ビスティア帝国

第70話 帝国の動き

 世界会議の後、オレ達4人は東大陸で修行の旅をしていた。ステイル王国の森では、村の人々を苦しめていた強力な魔物のキメラを退治した。リーゼット聖教国では、東海岸に現れた強力な海の魔物のクラーケンや巨大なサメ型の魔物のメガドロンを討伐した。


 そして、3年が経ち、レイもエリーもミクもリリーも20歳になった。


 ミクが目ざとく言ってくる。



「レイってさ~、年とっても変わらないにゃ。なんか子どもっていうか、まだ18歳ぐらいに見えるにゃ。」


「そうかな~。多分『神の使徒』だからじゃないかな?」



 リリーが自慢げに成長した胸を前に突き出している。



「私は大人!胸も大人!エッヘン!」



 確かに成長はしたが、絶壁ではなくなったという程度だ。ミクがスイカならエリーはメロン、リリーは桃かな。どれも甘くて好きだけどね。


 一方、帝国でも動きがあった。当初、南方司令官の将軍サウスや北方司令官の将軍ノースを含む、2,000人の軍人が行方不明となり、さらに1,000台の戦車を失ったことに、皇帝ナイル=ビクティアは衝撃のあまり言葉を失った。さらにその原因がステイル王国に現れた『神の使徒』だったことがわかり、自分の行動が神の意志に逆らうものではないかという自己嫌悪に見舞われたのだ。だが、宰相ビスマンの助言により、気持ちを切り替え再度軍備増強に力を入れてきた。



「ビスマンよ。我の行動は間違えていないと思うか?」


「はい。皇帝陛下。西のユリウス大魔王に対抗するには、平和的な解決はできません。陛下がこの東大陸をまとめ、対抗する以外に手段はないと思います。」


「そうよの~。ビスマン。戦力の方はどうなっておる?」


「はい。戦車は新たに2,000台用意できております。量子破壊砲も20隻のすべての戦艦に装備が終わっています。尚、地上部隊にも10門ほど配備しております。」


「軍隊の数はどうだ?」


「はい。フェアリー連邦国から帰還した軍人達は、もはや使い物になりません。それに、ドワーフ族、エルフ族、獣人族の奴隷達が帝国から一斉に姿を消しましたので、現在30万人程度となっています。」


「まぁよい。最初に憎きステイル王国を滅ぼし、その住民どもを奴隷とし、捨て石として軍人に加えることにしよう。」


「問題なのは、『神の使徒』を名乗るレイとかいう奴よのぉ。何か手はないか?」


「はい。暗部に調べせたところ、かのものの実力は人外であると報告を受けております。」


「何か手はないのか?」


「はい。妻が3人いるようですから、そのうちの誰かを人質に取り、参戦させなければよろしいかと。」


「どうやって人質にするのじゃ?」


「それはお任せを。」



 皇帝ナイルとの話が終わり、宰相ビスマンは自分の部屋に戻った。



「あの馬鹿皇帝!1度負けたぐらいでやる気を失うなどダメだな。このままだと、ユリウスに先を越されてしまう。何としても、この東大陸を統一しなければ、あの方に叱られてしまう。それにしても邪魔なのは、あのレイとかいうソフィアの『使徒』だな。」

 


 オレ達は久しぶりに公爵家に来ている。そこには、ステイル王国第1王子ロバート殿下と、結婚したローザお姉様が赤ん坊を抱いていた。



「久しぶりね。レイ。見て~。あたしの赤ちゃん。名前はジェイムスっていうの。可愛いでしょう?」


「可愛いですね。オレの甥ですね。」



 オレが答えるや否や、エリーとミクとリリーがお姉様に近づき、興奮している。



「キャー。」「可愛い~。」「可愛すぎ~。」


「エリーちゃん、ミクちゃん、リリーちゃん。あたなたちも早く頑張りなさいね。」



 なんかお姉様の言葉にエリーが反応している。



「はい。今日の夜、頑張ります。」


 オレは心の中で謝った。



“ごめん。エリー、ミク、リリー。全てが終わるまで、赤ん坊はできないんだ。でも、いつかは喜べる日も来るさ。”



 その後、皆で食事をして、これまでの旅のことをいろいろ話した。



「古代竜に7大精霊って、やっぱりレイは規格外だけど、エリーちゃんもミクちゃんもリリーちゃんも規格外になったんだね。」



 エリーとミクは自分が『規格外』扱いされたことが嬉しくて、ニコニコしながら嬉しいことを言っている。



「レイ君のおかげですよ。」


 

その横で、リリーがローザお姉様の胸を見ながら、自分の胸を触ってぽつりと言う。



「私は規格内。」



 ローザお姉様が爆弾発言だ。



「リリーちゃん。レイに毎日マッサージしてもらいなさい。なんか好きな人にマッサージされると、だんだん大きくなるらしいよ。」


「レイく~ん。今夜からお願~い。」



 その上目遣いは反則だよ。リリー!


 ローザお姉様のなんの科学的根拠もない発言をリリーは信じてしまったようだ。


 その後、オレ達はステイル王国の王城に来た。応接室でライル国王陛下とセリーヌ王妃と歓談している。やはり、話題は子どものことだ。オレが気まずそうにしているのを、エリーが察したようで話題を変えてくれた。



“エリーって本当に気が利くよな。”



オレが、ニコニコしながらエリーを見ていると、横からリリーが言ってくる。



「レイ君、またエリーに見とれてる。」


「だって、エリーが美人なんだもん。美人は3日で飽きるって言われるけどウソだね。オレ、エリーなら一生見ていられるよ。」



 エリーは真っ赤になってもじもじしながら下を向いている。



「レイ君ったら。正直なんだから。」



 そんなオレ達の様子を見てライル国王陛下が言った。



「この平和な時間がいつまでも続いてくれると嬉しんだがな。」



 だが、その願いは届かなかった。



「ウ―――、ウ―――、ウ―――」


 

突然、警報が鳴り響く。


 宰相であるバロンお父様が部屋に入ってきた。



「大変です。国王陛下、直ぐに会議室にお越しください。レイ、お前達も来てくれ。」

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