第65話 世界樹の宝珠
オレ達は精霊王アポロさんの案内で、世界樹の広場前の宮殿にいる。宮殿の中は、ステイル王国の王城とさほど変化は見られない。宮殿内の会議室には、7大精霊の皆さんとオレ達4人だけだ。
精霊王アポロさんがあらためてお礼を言ってきた。
「レイさん。この度は本当にありがとうございます。」
「いいえ。オレ達は、この世界を平和な世界にするために旅を楽しんでいます。『神の使徒』になったのも、正直この世界を自由に旅することが目的でしたから。」
アポロさんが意味深なことを言ってきた。
「そうなんですね。いつの日か、レイさんと2人きりで、しっかりとお話ししてみたいですよ。」
すると、ミクがおどけて言った。
「レイが愛するのは、『女』の私達だけにゃ。」
「ハッ、ハッ、ハッ。ミクさんは面白い方ですね。」
リリーが余計なことを言い出す。
「レイ君、エッチだし。」
オレの顔は真っ赤になったが、その場の全員が大笑いしていた。
「アポロさん。それはそうと、なぜ帝国はフェアリー連邦国に攻めてきたんですか?」
「いくつか思いつくことはありますが、恐らく『世界樹の宝珠』を狙っているのだと思います。」
アポロさんの説明だと、このフェアリー連邦国には様々な種族が住んでいる。ドワーフ族は資源採掘の奴隷として、エルフ族は性奴隷として、獣人族は様々な用途の奴隷として高く取引されている。また、国土の大半が森と山地で占められている。森の木々は資源として高価な値で取引されているそうだ。また、山地には鉄、銅、銀、金だけでなく、ミスリル、オリハルコンのような貴重な金属素材もあり、鉱山資源の宝の山となっている。さらに、この国には世界に一つしかない『世界樹の宝珠』があるのだ。
「アポロさん。先ほどから話に出てくる『世界樹の宝珠』って何ですか?」
「世界樹についてはご存知ですか?」
「いいえ。詳しくは知りません。教えてくれますか?」
「はい。では、この世界の歴史をお教えしましょう。」
アポロさん説明によると
この世界は創造神によって作られた。大きな爆発の後、宇宙のチリが集まって一つの大きな塊となり、この惑星が誕生した。最初、地上には何もなかったが、創造神様と最高神様が上級神、中級神、自然神とお作りになった。その後、創造神様が、この世界に生命の源となる母なる木を創造した。それが、世界樹だ。世界樹からは、精霊や妖精が生み出され、妖精は、ドワーフ族、エルフ族、獣人族、魔族へとそれぞれに進化していった。また、創造神様は、世界樹以外に天使と悪魔と竜を作り出した。創造神様は、すべての種族を作り終えた後、自分達に姿を似せて人族を作り出した。
最初、それぞれの種族は自己主張が強く、自分の種族が一番だと考え、他の種族を攻撃するようになった。そこで、この世界の管理を任された最高神ソフィア様が、力の強くなった魔族を西の大陸に行かせ、それ以外を東の大陸で住まわせることにした。だが、それでも不安があったため、世界の均衡を保つため、精霊王と古代竜に特別な力を与えたのだ。
一旦、各種族の争いは落ち着いたかのように見えたが、今度は全ての種族の末弟である、人族がわがままを始めた。そこで管理神様は、世界樹の幹の中に宝珠を埋め込んだ。この宝珠は、この『世界の命』である。生命を生み出すもとであり、莫大なエネルギーを秘めている。
『世界樹の宝珠』は、人々の喜びや幸せのような感情が集まると、農作物を豊作にしたり、人々に安寧な生活をもたらす。そころが、憎悪、悲しみ、苦しみのような感情が集まると、農作物は不良となり、天変地異が起こったり、人々を不幸にする。
そして、何よりも問題なのが莫大なエネルギーだ。これを武器に利用するとなると、一つの国どころかこの世界を焼き滅ぼすほどの力となる。
オレは心の中で考えた。この危険な宝珠が果たして世界に必要なのだろうか。農作物の豊作はともかくとして、人々の幸せやこの世界の平和はこの世界の人々の力で勝ち取るべきものではないのだろうか。今度神界に行って母上に聞こう。
「アポロさん。ありがとうございます。大体理解できました。」
長い話に我慢できなくなったミクが声をかける。
「レイ~。お腹空いたにゃ~。」
「レイさん。皆さんもそろそろ食事にしましょうか。戦争で、食事も豪華なものは用意できませんが、皆で食べましょう。」
オレ達は、宮殿の外の広場に集まった。オレは、リーゼット聖教国の時のように創造魔法で調理場とたくさんのテーブルを作った。さすがに人数が多く座りきれないので、椅子は作らなかった。料理を置く場所を2区画に分けた。一方は、フェアリー連邦国の人達の区域、もう一方は帝国軍人達の区域だ。
すると、オレの行動を不思議に思った元将軍のサウスが声をかけてきた。
「レイさん。このテーブルはオレ達のためのものか?」
「そうだよ。だってお腹空いてるだろ?」
「俺達は、敵だぞ。それに捕虜だ。そんな俺達に・・・・・。」
サウスは泣き始めた。周りの目を気にすることなく、大声をあげて泣いた。
「サウスさん。神様の愛は平等なんだよ。種族とか捕虜とか関係ないんだ。」
サウスはしばらく考え、自分の決意を口にした。
「レイさん。俺はやり直すよ。死んだ気になってやり直すよ。ここにいる人達に許してもらえるように頑張るよ。」
「サウスさん。それは違うよ。許してもらえるようにじゃなく、仲間にしてもらえるようにだ。頑張ってね。」
「ああ。やるさ。やってやるさ。」
エリー、ミク、リリーだけでなく、連邦国の女性達も料理を手伝ってくれたおかげで、すでに料理は出来上がり各テーブルに配膳されていた。材料?当然、材料はオレの空間収納から出したさ。ほとんど空になったけどね。ミクに怒られそう。
オレが食事の音頭を取るようにと獣人族の長デドンさんに言われた。
だからオレはいつものように大声で挨拶をした。
「いただきます!」
続いてエリー、ミク、リリーも同じように挨拶をした。すると、ドワーフ族のへパイさんが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「レイさん。『いただきます』ってなんだ?」
オレは、みんなに聞こえるように言った。
「命をくれた動物や植物、そして神様に感謝して、美味しくいただきますってことさ。」
「なるほどな。なら俺も『いただきます』」
この場のあちらこちらで『いただきます』が聞こえる。軍人達も同じように言っている。
オレは思った。少しずつでいい、被害者と加害者の距離が近づいて欲しいと。
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