第43話 リーゼット聖教国の世直し大明神

 チャーチルさんとの話を終えた4人は、早速動く。そのころ、リーゼット教の大本山である大聖堂の地下に、2人の人物がいた。



「聖女メテルよ。久しぶりだな。考えたか?神の言葉として、わしのことを教皇にするように神の声が聞こえたと、国民に伝えるだけでよいのだ。」


「できません。私は、たとえ殺されても、神を裏切ることはできません。」


「所詮、神などこの世に無関心なのだ。」


「なんと恐れ多いことを。」


「このままでは、顔も体も奇麗なままではいられなくなるぞ。」


「何をするつもりなのです。」


「この国には、女をいたぶりながら楽しむ変態もいるからな。」


「そうなったら、私は自分で命を絶ちます。」


「確か、聖女は自死を、神より禁じられているのではないか?」


「なんと卑劣な。」


「それが嫌ならば、わしの言った通りすればよいのだ。そうすれば、お前は自由だ。」



 カンダスがその場から離れた後、聖女メテルが小声でつぶやいた。



「もうすぐ、神の使徒が来るわ。あなたの命運もそれまでよ、カンダス。」 



 レイとエリーは、2人で大聖堂に向い、ミクはバッドン商会に、リリーは闇組織スパイダーのアジトに向っていた。それぞれに何かあったときには、テレパシー『通信』で連絡を取り合うことになっている。


 最初に、ミクがバッドン商会に到着した。『隠密』を発動し、持ち前の身体能力で敷地内に侵入した。そこには、複数の傭兵がいて、バッドン会長の身辺を警備している。ミクは、気づかれないように、10人ほどいた傭兵を無力化し、手足を縛って、屋敷の隣の蔵に押し込んだ。

 

 それから屋敷内に侵入した。屋敷の最奥に大きな部屋があり、そこから複数の声が聞こえる。女性の鳴き声だ。ミクが部屋に飛び込むと、傷だらけの獣人族の女性が、裸でベッドにいた。その上に、丸々太った汚い豚のような男がいる。バッドン会長だ。



「何者だ。」

 

「何してるにゃ!どけ!」



 ミクは、バッドンに鉄拳をくらわせると、バッドンは鼻血を出しながら叫んだ。



「誰かいないか!!!侵入者だ!!!」



 ドカドカと複数の足音が聞こえる。10人ほどの、男達が剣を持って入ってきた。ミクは、すばやく獣人族の女性に布切れを渡し、女性を連れて外に出た。男達が、追いかけてくる。一番後ろには、真っ赤な顔をしたバッドンの姿があった。



「この娘。殺すなよ。こいつも、いたぶって遊んでやろう。」



 バッドンが気持ち悪い顔をして叫んでいる。



「お前は殺したいが、レイとの約束にゃ。痛めつけるだけで我慢してやるにゃ。」



 そう言って、ミクは身体強化を纏い。『闘気』を開放した。


 すると、男たちは後ずさりして、青ざめている。バッドンも額から汗を流して、引きつった顔をしていた。



「お前、何者だ!」


「私は、世直し大明神の一人にゃ。ミクにゃ。」



 ミクは、『縮地』で一気に男たちとの間合いを詰め、鉄拳と蹴りで一人残らず意識を刈り取った。そして、バッドンに言った。



「お前だけは、簡単には捕まえないにゃ。」



 逃げようとするバッドンを捕まえ、バッドンに馬乗りになって、顔の形がなくなるまで殴った。バッドンは、気絶するまで泣きながら許しを請うのであった。



「ゆ、る、し、て。」



 その後、全員を縛って、同じように屋敷の隣の蔵に閉じ込め、逃げられないように結界を張り、レイに終了の連絡をした。



「レイ、バッドンとその一味は全員捕らえたにゃ。」


「了解。ミク、ケガしてないか?」


「レイはやっぱり優しいにゃ。私は大丈夫にゃ。怪我をしている女性を救助したにゃ。他にも捕まっている女性がいないか調べてみるにゃ。」


「捕まっていた人達は、チャーチルさんの教会に預けてオレのところに来てくれるか?」


「わかったにゃ。」



 さて、屋敷内を捜索するか。


 通信を切った後、ミクは屋敷内の捜索を行った。屋敷内の地下にエルフの女性と獣人族の女性が、捕らえられていた。いずれも、奉公に来た女性だが、だまされて性奴隷にされていたようだった。彼女達を救助し、チャーチルさんの教会に預け、レイのもとに向かった。


