第42話 リーゼット聖教国に到着
オレ達の旅は順調に進み、ついにリーゼット聖教国の聖都ブールに到着した。リーゼット聖教国にも、ステイル王国での反乱軍鎮圧の話は届いていた。
特に、反乱軍が、死者も出さずに鎮圧されたこと、そして何よりも、神とも思えるような力を持った『神の使徒』が現れたことに驚き、警戒していた。
司教を選ぶための選挙が近いということもあり、選挙運動が街のいたるところで、行われていた。
「私が司教に選ばれた暁には、奴隷制度を廃止し、万人が平等な社会になるようにします。」
大きな声で演説しているのが聞こえる。そこに、人相の悪い人達が現れて、妨害しようとしていた。
「お前ら、どけ、どけ。痛い目に遭いたくなければ、とっとと家に帰れ。」
集まっていいた聴衆に乱暴に怒鳴ると、木の棒を振り回して威嚇している。さらに、演説をしていた司祭を取り囲み、殴る蹴るの暴行を始めた。
「お前が、当選できるわけがないだろう。命が欲しけりゃ、荷物をまとめて、この国から出ていけ。」
それを見ていたエリーが飛び出し、止めに入った。
「やめなさい。あなたたち、何をしているの?」
「うるせぇな。小娘が。お前もこいつの仲間か?」
「別に仲間じゃないけど、おかしいでしょ。大勢で、無抵抗な人に暴力をふるって、恥ずかしくないの?」
「弱いやつがいけねぇんだよ。」
後ろでその様子を見ていたオレは、彼らとエリーの間に入った。
「弱いやつがいけないのか?強ければ何をしてもいいのか?」
「あたりめぇのこと言ってんじゃねぇぞ、小僧。」
それを聞いて、オレは『闘気』を放ち、魔法を放つ。
「グラビティ―」
すると、彼らは震えた状態で、地面に押さえつけられている。全員、股間のあたりから地面を濡らし始めた。
「た、た、助けてくれ。お、俺が、わ、悪かった。」
「強いやつは、弱いやつに何してもいいんだろ。」
そう言って、空に手をかざし、『ファイアーアロー』を発動。彼らの上に、たくさんの炎の矢が現れる。全員が、カニのように口から泡を吹いて意識を失った。そこに、衛兵達が現れたので、オレは魔法をすべて解除した。
「何事だ。」
「彼らが、この司祭さんに暴力をふるっていたから、私達が止めただけです。」
「後ろにいるのは、獣人族と魔族か?事情を聴くから、詰所まで来てくれ。」
衛兵達は、意識をなくして倒れている男達を起こし、縄で縛って連れていく。オレ達は、その後ろからトコトコとついていく。
「なんか、面倒くさいにゃ。お腹空いたにゃ。レイ。」
「すぐに終わるだろ。後で美味しいものたくさん食べさせてあげるから、我慢しような。ミク。」
「うん。わかったにゃ。」
オレ達は、詰所でいろいろ聞かれたが、一緒に来た被害者の司祭さんが詳しく状況を説明してくれた。そのため、1時間ほどで全員解放された。
詰所の外に出ると、司祭さんが話しかけてきた。
「あの~、ありがとうございました。おかげで、大きな怪我もしませんでした。申し遅れました。私、リーゼット教の司祭をしています、チャーチルと言います。大したことはできませんが、私のいる教会に来ませんか?」
「オレ達は、ステイル王国から来ました。オレは、レイです。右から、エリー、ミク、リリーです。」
「エリーです。よろしくお願いします。」
「ミクだにゃ。お腹空いてるにゃ。」
「リリーです。魔族ですが、私が教会に行って大丈夫ですか?」
「リリーさん、心配いりませんよ。種族によって差別する人達もいますが、神様は差別しませんから。それに、ミクさんもお腹が空いているようですから、皆で食事でもしましょう。大したものもご用意できませんが。」
オレ達は、チャーチルさんの案内で教会に向かった。行く途中に果物屋があったので、桃に似たトーチと、林檎に似たプルと、マンゴーに似たマゴをたくさん買った。しばらく歩くと教会に着いた。教会の敷地は広かったが、建物は古く、どう見ても立派とは言えないものだった。中から子どもたちの声が聞こえる。
「あ~、司祭様。お帰り~。」
一人の女の子が挨拶すると、10人ほどいた子ども達が一斉に近づいてきた。
「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん達だ~れ?」
