第60話 ドワーフの街ガンジス

 オレ達は、奴隷として捕まっていた人族以外の者達にどこに行きたいか確認したが、全員がステイン王国の王都ミライアに行きたいと言った。そこで、帝国軍人の捕虜と一緒に『ワープ』で王都まで連れてきた。フェアリー連邦国は帝国人に占領されているため、帰る場所がないとのことだった。下手に帰って見つかると脱走を疑われて、処刑される可能性があるらしい。


 軍人達は、今や軍務大臣兼王国軍最高司令官となったアルトお兄様に引き渡した。オレが事の次第をすべて報告したら、お兄様は顔を真っ赤にして怒っていた。帝国の軍人達は、一旦牢屋に入れて、一人ずつ尋問した後、別々の鉱山で労役の刑に服すようだ。


 オレは、残してきた人族の奴隷達とエリー、ミク、リリーがいる場所に『ワープ』で戻った。

 

 すると、一人の男性が近寄ってきた。恐らくジョセフさんだろう。


 ジョセフさんは顔をクシャクシャにさせて泣きながら、オレの手を握ってお礼を言っている。



「奥様方からお話を聞かせていただきました。私は、ジョセフです。私ばかりか、妻や子ども達も救っていただき、ありがとうございます。」


「よかったです。生きててよかったです。ジョセフさんが亡くなっていたらどうしようかと、正直心配していたんですよ。ジョン君とカノンちゃんを悲しませずに済んで、本当に良かったです。」



 オレは、奴隷として捕まっていた人達に言った。



「みなさん。これから、領都ラエルに皆さんをお連れします。集まってください。では、行きますよ。」



 エリーやミク、リリーも含めて、この場にいた全員で転移した。全員を無事領都ラエルに送り届けた後、オレ達は再度採掘場に戻り、そこからフェアリー連邦国のドワーフの街ガンジスに向かった。


 森の中を歩くのが苦痛だったので、オレ達は飛翔して空から行くことにした。飛翔し始めて3時間ほどすると、森を抜け、岩山のような場所に街が見え始めた。恐らく、ガンジスだろう。下に降りて、辺りの様子を見ながら進むことにした。


 街の近くまで来て、オレ達は驚愕した。


 街の様子を見て、心配そうな顔でエリーが聞いてくる。



「レイ君、何がったのかな?」


「家がぐちゃぐちゃに潰れてるにゃ。これ、ひどすぎるにゃ。」


「誰もいない。」


「みんな、とりあえず、誰かいるかもしれないから探すよ。エリーは回復魔法の準備をしといて。」



 街の中を歩くと、まともな状態で残っている家はなかった。何かに踏みつぶされたような状態だ。街の反対側近くまで来た時に、目を疑う光景があった。



「レイ、あれ何?」


「恐らく、戦車と呼ばれる魔道具だ。」


「レイ君、戦車って何?」


「あの先の長い部分から、爆弾が発射されるんだよ。」


「家がつぶされた原因は、あれかなぁ?」



 オレは驚いた。まさか、この世界に地球と同じ戦車があるとは思っていなかったからだ。



「それにしても、数が多いなぁ。10台もあるぞ。ここにあれだけの戦車がいるということは、この村のドワーフ達がまだ残っていて、反撃してるんじゃないかな?」


「レイ君、あっちにいるのは帝国の軍人達じゃないの?」


「『隠密』でばれないようにして、みんなで状況の確認をするよ。リリーは上空から調べてくれるか?」



 オレとミクとエリーは、『隠密』を発動して、地上から状況を確認する。戦車の近くに10人、その先に50人ほどの軍人がいる。テントを張ってあるところを見ると、ここが基地なのであろう。上空のリリーから『通信』が入った。



「レイ君、戦車は10台だけだよ。ここから東の方向で煙の上がっているところがあるけど、戦闘中かも?どうする?」



 オレはどうしようか考えた。戦車はこのままにはできない。軍人達は、この前の採掘場の連中と同様に、ステイル王国に捕虜として連れていくしかない。



「エリーとミクとリリーは、軍人達を拘束して一まとめにしといてくれるかな?戦車はオレが対応するよ。」


「了解。レイ君、気を付けてね。」



 3人は、軍人達に向って走っていった。



“さて、じゃぁ、戦車の周りにいる連中を片付けるかな。”



 オレは、堂々と彼らに向って歩き出し、近づいて行った、オレに気が付いた軍人達が戦闘の準備を始める。



「貴様!止まれ!」



 あなた方を、懲らしめるために来たのに止まるわけないでしょ。」



「なにお~。生意気な。」



 何人かが剣を抜き、オレに向って切りかかる。後ろにいる連中は、地球の『拳銃』のようなものを取り出して、こちらに向って構える。オレは面倒だったので、一気に制圧する。



「グラビティ―」



 軍人達は、地面に押さえつけられている。



「どうする?まだやるの?」



 返事がないので、重力を強める。「ミシッ」と骨がきしむ音が聞こえる。



「このままだと、踏んづけたカエルのように潰れるよ。いいの?」


「ま、ま、待て。待ってくれ。」



 オレは魔法を解除した。その後、戦車は全て空間収納にしまった。



「戦車が消えた?」


「奇跡だ!」


「きさまは何者だ?」


「オレは普通の人間だよ。それより、皆さんは拘束させてもらうよ。」



 オレは、彼らの両手を後ろ側にして鉄の鎖で拘束した。エリー達の方に行こうかと振り向くと、すでにそこにはエリー達がいた。



「レイ。おそいにゃ!お腹空いてるんだから早くするにゃ。」


「わかったよ。ただ、その前にやっておくことがあるから待ってて。」



 オレは、採掘場にいた軍人達と同じように、彼らに『罪の輪』を発動し、わざと丁寧な言葉で説明した。



「ビクティア帝国の諸君、君達の首、両手、両足に『罪の輪』を取り付けました。これは、あなた方が神の意志に逆らい、人を気付付けたり騙したりした場合、右手、右足、左手、左足の順に切断していきます。そして最後は首を切断します。逆に、神に喜ばれる行為をした場合、あなた方の罪は許され、その輪は一つずつ外れます。いいですか?あなた方がフェアリー連邦国に人達に犯した罪を心から悔いてください。」



 オレが、丁寧に説明したのも関わらず、信じられないと騒ぎ立てる兵士がいた。



「貴様何者だ。そんなこと信じられるか。貴様ら、こんなことしてどうなるか知らねえぞ。」



 だが、次の瞬間彼の右手が吹き飛んだ。



「痛~。何とかしてくれ。お願いだ。」


「さっき説明しましたよ。自業自得です。出血だけは止めてあげますね。エリー。」


「了解。」



 エリーが『ヒール』をかけ、出血を止める。



 その光景を見ていた他の兵士達は、あきらめた様子をしていたが、1人2人と平伏し始めた。



「ステイル王国に『神の使徒』が現れたというあの噂は本当だったんだ。」

 

「神よ。お許しください。」


「オレは神ではないですよ。それに謝る対象が違うでしょ。」



 オレは、捕虜として全員をステイル王国に連れていき、アルトお兄様に引渡した。その後すぐに煙の上がっている場所へと向かった。

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