第58話 領都ラエル

 オレ達は、領都ラエルに到着した。街には様々な店が並び、人出も多い。屋台があちこちにあり、賑やかである。さすがに、元ソガ侯爵の領都だ。オレ達は、明日1日このラエルを観光することにして、その日は異空間の家に帰って休んだ。


 翌日、朝から街に出ている。まず、市場の見学だ。市場は、肉・野菜・果物が中心で魚はほとんどない。

 

 何やら、前方で騒ぎがあったようだ。オレ達は、何があったのか見に行こうとすると、薄汚い服を着た10歳ぐらいの子どもが捕まっていた。

 

 見物人に状況を確認した。



「何があったんですか?」


「子どもが果物を盗んで逃げようとしたんだ。」


「この小僧。今日こそは捕まえたぞ。衛所に突き出してやる。」


「勘弁してくれよ。家に妹と母さんがいるんだよ。」


「いや、毎日毎日勘弁ならねぇ。」



 どうやら、子どもが盗んだのは事実のようだ。だが、このままというわけにはいかない。

 

 オレは、仲裁に入った。



「すみません。この子ども、オレに預けていただけませんか?二度と盗みをさせないように教育しますので。」


「お前誰だ?今日という今日は許さねぇ。衛所に突き出すんだから邪魔するな。」


「では、あなたが今までに受けた被害はどのくらいですか?オレが弁償しますよ。それでもダメですか?」


「お前が払ってくれるのか?金貨1枚だ。」



 オレは金貨5枚を渡して、子どもを引き取った。そして子どもに詳しい話を聞いた。 

 


「オレはレイ。こっちはエリー、ミク、リリーだ。君の名前は?」


「僕は、ジョンです。ありがとうございました。」



 エリーが優しく聞いた。



「何故、盗みなんかしたの?」


「家に母ちゃんと妹がいるんだ。2人とも、お腹空かしているから食べさせてあげたかったんだ。」


 今度はミクが聞いた。



「お母さんは働いてないのかにゃ?」



 するとジョンは耐えきれなくなったのか、泣きながら説明した。



「母ちゃん病気で動けないんだ。お医者様に見てもらいたくても、お金がないから我慢して寝てるよ。」



 最後にリリーが聞いた。



「お父さんはどうしたの?」


「父ちゃんは、冒険者をしているんだけど、深層の森に行って帰ってこないんだ。」



 オレ達は、ジョンの家にみんなで行った。そこは街の中心から北寄りに30分ほど歩いた場所にあった。中には、寝たきりの母親と5歳ぐらいの女の子がいた。3人とも、まともな食事をしていないせいか、やせ細っている。



「エリー。お願いできるかな。」


「大丈夫。やってみるね。」



 エリーは寝ている母親のところに行き、母親の身体を確認している。そして、聖魔法で治療を始めた。



「パーフェクトヒール」



 青白かった母親の顔色が見る見るうちに赤みを増してきた。母親の目が覚めたようだ。



「あなた方はどなたですか。」


「オレはレイ。こっちはエリー、ミク。リリーです。オレの妻たちです。」


「なぜここに・・・・・」



 母親が話をし始めたところで、ジョンが泣きながら正直にすべてのいきさつを説明した。



「母ちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい。」


「ジョン。お前には苦労かけたね。エリーさん、ありがとうございました。今、治療費をお支払いすることはできませんが、働いて必ずお支払いしますので、待っていただけませんか?」



 ジョンの母親は名前がジャンヌさん。ご主人の名前はジョセフさん。妹の名前はカノンちゃん。ジョセフさんは冒険者をしていて、1か月前に深層の森に入って戻ってこなくなったらしい。ジャンヌさんは、ジョセフさんがいなくなったあと、働きながら子ども達の世話をしていたが、1週間前から具合が悪くなり、寝たきりになってしまったようだ。



「ジャンヌさん。お金はいりませんよ。安心してください。」


「ありがとうございます。エリーさん。」



 オレ達は、ジョンの家の裏に調理する場所を作り、そこに王都ミライアで買い込んだ食材を出して、調理を始めた。


 妹のカノンちゃんが近づいてきて、3人娘に話しかける。



「お姉ちゃん達何作ってるの?カノンもお手伝いする。」


「そうね。じゃぁ、カノンちゃんこのテーブルにお皿を並べてくれるかな?」


「うん。」



 しばらくして料理が仕上がり、皆で食べることにした。ジャンヌさんにはお粥だ。野菜をすりつぶしてお粥に混ぜた。ジョンとカノンは久しぶりの食事ということもあり、お肉にかぶりついていた。食後は、いろいろなフルーツを出してあげた。



「ジャンヌさん、使わない布袋はありませんか?」


「立派なものはありませんが、これでいいですか?」



 ジャンヌさんから渡された布袋を『クリーン』できれいにして、時空魔法で袋の中を10㎥の広さに拡張し、時間経過がない状態に作成した。そして、オレ達を含め7人以外は使用できないように個人登録をかけた。



「ジャンヌさん、この袋に特別な魔法をかけました。中に手を入れてみてください。」


「えっ、広いです。どうして?」


「袋の中を魔法で広げてあります。時間の経過もありません。この中に、食料を入れておきますので、働いて収入が得られるまで、中の食糧でしのいでください。」 


「こんな高価なものいただいては・・・・」


「大丈夫ですよ。差し上げますので。ただ、心配な点があります。ジャンヌさんが言った通り、恐らくこれは白金貨10枚以上するでしょう。そうすると、盗みに来たり、奪いに来たりする輩が出てきます。ですから、袋のことは誰にも言わないでください。」 


「わかりました。そうします。子ども達にもきつく口止めします。」


「他の人が持っていても、ただの袋なんですけどね。」


「レイさん、あなた方は何者ですか?」


「正直に言いますね。オレは最高神ソフィア様から『使徒』を命じられています。」


「おお、神よ。私達家族をお見捨てにならなかったのですね。慈悲深い神よ。ありがとうございます。ありがとうございます。」



 オレ達4人は3日ほど滞在し、ジャンヌさんが普段通りの生活ができるようになったことを確認して、再びフェアリー連邦国に向かって旅に出た。

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