第35話 挨拶回り
オレは今ミクの家で、ミクの父親のタイガさんと母親のキオンさんの前に座っている。オレの隣には、ガチガチに緊張しているオレの様子をオレの手を握りながら楽しそうに見ているミクがいる。
「はじめまして。レイチェル=リストンといいます。ミクさんとは、学園時代からずっと仲良くしていただいています。」
「これはご丁寧に、私はミクの父親のタイガと言います。隣にいるのはミクの母親のキオンです。」
「実は、ミクさんとの結婚を許可していただきたくて来ました。」
「えっ、レイチェル様は貴族様ですよね。」
「はい。父はこの国の宰相をしている公爵です。私はその次男です。ですが、私は貴族にはなりません。」
心配そうにタイガさんが聞いてきた。
「そんなこと、国王様も御父上もお許しにならないでしょう?」
キオンさんも心配そうな顔をしている。
「もしかしたら、娘を側室にとお考えですか?」
「いいえ、私が貴族にならないことは、国王陛下もお父様も承知しています。ただ、妻はミクさんだけではありません。私には、ミクさんと同じように大切な人が他に2人います。」
「確かに、この国では一夫多妻が認められていますが、ミクは幸せになれるのでしょうか?」
「安心してください。私は、最高神ソフィア様に誓ってミクさんを幸せにします。」
「ミクはどうなの?」
「始めたあった時から、レイの奥さんになるって決めていたにゃ。」
“軽いぞ!ミク!”
オレは心の中で呟いた。
「ミクがそういうなら、大丈夫でしょう。この子は、いつもふざけているように見えますけど、実はかなり臆病なんですよ。そんなミクが決めたことですから。」
「レイチェル君、この子のこと、よろしくお願いします。」
「タイガさん。キオンさん。実は僕たちは学園を卒業したので、世界中を回る旅をしようと考えています。最初に、リーゼット聖教国に行くつもりです。」
「どのくらい行くんですか?」
「1か月になるか、1年になるかわかりませんが、それほど長くなることはないと思います。」
「出発する前には、教えるのですよ。ミク。」
「わかったにゃ。」
それから、2人は手をつないだままで、エリーとリリーと待ち合わせしている場所まで行った。
「レイと手をつないでるにゃ。」とミクは上機嫌だ。
“なんて可愛いやつだ!今度、耳と尻尾をモフモフしよう。”
2日後、今度は王都にあるリリーの屋敷に来ている。リリーの父は西大陸のマジョリーヌ王国の国王だったが、サティーニ魔王国に滅ぼされた。リリーの父は現在レジスタンスのリーダーとして、反サティーニ魔王国の中心人物となり、西大陸で活動しているため不在だ。
「はじめまして。私はレイチェル=リストンと言います。本日は、お願いがあり参上しました。」
「よく来てくれました。話はリリーから聞いています。」
リリーの母親のマジョリカさんは、流石に元王妃だけあって気品がある。
「リリーからどこまで聞いているかわかりませんが、私は、リリーと結婚したいと考えています。彼女は私にとってかけがえのない存在です。お許しいただけないでしょうか?」
「あなたのことは、リリーから聞いていますよ。『神の使徒』であることも、世界を平和にするために旅をすることも。神に愛された存在のあなたが、なぜ魔族のリリーを妻にしたいとお考えなのですか?」
「マジョリカ様、この世界はだれがつくったと思いますか?」
「それは、神様よね。」
「ならば聞きます。人族やエルフ族やドワーフ族、精霊などは神様が創造したのに対して、魔族は別の存在が創造したとお考えですか?」
「いいえ、魔族も含めて、この世のすべてを神様が創造されたと思いますよ。」
「そうです。神様は、魔族を嫌うことはありません。ほかの種族と同様に、魔族の方達も神様にとっては自分の子どもなんですよ。」
「確かにそのとおりね。」
「私は、差別がなく、奴隷制度がない、争いのない世界こそ神様は望んでいると思います。ですから、ここにいませんが、人族のエリーも獣人族のミクも魔族のリリーも、同じように愛しています。」
「どうやらあなたの愛は本物ね。リリー良かったわね。素敵な人と出会えて。」
「はい。お母様。私幸せです。レイ君達といると、弱い自分が、何故か世界の役に立てているような気がします。」
「リリー、君は弱くないよ。君は強いよ。僕がお願いした通り、一人もあやめることなく、1,000人の敵兵を降伏させたじゃん。」
「うん。」
はにかみながらリリーが返事をした。
オレは、場所もわきまえずに思わずリリーを抱きしめてしまった。
「きゃっ」
リリーは真っ赤な顔をして、恥ずかしがっている。
「おめでとう。リリー。幸せになるのよ。」とマジョリカ様に送り出された。
その数日後、オレたち4人は揃って冒険者ギルドに行き、ギルマスのアルタさんやシリウス先生とベガ先生に挨拶した。若干1名を除いて、皆祝福してくれた。
「レイ君、どういうこと?エリーさんやリリーさんはわかるけど、なんで妹のミクなのかしら?」とマリーさんはお怒りモードだ。
「いやぁ、マリーさんも超美人ですけど、この3人はオレにとって特別なんですよ。」と笑ってごまかした。
「まっ、大事な妹の結婚だから、私も祝福するけど。私より先に結婚するなんて、許せないわ。しかもレイ君とでしょ。」
「まだ結婚しませんから。1年ぐらい皆で旅に出て、帰ってきてから時機を見計らって結婚する予定ですので。」
「つまり、レイ君は1年以内に、私に相手を見つけて結婚しろってことね。」
「いえいえ、そんなつもりはありませんが、結婚はある意味『運命』ですから。ねっ、シリウス先生、ベガ先生。」
シリウス先生とベガ先生に振ってしまった。突然を振られた2人は、用事があるからといそいそと帰ってしまった。
なんかマリーさんの後ろに黒い影があるように見えたので、オレ達も足早に立ち去った。
最後になったが、ロラックス商会のロラックスさんのところにも挨拶に行った。最初は非常に残念がっていたが、すべての権利をロラックスさんに譲渡することを話したら、喜んでいた。
“ロラックスさんはやっぱり商人だな。”
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