オレ達は、子ども達に自己紹介し、果物屋で大量に買った果物を子どもたちに振舞った。
「ありがとう。」
「美味しい。」
「あま~い。」
「そっちの一口頂戴。」
子ども達は賑やかで、とても喜んでくれた。
「すみません。この子達には普段、果物のような贅沢品は、食べさせてあげられませんから。」
「この子達は孤児なんですか?」
「そうなんです。この国は、貧富の差が激しくて、貧しい家庭の女性は、お金持ちの家庭に奉公するのです。普通は、家事を中心に行うのですが、時に性暴力を振るわれるケースもあります。それで、子どもが出来ても、育てることはできません。だから、教会の前に捨てていくんですよ。」
「それ、ひどい話ですよね。どうして、女性は訴えないんですか?」
「訴えても無理なんです。金持ちは、ほとんど司教に賄賂を渡して握りつぶしますから。下手したら、金持ちが雇った今日のやつらのような人達に殺されてしまいますよ。」
「腐ってる。」
珍しくリリーが、怒りを面に出している。
ミクが、強烈なことを言ってきた。
「ねぇ、みんな。この国の悪人を全員、退治するにゃ!」
「気持ちはわかるけど、やっぱり殺人はしないよ。別の方法でわからせるよ。」
「レイ君には何か考えがあるの?」
「どこまで腐っているのかによって変わるけど、考えはあるよ。」
そんな話をしていると、チャーチルさんが聞いてきた。
「あなた方は何者ですか?」
「私たちは普通の冒険者にゃ。」
いつもオレが聞かれていたことを、聞かれたのがよほど嬉しかったらしく、ミクが楽しそうに答えた。
その後、教会にあった食材と、オレが空間収納から出した食材で、大量に食事を用意した。3人娘が共同で料理を作ったが、あまりにも量と品数が多かったので、教会の庭にオレが創造魔法で椅子とテーブルを作った。そこで子ども達と全員で食事をした。
翌日、オレ達は教会に来て子ども達に朝食を振舞った後、チャーチルさんにこの国の現状について、話を聞いた。
現在の教皇バチーロは老齢のため、ほとんどお飾りの状態らしい。そのため、司教のカンダスが実権を握っている。他の司教たちは、カンダスに逆らうことができない。何故なら、カンダスは、この国最大のバッドン商会と親しく、財政に関する権力を握っているからだ。また、カンダスは裏組織スパイダーとも繋がりがあるため、下手に逆らうと殺されてしまう。
つまり、この国の最大の敵はカンダスとバッドン商会と裏組織スパイダーということだ。ただ、その話を聞いてオレの心は寂しかった。反抗しようとする人達が、あまりに少なかったからだ。
「チャーチルさんのように、司教の選挙に出てこの国を変えようとする人達はいないんですか?」
「以前は何人かいましたが、殺されたり、行方不明になってしまって、ほとんどいませんね。」
「確か、聖女メテルさんがいるでしょ。」
「聖女メテル様は、大聖堂の地下に閉じ込められているという噂です。」
話を聞いて、オレの気持ちは決まった。
「レイ。やるにゃ。世直し。」と何故か嬉しそうなミク。
「この国の人々のためにやりましょう。」と真剣なエリー。
「頑張る。」と控えめだけど、すっごく可愛いリリー。
「チャーチルさん。これからオレ達は、大々的にこの国を改革します。ついては、お願いがあります。」
「なんでしょうか?」
オレは真剣な顔で話し始めた。
「チャーチルさんには、この国の教皇となっていただきます。そして、政治改革・国民の意識改革をしていただきます。」
「えっ、私が教皇ですか?それは無理です。選挙が、・・・・」
チャーチルさんの話を止めて、オレが話す。まず、選挙を無視して、教皇にすることは可能であること。次に、司教のカンダス、バッドン商会の関係者、裏組織スパイダーのメンバーを全員、投獄すること。この国の差別主義をなくす法律を制定すること。奴隷制度を撤廃し、犯罪者は懲役刑、借金奴隷は国が借金を肩代わりする代わりに、期限付きの労役にすること。など、様々な改革事項を説明した。
「レイさん!あなた何者ですか?ただの人族ではありませんよね?」
「本当に、私は普通の人族ですよ。ただ、ちょっと力をいただいているだけです。」
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