 少し遅れて、リリーが闇組織スパイダーのアジトの前にたどり着いた。その日は何かあるのか、アジトに何人も入っていく。まともな人間は一人もいない。大剣を持った恰幅のいい大男、小柄で露出狂のような服を着た女、フードをかぶり杖を持った男、顔に刀傷のある男、なにやら危険なにおいのする者達だ。リリーは、アジトの地形を空から確認した。


 リリーはため息をついて、小声で恐ろしいことをつぶやいた。



「生きたまま捕まえるのは大変。空から魔法で潰したら簡単なのに。」



 アジトの裏に家はなく、逃げるとしたらこの裏からだなと考え、正面から侵入することにした。リリーは『隠密』を発動し、中に侵入した。屋敷の中には、15人の男女がいた。

 


「首領、この前、チャーチルとかいう司祭の襲撃に失敗したんだろ。あの方は、何も文句言ってこなかったのか?」


「文句も言えねぇだろうさ。汚ねぇ汚れ仕事は、俺達が引き受けてっているんだからな。むしろ、もっと報酬を高くしろって、こっちが文句を言いてぇぐらいだ。」


「ただこのままじゃまずいだろ?いっそのこと、チャーチルとかいうやつ殺しちまうか?」


「そうだな。明日、何人かで攫って、いつものように遺体を残さず始末しろ。」


「わかったぜ。」



 リリーは、腹の底からこみ上げる怒りがだんだんと我慢ができなくなってきた。気付いたら隠密を解除していた。



「お前何者だ?いつからいた?」


「聞かれたぞ。やばいな。殺しちまおう。」



 大男が大剣を抜いて切りかかってくる。その動きが、リリーには止まって見える。リリーは最近使えるようになった『覇気』を開放した。すると、突然周りの空気の温度が下がり、ヒンヤリしてきた。リリーの身体から黒いオーラが放射される。



「こいつヤバいぞ。ただものじゃぁねぇ。」


「私は普通よ。他の人達と違って規格外じゃないもん。」


「シャドウスリープ」



 リリーが魔法を唱えると、彼らの周りに黒い雲のようなものがまとわりついた。1人2人と意識を失っていく。


 そこに、立っていられたのは5人だけだ。残りの10人は、すでに意識を失っている。



「スネイクチェーン」



 倒れている10人を拘束した。それを見ていた5人は慌てて逃げだす。



「こいつはヤバい!逃げろ!」



 リリーは、5人が逃げた裏の空き地に向った。



「なんだ、この霧は?前が何も見えん。」と大男が狼狽えていると、フードをかぶった魔法使いの男が大声で叫んだ。


「この霧は魔族の闇魔法だ!」


 

 一緒に逃げていた女も必至だ。



「ヤバいわね。何とかならない。」



 後ろから、リリーがやってきた。



「大丈夫、殺さないから。ただ痛いかも?」


「シャドウアーム」



 空から巨大な手が現れ、彼らを一人残らず、叩き伏せた。その後、リリーは全員をスネイクチェーンで縛り、15人を裏の空き地に集めた。



「シャドウプリズン」



 リリーが魔法を唱えると、彼らの周りに黒い霧が集まり、堅固な牢屋になった。さらに、その牢屋に、逃げられないように結界を張った。



「逃げようとして、この霧に触ると死ぬかも?大人しくしていれば、死なないよ。」



 そして、終了の連絡をレイにした。



「レイ君。スパイダーのメンバーを全員拘束したよ。」


「お疲れ様。怪我しなかったか?リリー。」


「大丈夫。余裕。」


「ミクと合流して、オレ達のところに来てくれるか?」


「わかった。」


 

“エッチなレイ君をエリーと2人きりにしておけない!急ごう!”

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