第63話 世界樹の森の戦い(2)

 オレ達は、ダンクさんと戦争の最前線に向かって急いでいた。遠くに光や炎や煙が見える。同時に激しい爆音も聞こえる。


 エリーが心配そうに言ってくる。



「始まったね。急がないと。」


「ダンクさん、オレ達先に行くから、後から来てください。」



 オレ達4人は、風のように走った。


 ダンクの知り合いのドワーフが聞いてきた。



「ダンク、あの人達は何者だ?あの速さは尋常じゃないぞ。」


「あったばかりで、俺もよく知らないぞ。」



 オレ達4人が走っていると、体中が熱くなるほどの魔力を感じた。



「レイ君、急がないとまずいかも?この魔力は恐らく精霊王が神級魔法を使おうとしてるよ。」


「わかってる。オレ先に行くわ。」



 オレは、『神力開放』により、背中に大きな白い翼を出し、神々しい光を発しながら『テレポート』を発動し、転移した。


 オレの目の前には、精霊王アポロがいる。



「アポロさん。お待たせ。後はオレに任せて。」



 アポロは、彼が何者で、その言葉が、何を意味しているのか、瞬時に理解できたのだった。


 オレは、敵軍の上空まで行き、風魔法に乗せて全員に聞こえるようにした。



「オレは、最高神ソフィア様から『神の使徒』を命じられているものだ。」



 すると、敵軍は騒然とした。突然目の前に神々しい光を放ち、背中に大きく白い翼を付けた天使とも神とも思える存在が現れたのだから。だが、将軍サウスとノースを含む何人かの軍人達は信じていないようだった。サウスが、大声で怒鳴る。



「お前は何者だ。神の使徒を名乗るなど不届きだ。降りてこい、成敗してやる。」


「なるほど、信じていただけないようですね。では、今からその戦車を消滅させます。命が惜しければ、戦車から離れて。」


「ブラックホール」



 オレは威力を落として神級魔法を発動させた。すると、空に巨大な黒い渦が巻き起こり、次々と戦車を黒い穴の中に吸い上げていく。その光景を見て、数多くの軍人達が恐れおののき、オレに平伏して拝み始めた。それでも、なお反抗しようとする者達がいる。



「貴様、何をした。皆の者、あ奴を撃ち落とせ。」


「これでもわからないのか。ならば、フェアリー連邦国の人々を殺し、苦しめてきたお前達が死んだ後どうなるか教えてやろう。地獄へ行くがいい。」



 レイが右手を上げると、辺りに黒い霧が立ち込める。その霧は、まるで生きているかのように動き、反抗的な者達にまとわりつき始めた。


 将軍サウス達は突然のことに動揺する。



「これはなんだ。何も見えん。」



 サウスの目の前にあった黒い霧が晴れた。目の前には巨大で醜い姿をした、オークやゴブリン達が数えきれないほどいる。サウスは、逃げようとしたが体が動かない。オークやゴブリン達の拷問が始まる。サウスは必至にこらえるが、拷問は容赦なく続く。その痛みから、とうとうサウスの心が折れる。



「殺してくれ。お願いだ。殺してくれ。」



 サウスの心からの叫び声が届いたのか、オークが最後の一撃を加える。サウスの意識は途絶えた。だが、それもつかの間。再びサウスが目を覚ますと、先ほどと同じ光景が目の前にあり、サウスの身体の傷は元に戻っていた。再び拷問が始まる。


 苦しみもがくサウスの目の前に、神々しい光を放ちながらオレが現れる。そして、サウスの希望を打ち砕くような言葉を告げた。



「お前達が犯した罪は、あまりにも重い。その罪が許されるまで、この苦しみは続くだろう。」


「神よ。お許しください。何でもします。どうかご慈悲を。」



 目を閉じて必死に懇願していたサウスは、冷たく凍るような寒さがなくなり、暖かい空気に包まれたことに気づいた。恐る恐る目を開けると、そこは先ほどまでいた場所だった。当然、上空にはあの神々しい姿をしたオレがいる。サウスはオレに平伏し、心から謝るのであった。


「あなた様の言われた通りです。私は、償いきれないほどの罪を犯しました。これから、私はどうすればよいのでしょう。」


「お前を許すのはオレでも、神でもない。フェアリー連邦国の人々だ。お前にできることは一つ。フェアリー連邦国の人々に許されるまで償え。」


「わかりました。」


 

それから、オレは『神眼』を使い。20万人の軍人を一人ずつ確認し、罪の重い2,000人を残し、他の者達は帝国に返した。残った2,000人の軍人達には『罪の輪』をつけ、その場に待機させた。


 遅れてやってきたエリー、ミク、リリーは、怪我人の救助に当たっていた。ミクとリリーが中心となり、身体の動く人達と協力して怪我人を1か所に集め、エリーが怪我の度合いによって、『ヒール』『パーフェクトヒール』『リカバリー』をかけて治療していく。すでに死亡した者達は、敵・味方関係なくその場に丁重に葬った。オレは、精霊王アポロのところに行った。


 

「私は精霊王アポロです。ありがとうございました。『神の使徒』様。」


「オレは、レイチェル=リストンです。レイと呼んでください。」


「あなた様のことは、最高神ソフィア様から聞いておりました。いずれこのフェアリー連邦国を守るためにやってこられることも聞いておりました。」


「そうですか。遅くなってすみませんでした。ここに来る途中、深層の森であなた方のお仲間が帝国に捕まり、奴隷として採掘させられていたので、それを解決していたものですから。」


「そうでしたか。重ね重ねありがとうございます。ところで、レイ様は本当に『使徒』なのですか?あの御姿、あの力、あの神力。どう見ても『使徒』とは思えません。私などが足元にも及ばないものでした。」


「『使徒』ということでいいでしょう。それとお互い敬語はやめましょう。古代竜ギドラさんや悪魔王バビロンさんとも敬語なしでしゃべりますから。」


「ギドラやバビロンとも、お知り合いでしたか?さすが、レイさんです。」


「これからのことですが、帝国の軍人2,000人は、捕虜としてくこの国の復興を手伝わせたいのですが、どうでしょうか?」


「彼らが、再び我らに牙をむくことはないのですか?」


「それは大丈夫です。オレが、全員に『罪の輪』を付けていますから。」


「『罪の輪』ですか?」


「『罪の輪』は、両手両足と首につけてあります。罪を犯すと見えない光の輪が右手、右足、左手、左足、首の順に切断します。」


「そのようなことが。やはり『使徒』の域を超えていますね。」


「もうその話はなしにしましょう。」


「事情がおありなのですね。わかりました。」



“ああ、なんかオレの正体ばれてるっぽいな。バビロンさんもギドラさんも、うすうす気づいていそうだし、でも自重していられないんだよな。”



 エリー、ミク、リリーが近づいてきた。



「レイ君、終わったよ。後何するの?」


「レイ、お腹空いたにゃ~。」


「レイ君、疲れた~。癒して~。」



 オレは、精霊王アポロさんにフェアリー連邦国の皆を集めるようにお願いした。

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