第59話 深層の森
オレ達4人はフェアリー連邦国に向かっている。途中に深層の森があり、そこを真っすぐに抜ければ帝国となる。また、南寄りに迂回すればフェアリー連邦国だ。
オレ達はラエルの街で出会ったジョンの父親の捜索もかねて、深層の森を抜け、その後帝国との国境沿いを南下する進路を選んだ。
エリーがオレに聞いてくる。
「レイ君、『サーチ』でジョセフさんを見つけることはできないよね?」
「範囲が広すぎるのと、ジョセフさん個人を特定する方法がないんだ。エリーとか、ミク、リリーだったら世界中どこにいても可能だけどね。」
リリーが一言
「愛の力は偉大。」
ミクが余計な一言
「私もレイはわかるにゃ。匂いで。」
“オレ、毎日お風呂に入っているんだけど。”
そんな話をしていると、突如悪魔王バビロンが目の前に現れた。
「レイさん。久しぶりです。今日は報告があってきました。」
「ありがとう。それで、どんな報告かな?」
バビロンが、配下や眷属を使って調べた帝国の情報を教えてくれた。
まず、帝国では皇帝ナイル=ビクティアがすべてを取り仕切っている。側近が複数人いるが、特に宰相ビスマンが重用されている。ビスマンはどこの人間かわからないが、突然現れて、前皇帝の死去後に現皇帝に重用され始めた。国内では力を持った貴族はいないが、力を持った商人はいる。御用商人アンドロだ。その立場を利用して、人族以外の種族を捕らえては、奴隷にして売買しているらしい。フェアリー連邦国への侵攻にも関係しているようだ。奴隷には2種類あって、一つは性奴隷、もう一つは労働奴隷だ。労働奴隷は、貴族や金持の家で無休で働かされるだけでなく、皇帝直轄地の農作業であったり、鉱山での重労働だ。
また、他国に比べて文明が進んでいる。馬を使用せず、魔石を動力とした金属の戦車や軍艦を持っている。50万人の軍人もよく訓練されている。圧倒的な武力で、フェアリー連邦国に侵攻して征服したのだ。
「ありがとう。バビロンさん。また、分かったことがあったら教えてね。」
「はい。帝国との戦いには、是非私も参戦させてください。」
「わかったよ。でも、なるべく戦争にはしたくないんだよね。」
バビロンが帰った後、オレ達は深層の森の中に足を踏み入れた。森の中を歩いていると気づく点がある。
ミクも異変に気付いたのか話しかけてきた。
「ねぇ、レイ。この森おかしいにゃ。」
「ミクも気づいたか。」
エリーが聞いて来る。
「何がおかしいの?普通の森だと思うんだけど。」
「魔物も少ないけど、鳥がいないんだよ。」
「そっかー。確かに鳥がいないね。レイ君もミクもよくわかったね。」
するとリリーがミクを揶揄う。
「ミクは食いしん坊。焼き鳥できないから気づいた。」
「ひどー、違うわにゃー。」
「レイ、あの小高い丘のような小山になんか人がたくさんいるにゃ。」
「レイ君、あの人達何してるんだろうね。」
するとリリーが目聡く言ってきた。
「あの人達、同じ服を着てる。軍人?」
オレ達は、相手に気づかれないように『隠密』をかけ、近づいて行った。すると、そこには足枷をつけられた人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族の男達が穴を掘っている。何かを採掘しているようだった。その周りには50人ほどの軍人らしき人達がいた。
「レイ君、あの軍人達は帝国人よ。」
「あの穴を掘っているのは恐らく奴隷にされた人達よね。」
「軍人倒す。奴隷助ける。いいよね?レイ君。」
「ちょっと待って、奴隷の人達が人質にされないように夜に決行しよう。」
「了解。」
オレ達は異空間の家に戻り、夜になるのを待った。
「じゃぁ、そろそろ行くよ。レッドオーガの時と同じ配置でいいね。」
「また、レイ君と一緒じゃないの?」
「エリーは聖魔法が使えるから、怪我人を任せたいんだ。」
「レイ君に、信頼されているのね。後でご褒美よろしく。」
「エリーだけ? ずるいにゃ。」
「終わったら、みんなにご褒美あげるから。じゃぁ、始めるよ。」
明るいうちに調べておいたが、採掘場の近くに奴隷達が寝泊まりするぼろい小屋がある。その小屋の周りには毒を付けた有刺鉄線の壁が張り巡らされている。また、奴隷達の小屋の近くに、少しまともな建物がある。恐らく、ビクティア帝国の軍人達の宿舎であろう。
オレとリリーは、監視役の軍人を最初に無力化し、その後、軍人宿舎にいる他の軍人を無力化する予定だ。エリーとミクは、『隠密』を発動して、奴隷達の小屋に近づく。
最初にリリーが闇魔法を発動する。
「シャドウミスト」
すると、徐々に黒い霧が発生し、辺りは5分もしないうちに濃い霧に包まれた。
「なんか急に霧が出てきたな。」
「この霧濃くないか?何も見えないぞ。」
監視役の軍人が慌て始める。オレは、音を立てずに近づき、軍人達に魔法をかけていく。
「スリープ」
軍人達は、次々と眠りにつき、無力化していった。
「リリー、この人達を拘束しといて。」
「了解。」
「スネイクチェーン」
その頃、ミクとエリーは奴隷小屋に侵入し、建物内で監視していた軍人達を気絶させ拘束していく。そして、奴隷達を起こし、説明を始める。
「私達は、あなた方の救出に来ました。足枷を外しますから、全員部屋から出てください。」
ミクが一人ずつ足枷を壊して外していく。中には、怪我をしている人たちもいたので、後ろからエリーが『パーフェクトヒール』で治療していく。すべての奴隷達の足枷を外し、治療を終えたところで、オレに『通信』で連絡を入れてきた。
「レイ、こちらはすべて終了よ。」
「了解。こっちもすぐに片付けるから、そこで待機していて。」
「リリー、向こうが片付いたようだから、こっちもやるよ。」
リリーは、『シャドウミスト』を解除し、雷魔法で軍人達の小屋の屋根を吹き飛ばす。
「エレクトリックアロー」
小屋の中から、服も着ないで軍人達が飛びだしてくる。オレとリリーは上空に浮上しその様子をうかがう。
「レイ君、全員出てきたみたいだよ。」
「わかった。」
「ラージグラビティ―」
重力魔法を広範囲に発動する。すると、外に出てきた軍人が、全員地面にたたきつけられる。
「ビクティア帝国の皆さん、まだ反抗しますか?」
指揮官らしき人間が、紙面に張り付いた状態で騒いでいる。
「おのれ~。このまま捕まるわけにはいかん。誰か何とかしろ。」
「そうですか。反抗しますか?なら、リリー、やっちゃっていいよ。」
リリーは帝級魔法を発動する。
「エレクトリックドラゴン」
すると、大気中の電気がリリーの上空に集まり始め、巨大なドラゴンの姿となった。そのドラゴンからは、四方八方に雷が放電されている。
「待て。待ってくれ。俺たちの負けだ。抵抗しない。だから、助けてくれ。」
リリーが全員を『スネイクチェーン』で拘束した。軍人達と奴隷達を広い場所に全員集めた。
「ビクティア帝国の諸君には、これからステイン王国に来ていただく。そこで、労役の刑になるだろう。逆らえば、君達を拘束しているその毒蛇が、容赦なく噛むからそのつもりで。」
「捕まっていた方々は、希望の場所に一人ずつお連れしますから安心してください。」
「あなた方は何者ですか?」
3人娘がそろって答える。
「私達は、普通の人間です。」
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