目を閉じて横たわる少女。


 それを見たオレの身体から眩しい光が放たれ、その光は徐々に強くなる。城の外では、世界中の空が真っ黒な厚い雲で覆われ、この世の終わりのような光景が広がる。空からは、激しく雨が降り、稲妻が地面に突き刺さる。海は荒れ、波の高さは10mにも達している。


 オレの姿はさらに光を強め、だんだんと変わっていく。背中に生えた白く大きな翼は、黄金色に染まり、さらに大きくなる。髪の色は白銀から真っ赤に染まり、目は黄金に輝く。頭上には黄金に輝く王冠が見える。


 エリーが必死になって止める。



「レイ君!やめて!!抑えて!!世界がなくなっちゃうよ。」



 皇帝ナイルが言う。



「これが『神の使徒』の力か?」


 その横で、ビスマンは青くなり震えている。



「違う。違う。この力は神の使徒なんかじゃない。」


 

 レイが無機質に告げる。



「我は『創造神ガイア』である。」

 


 それを聞いてエリーもミクも驚く。

「え~。レイ君が神。創造神?」



 バビロンは驚きもせず



「やはり、・・・・・・・」



 オレはナイルとビスマンに告げた。



「我は母上に殺生をしないと約束した。だが、お前達は一線を越えた。殺す。だがただでは殺さぬ。これ以上ない苦しみを与えて殺す。殺した後も、創造神の名において未来永劫『地獄』で苦しむことを命ずる。」



 ナイルもビスマンも泣いて詫びている。



「お許し・・・お許しください。どうかお慈悲を。」


「お前らに与える慈悲などない。」



 オレが2人を睨むと、2人の身体から血が噴き出す。さらに、髪の毛が抜けていく。右手が腐り、左手が腐り、右足が腐り、最後に左足が腐って取れた。



「痛い~。お許しを。お許しを。」



 レイは、2人の心臓を手で貫いた。


 そして、リリーに近づき、冷たくなったリリーの身体を抱き上げた。冷たくなったリリーの口にキスをした。まるで、命を吹き込むかのように。



「リバイブ」



 するとリリーの身体が宙に浮き、温かく眩しい光に包まれた。それは、まさに神が命を与える荘厳な光景である。エリーもミクも大きく目を見開いて、その様子を見ている。静まり返ったこの場所には、沈黙しかない。


 眩しさがおさまり、リリーの姿が見えはじめた。リリーの動かないはずの口元が微かに動いた。


 エリーとミクとマジョリカさんがリリーに駆け寄り、声をかける。


 母親のマジョリカさんが必死に声をかける。



「リリー!リリー!リリー!お願い!起きて!!レイ君と幸せになるんでしょ!目を覚ましなさい!」



 リリーがゆっくりと目を覚ました。オレの目を見て言った。



「レイ君が助けてくれたの?ありがと。エッチだけど大好き。」


 

オレの目にもエリーの目にもミクの目にもマジョリカさんの目にも涙があふれた。

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