第32話 終戦とその後
オレは、無益なこの戦いを終わらせるために、ある決断をした。それは、オレが『創造神と最高神の子』であることは伏せて、『神の使徒』であると皆に知らしめるのだ。
“神の名のもとに、この戦いを終わらせるしかない。”
「アルトお兄様、エリー、ミク、リリー。それにここにいる皆に言っておきたいことがあるんだ。」
「あらたまって何にゃ。レイ。」
「オレがこの戦争を終わらせる。だけど、そのためには、オレの秘密を知ることになる。秘密を知った後でも、変わらずにオレと接して欲しい。オレの兄であり、友であってほしい。いいかな?」
オレが真剣に話したからか、珍しくミクが心配してくれている。
「レイの言っている意味がわからないにゃ。」
リリーは何かに気づいているようだった。
「何があったって、レイ君はレイ君でしょ。きっと、エリーもここにいれば、私と同じだと思う。」
「レイ。お前にどんな秘密があろうと、お前は俺の弟だ。俺もお父様もお母様もローザだって、お前のことを大切な家族だと思っているよ。」
なんか、涙が出てきた。嬉しい。とにかく嬉しい。皆のために、この国のために、この世界のために、オレが何とかするしかない。
オレは徐々に力を開放する。すると、レイの身体は神々しい光に包まれ、背中には大きな白い翼が現れた。
「なんだ!この神々しい姿は!」
「レイ、お前は・・・・」
ミクとリリー以外、オレのこの姿を初めて見るみんなは、ポカ~ンと口を開けたまま驚いている。ここにいるみんなの視線がオレに集中した。お兄様も、シリウス先生も、ベガ先生も、アルタさんも、知らない兵士の人達さえもが、オレを見ている。だが、それは蔑んだ視線でなく、高貴な存在に出会ったときのような視線だ。
「じゃぁ、行ってくるよ。」
レイは、背中の白く大きな翼を羽ばたかせて、空高く舞い上がり、眼下を見下ろし、下で戦っているすべての人々に聞こえるように言った。
「我を見るがよい。」
眩しいほどに神々しく光り輝く存在を目にして、人々の動きは止まった。
「我は、最高神ソフィア様の使者である。戦いを止めよ。さもなければ、この世界ごと滅ぼすことになる。」
オレは両手を天に掲げ、魔法を発動した。
「シャイニングサン」
すると、上空にもう一つ太陽が現れた。いや、太陽と思ってしまうほど巨大な火の玉だ。
「グランドシェイク」
今度は、この世界では珍しい地震が起こり、地面が大きく揺れた。誰もたっていられない。
「神だ!」
「神が現れた!」
「神よ!お許しを!」
一人が武器を捨て、平伏すると、我も我もと続く。いつの間にか、眼下に見える人達が全員、オレに向って平伏していた。オレは、姿を元に戻し、皆のところに帰った。
その後、戦いは終わり、レイが進言した通り、ソガ侯爵とゴーラ伯爵は鉱山での労役を言い渡された。家族も、平民に落とされ、領地と財産は全て没収された。それ以外の貴族派閥の貴族達は引退させられ、その子どもが領地と爵位を引き継いだ。ソガ侯爵とゴーラ伯爵の尋問から、後ろでビクティア帝国が糸を引いていたことが判明した。
ライル国王と宰相のバロンお父様は、ステイル国内で争いをしている場合ではないと考え、王派閥と中間派閥の解体を指示し、すべての貴族がそれに従うことになった。派閥の解体に、反対する勢力もあったが、『神の使徒であるオレの指示』とすると、みな指示に従うのであった。
そして、現在、オレは久しぶりに神界に来ている。
「ガイア(レイチェル)。ありがとうね。あなたのおかげで、大勢の人たちが死なずにすんだわ。」
「いいえ。母上。私だけでは有りません。この世界には、平和を求める人達がいます。これからも、彼らが、他の人々を導いていくでしょう。」
「ところで、ガイア。あなたこの後どうするの?」
「どうすると言いますと?」
「あの3人の子たちよ。3人ともあなたのことを、好いているわよ。」
「はい。なんとなくは、わかっていました。ですが、私は、いずれ神界に戻ります。それに、いずれ神となる私が、この世界の女性と子をなすのはどうかな、と思いまして、あえて避けてきました。」
「それなら心配することはないわよ。あの子たちは、もともと天使だから。天使の中でも、
神格が高かったのよ。だから、あなたの近くに転生させたの。」
「本当ですか?本人たちは、そのことを知っているのですか?」
「知らないわよ。だって、記憶も天使としての能力も封印しているもの。」
「そうなんですね。」
「あの子たちには言ってはだめよ。修行にならないからね。」
「はい。わかりました。私にとって、彼女達はかけがえのない存在です。ですが、先のことはもう少し考えます。」
「わかったわ。あなたの好きなようにしなさい。そろそろ時間ね。また来るのよ。」
「はい。また来ます。」
オレは、自宅に戻った。お父様をはじめとして、家族全員が説明を求めてきたが、さすがに疲れていたので、すぐに自分の部屋に戻ってぐっすりと寝た。
翌朝、オレが起きるのを待っていた家族は、すでに食堂に集まっていた。
「おはよう。レイ。早速だが、事情を説明してくれるんだろうな?」
オレは、一部の真実を隠して話し始めた。
「オレが、5歳の時に教会で起こったことを覚えている?」
「5大神の石像が光った事件だろ。」とお兄様。
「まっ、事件じゃないけど。実はあの時、オレは神界にいって最高神ソフィア様に会ったんだ。」
家族全員が大声をあげて驚いた。
「え―――――。」
「そこで、ソフィア様に言われたんだ。この世界の魂はまだまだ未熟で、争って、殺しあって、ひどいもんだってね。なんか、神様達も見ていて辛いみたいだよ。それでね、オレに力を与えるから、神達の望む『平和な世界』にして欲しいって頼まれたんだよね。」
「ソフィア様に直々に、言われたの?」とお母様。
「ソフィア様と私とどっちがきれい?」と訳の分からないことを言っているお姉様。
「そうだよ。その時に、『神の使徒』になることに決めたんだ。黙っていてごめんなさい。」
「なるほど。レイの力が規格外なのが、納得だよ。それで、あの後、世界がどうのこうのとか、世界中を旅したいとか言い出したのか?」とお父様。
「そうだよ。世界中を旅して、オレにできることをしていこうと思ったんだ。」
「なんか、レイ君が遠い存在になった感じがする。お姉ちゃんさみしいな。」
「そういわれるのが嫌だから、秘密にしていたんだよ。」と頬を膨らましてオレが言う。
「ごめん。レイ君はレイ君だよね。いつまでも私の弟だよ。」とオレの頭をなでてきた。
しばらくして、宰相であるお父様と騎士団長のお兄様は、先に王城に行った。オレは、冒険者ギルドで、ミクとリリーと待ち合わせている。ギルマスのアルタさんとオレたち3人は、王城に呼ばれている。なんか、表彰があるらしい。
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