第30話 王都動乱(5)

 今から3カ月ほど前、ステイル王国の北部に位置し、ビクティア帝国と隣接しているソガ侯爵の領地に、帝国の軍人と思われる人物がソガ侯爵の居城を訪れた。



「お久しぶりです。ソガ侯爵様。」


「久しぶりだな、ラトス。今日はどんな要件だ。」


「はい。いよいよ機が熟しました。皇帝陛下が動きます。」



 そう言って、懐から水晶玉を取り出す。



「それはなんだ?」


「はい。これはわが帝国で開発された通信の魔道具で、モビエホンというものです。」



 ラトスが、水晶玉に手をかざすと、空中に映像が映し出された。すると、ソガ侯爵は慌てて、挨拶をする。



「お久しぶりです。ナイル=ビクティア皇帝陛下。」


「久しいの。ソガ侯爵。」


「本日は、どのようなご用件でしょうか?」


「西大陸のことは、そなたも存じておろう。」


「はい。サティーニ魔王国のユリウス=サティーニが、大魔王を名乗り、西大陸の国を次々と滅ぼし、西大陸を統一した件でしょうか。ですが、東大陸への侵攻は、まだだと聞いておりますが。」


「そうよの~。今は、西大陸の統治に忙しいからな。だが、それが落ち着けば、いずれ奴は来る。それまでに、東大陸は我が帝国が統一せねばならない。平和主義をうたい、平和ボケしたステイル王国やリーゼット聖教国では、太刀打ちできまい。あやつらは、足手まといだ。」


「はい。承知しております。では、いよいよ動くのでしょうか?」


「機は熟した。」


「私は、何をしたらよろしいのでしょうか?」



 そこで、ナイル皇帝は、今後の戦略を説明し始めた。まず、ソガ侯爵が貴族派閥の貴族をまとめ上げ、10,000人の兵力で王都ミライアに侵攻する。帝国から派遣される兵士10人は、ラトスを中心に西の森で『魔物寄せの秘薬』を使って魔物を集め、魔物10,000匹の大軍を王都ミライアに向かわせる。ステイル王国に動きを察知されないように行動し、3か月後に一斉に王都に攻め込む。王都が陥落した後、ステイル王国はビクティア帝国の傘下に加え、その勢いのままリーゼット聖教国を攻め落とす。



「さすがは、ナイル皇帝陛下でございます。占領した後のステイル王国は、誰が統治されるのでしょうか?」


「それは、お前に任せる。ソガ侯爵。ことが成就した暁には、帝国に大貴族として迎え入れよう。」


「ありがたき幸せにございます。このソガ=バッドリー、身命を賭して、皇帝陛下のお役に立って見せましょう。」


「期待しているぞ。ソガ侯爵よ。」



 そこで通信を切った。



~ビスティア帝国のナイル城~


 ビスティア帝国の宰相ビスマンが、ナイル皇帝と話をしている。


「皇帝陛下、よろしいのでしょうか?あのような下賤なものとあのような約束をして。」


「良いのだ。ことが成就した後に切り捨てればよい。」


「確かに、ステイル王国と正面切っての全面戦争となれば、こちらも被害が出るでしょうが、あの者は本当に信用できるのでしょうか?」


「あのように、地位や権力、お金に欲の皮の突っ張ったやつが、一番扱いやすいのだ。裏切れば、その時に始末すればよい。成功しても始末するがな。」




~ステイル王国のソガ侯爵の城~



 ソガ侯爵と側近のゴーラ伯爵が話をしている。



「いよいよだな。ゴーラ伯爵。」


「はい。王城に気が付かれないように、我が派閥の軍を、王都に近い我が領土に終結させます。」


「3か月後が楽しみだな。ことが成就した暁には、わしは帝国の重臣となり、このステイル王国をすべて支配できる。そなたも期待しておれ。」


「現在の王国では、王都にいる兵士は、近衛騎士団と王国騎士団の全員集めても4,000人。こちらは10,000人の軍勢に、魔物10,000匹です。どう考えても、負けようがありませんな。」


「気になるのは中間派閥の連中だ。あ奴らは、蝙蝠のように有利な方に加担するからな。」


「ならば、いっそのこと事前に情報を流したらいかがでしょうか?こちらが有利であることは間違いないですし、あ奴らがこちらに味方すればこちらの被害も少なくて済みます。」



「そなたも知恵が回るな」


「いえ、いえ、侯爵様ほどではありませんよ。」



 ナイル皇帝に利用されていることも知らないで、踊らされる2人であった。

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