第71話 帝国からの使者

 会議室に行くとすでに大勢の貴族が集まっていた。ステイル王国の西海岸にビクティア帝国の軍艦が10隻来ているようだ。ただ、戦闘する様子は見られない。


 ライル国王陛下を初めてして、会議室にいる全員で状況の確認と対応を協議していた。


 突然外から爆音が聞こえた。



「バゴ~ン、ドッドッドッド~ン。」



 窓から外を見ると、以前オレが山頂を消し飛ばした山があったはずだが、中腹からなくなっていた。



「あれは、恐らく量子破壊砲です。」



 オレは、この場にいるみんなに伝えた。


 国王陛下が答える。



「フェアリー連邦国で使われた武器だな?」


「はい。」


「すごい威力だな。」


「今のは出力を下げていたと思います。出力最大で放てば、恐らくこの王都は一瞬で消えるでしょう。」



 貴族たちが慌てふためく。



「どうにかならないのか?」


「なぜ帝国が攻めてきたんだ?」


「あんな軍事大国に狙われたら・・・・・」



 ここで国王陛下が一括する。

 


「やめよ。」


「国王陛下、オレが様子を見てきましょうか?」


「レイ。行ってくれるか?」


「はい。ただ、状況次第では、帝国と本格的な戦争になりますよ。」


「それは、仕方ないだろう。」



 エリーが告げた。



「レイ君。チャーチルさんやギドラさん、アポロさんにも伝えるね。」


「よろしく。じゃぁ、行ってくるね。」

 

「レイ君。あたしも行く。」

 


 リリーが言ってきた。

 

「そうだね。リリーは飛べるし、何かあったときにいてくれると助かるな。」



 エリーとミクを見ながらベロを出しておどける。



「うん。いつも一緒。」

 

「ずる~い。」



 オレは2人を無視して、リリーと一緒に戦艦のいる場所の近くまで転移した。その後空を飛び、上空から様子を眺めた。確かに攻撃してくる様子は見られない。なら目的は何だろう。


 すると、戦艦から小舟が出てきた。小舟といっても漁船よりははるかに大きい。船上には軍人らしき人間がいる。


 オレは上空から尋ねた。



「あなた方はステイル王国に何か御用ですか?」


「皇帝陛下から親書を預かっている。王に目通り願いたい。」


「わかりました。お連れしましょう。」



 オレは地上に降りて、小舟が接岸するのを待った。小舟から降りてきた10人の軍人を連れて、王城まで転移した。


 この者、飛翔ばかりか転移まで使えるとは、ただ者ではないな。



「そなたが、『神の使徒』殿か?私はビスティア帝国軍の総司令官デストだ。」


「私はレイチェルと申します。ここでお待ちください。」


 オレは応接室に案内して、直ぐに会議室に戻った。



「国王陛下、ビスティア帝国の使者をお連れしました。応接室でお待ちいただいています。」


「バロン、謁見の間にて対応する。」


「はい。すぐに準備します。」



 バロンお父様は、謁見の間の準備に取り掛かり、貴族達は謁見の間に異動した。オレとエリー、ミク、リリーは『隠密』をかけ、謁見の間の後ろで控えている。全ての準備が整い、ビスティア帝国軍総司令官のデスト達が入場してくる。お互いの挨拶が終わり、デストから国王陛下に皇帝からの親書が渡される。


 それを読んでいたライル皇帝陛下の顔色が見る見るうちに赤く変わっていく。


 その内容をかいつまんで説明すると、



『西大陸の大魔王ユリウスは脅威である。そなたの国だけであれば、容易く滅ぼされるだろう。助けてやるから、俺の言うとおりにしろ。まずは、ビスティア帝国の属国となれ、その証にまだ未婚の第4王女と第5王女を差し出せ。俺の側室にしてやる。ありがたく思え。それと、お前の国の兵士達をビスティア帝国の軍隊に加える。以上だ。この要求がのめないのであれば、ビスティア帝国が武力でお前たちを滅ぼす。』



 ライル国王陛下は、使者デストに言った。



「このステイル王国は『神の使徒』によって守られた国だ。いつでも攻撃してくるがよい。要求は全て断る。帰って、神の意志に逆らう愚かな皇帝に伝えるがよい。」


「よいのですかな?あなたの返答次第で、この国の民に被害が及ぶのですぞ。」



 部屋がだんだんと寒くなり、帝国の使者達は肌に痛みを感じ始めた。すると、部屋の後ろから突然眩しく神々しい光が現れた。



「オレを怒らせるな。オレは『神の使徒』だ。殺生はしない。だが、オレの大切なものを傷つける者、最高神ソフィア様を悲しませる者は別だ。容赦しない。」



 その光景を見て、デストも他の使者達も顔を青くして震えながら、足早に退出した。



「国王陛下、申し訳ありませんでした。勝手なことをしました。」



 すると、貴族から声が上がる。



「ステイル王国バンザーイ。」


「国王陛下、やりましょう。この国を守るためなら、我々貴族一同、この国の盾となりましょう。」



 貴族が一丸となっている。それは、数年前、お互いに争っていたとは思えない光景だった。オレは嬉しかった。人々が私利私欲から離れて、心から平和を欲する声のように聞こえたからだ。

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