第51話 マルメット山の山頂(1)

 マルメット山の山頂に近づくにつれて、吹雪が激しくなってきた。すでに、前は何も見えない。さらに、空気が薄くなり、呼吸が厳しい。そこで、4人の周りに結界を張り、空気を保ちつつ、冷気と風を遮断して進んでいる。吹雪の中を飛んでいるため、お互いの声が聞こえない。そこで、連絡はテレパシーの『通信』で行うようにした。

 

 ミクからの『通信』だ。



「レイ。あそこに大きな洞窟があるにゃ。イエティ-が言っていたのってあれじゃないかにゃ?」


「みんな降りて、中に入ってみるよ?」



 オレ達は雪の上におり、洞窟の中に入ると、寒さはさほどひどくなく、呼吸も地上と変わらない状態だった。



「不思議ね?この洞窟。外と空気が全く違うわ。この中だけ、別世界みたい。」


「暗いのは嫌。」



 オレは『ライト』を発動し、周りを照らしながら奥へと進んだ。かなり進んだと思うが、だんだん明るくなってきた。すると、巨大な扉があり、行き止まりだ。



「レイ君、こんなところに扉って不自然よね。」


「中に美味しい食べ物があったらうれしいにゃ。」


「みんな、注意しながら中に入るよ。」



 扉を開けて中に入ると、ここが洞窟の中だとは思えないほど、大きく開けた場所に出た。すると、地面の下からオレ達に呼びかける声が聞こえた。



「お前たちは何者だ。我が住居に断りもなく入ってきよって、許さぬぞ。」


「勝手に入ってすみません。オレ達は、古代竜さんに用事があって来たんです。」

 

「ギドラ様に用事じゃと?お前らごとき、ギドラ様に会えるわけがなかろう。」



 突然、地面が大きく揺れ、ところどころに地割れができた。オレ達は、近くの岩にジャンプして、地割れに落ちるのを防いだ。



「私達の、力を試そうとするなら、姿を見せなさいよ。」


「よかろう。我の姿を見ても逃げるなよ。小娘。」



 すると、地面に巨大なクレーターのようなものが出来て、そこから大きな音と振動を伴って、強大なドラゴンが現れた。



「我が名は、アース。地竜の長であり、偉大なる古代竜ギドラ様の僕ぞ。」


「オレは、レイ。隣は、エリー、ミク、リリーだ。」


「では、そなたたちの力を試させてもらおう。最悪、死ぬがな。」



 地竜には翼がなかった。そのかわり、手と足には大きく鋭い爪。さらに、鼻の上にはサイのような角がある。皮膚もサイのような鎧の形状で、見るからに固そうだ。これは、弱い魔法や剣では傷一つ追わせられないだろう。そんなことを考えていると、エリーが前に出た。



「私にやらせてみて。危なそうだったら、援護をお願い。レイ君。」



 エリーは、勢いよく地竜アースの前に飛び出し、剣を抜き横に切るように振る。



「バキーム」



 だが、アースの固い皮膚には、傷一つつかない。



「小娘。お前ひとりで何ができる。我も舐められたものよ。」



 アースは、地面を大きく踏みつけ、エリーに突進していく。エリーは、地震のように揺れる地面に立っていることすらままならない。(よけられない。)そう思った瞬間、



「テレポート」



 エリーはオレと同じ瞬間移動の魔法を発動し、アースの後方へ移動した。



“いつの間に覚えたんだろう。”



 エリーは、剣をしまいって上空にジャンプしながら魔法を発動させる。



「ファイアードリル」



 炎が、大きなドリルの形状となり、上空からアースの背中を突き刺していく。多少効いたのか、背中から血が流れて痛がっていた。



「おのれ、小娘が。串刺しにしてくれるわ。」



 アースが、頭を振ると角が光り、天井から氷柱のような形状をしたい岩が、エリーに向って飛んでくる。エリーは、それを避けながら、アースの上空に再びジャンプした。



「シャイニングドリル」



 今度は、巨大な光がドリルの形状となり、激しく回転しながら、アースの背中に突き刺さった。



「ぐわぁ。」



 背中から、血が噴き出している。



「どうするの?まだやる?」



 エリーが聞くとアースが力なく答えた。



「お主の力はよく分かった。降参だ。」



 エリーは、アースに近づき『ハイヒール』をかける。すると、アースの背中の傷は見事に塞がり、アースが言った。



「お主は何者だ?ただの人間ではあるまい。」



「私は、普通の人間ですよ。」



 エリーは照れ臭そうに言った。


 最初、オレのことを規格外と思っていた自分が、まさか同じように他者から規格外呼ばわりされるとは、夢にも思っていなかったのだ。エリーは嬉しく、誇らしい気持ちになった。



「ところで、古代竜様のところにはどうやって行くの?」


「この洞窟を、どんどん奥に進むがよい。試練に打ち勝つことができれば、お目通りもかなうだろうよ。」



 オレ達4人は、さらに先に進んだ。一旦、通路が狭くなり、再び入り口から入った時のように薄暗くなった。オレは、ライトで照らした。



「エリーの戦い見ていたら、なんか体に力が入って、お腹空いちゃったにゃ。」


「私も。」



 ミクはともかくとして、リリーまでとは珍しいな。成長期かな?


 オレ達は、異空間の家にいったん戻って食事をとり、しばらく休んだ後、再び洞窟の奥を目指した。


 先に進むと、大きな扉があった。オレが、その扉を開けると、そこはマグマ地獄だった。

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