第29話 王都動乱(4)
眼前には大量の魔物の群れ。10,000匹以上いるだろうか?時間はかけたくない。どうしたものかと、レイは悩んでいた。これだけ大量の魔物、素材や魔石がどれほどの価値になるだろうか、などと考えていたからだ。だが、今回は短時間で終わらせなければならない。素材と魔石はあきらめ、強力な広範囲魔法を使うことに決めた。
「ちょっといいですか?ここから、西の森の方向に町はありませんよね?」と門番の兵士に確認する。
「そうだな。西の森の向こうは、海だから町はないぞ。」
「そうですか。良かったです。」
レイは駆け足で西門の上に登った。
「神気解放」
一つ深呼吸した後、封印していた神気の一部を開放した。すると、瞬く間にレイの身体は眩しいほどの光に包まれた。
レイは飛翔し、魔物たちを眼下に見下ろしながら魔法を発動させる。
「サンダーストーム」
これは、帝級魔法だ。上空に黒い雲が集まり始め、身体に当たると痛いほど強い雨が降り始める。そして、立っていられないほどの暴風が吹き始めた。空からは無数の雷が降り注ぐ。雷が直撃した魔物たちが、次々と倒れていく。
それでも、まだまだ魔物の数は多い。そこで、レイは上空に向けて両手を挙げて神級魔法を唱える。
「メテオロイド」
すると、上空に広がった真っ黒の雲のあちらこちらが、徐々に赤くなり、その雲から巨大な隕石がいくつも地面に向って降り注ぐ。この世の終わりが来たかのように、地面は大きく揺れ、鼓膜が破れるほどの大きな音が鳴り響く。
「ドドドドッ――――――――ン。」
「バリバリバリ―――。」
目の前は真っ暗で何も見えない。土埃が上空1kmぐらいまで巻き上がっている。ただ、『サーチ』で調べてみても、魔物の生存反応はない。
「終わったな。」
北門に向おうと振り返ると、そこに居合わせた門番の兵たちが全員で土下座して、オレを拝んでいる。
「オ――――!奇跡だ!神の奇跡が起こったぞ!」
「神よ。ありがとうございます。ありがとうございます。」
「すみません。オレは人間ですから。誤解しないでください。」
面倒だったので、すぐに北門まで瞬間移動した。
「えっ!消えたぞ!やっぱり、神様だ――――。」
レイが去った後も、門番の兵たちはしばらく拝んでいた。
遠くから、レイが魔物を討伐するのを眺めていたバビロンは、何かを確信した様子だった。
“レイさんのあの魔法は、神が使う神級魔法。やはり、レイさんは・・・・・”
レイが北門に来ると、すでにミクとリリーが来ていた。
ミクがご機嫌斜めのようだ。
「レイ、遅いにゃ!」
「ごめん。ごめん。さすがに10,000匹もいると範囲が広くてね。時間がかかったよ。」
耳元でリリーが呟いた。
「ミクは、レイ君のこと心配していたんだよ。」
ここ北門の王国軍の司令官は、アルトお兄様だ。お兄様は、昨年から、近衛騎士団の団長になっていた。そして現在、オレ達3人は、北門付近に設営された王国軍総司令部の前にいる。北門を除く東門・西門・南門の報告と、現在の状況の確認のため、アルトお兄様のいる部屋に向った。
まず、ミクとリリーが報告する。
「東門に集まった反乱軍は鎮圧しました。指揮官を含め、全員捕えています。」
「南門に集まった反乱軍も鎮圧しました。指揮官も全員捕まえました。」
「全員捕まえた?全員生きたまま捕虜にしたというのか?」
ミクは、大きな胸を前に出して答えた。
「そうにゃ。敵といっても、同じ国民だから殺してないにゃ。」
「全員を生きたままで・・・・。それに、そなたたちは無傷どころか、服も汚れていないではないか?何者なんだ?」
「私は、レイの彼女にゃ。」
「レイ!本当か?」
「お兄様、誤解ですよ。ミクもリリーもクラスメイトで、同じ冒険者パーティーのメンバーだよ。」
「レイのパーティーメンバーなら納得だ。」
「ところで、お兄様。ソガ侯爵の動きは、どうなっていますか?」
「まだ、動きがないんだ。恐らく、北門以外を先に攻撃し、こちらが混乱したところを、一気に攻め落とすつもりであったのだろう。」
「なるほど、では、他の門の結果を知ったら、どう動くと思いますか?」
「2通りだな。自分の領地に撤退して籠城するか、玉砕覚悟で攻めてくるか。」
総司令部内で議論していると、外で兵士が騒いでいる。
「お待ちください。クイラ辺境伯、こちらでお待ちください。」
すると、オレ達のいる部屋に、豪華な甲冑を纏った40代の男性が、ずかずかと入ってきた。
「アルト騎士団長。われら、王国貴族として反乱軍の鎮圧の応援に参った。」
白々しくクイラ辺境伯が言う。
「ありがとうございます。国王陛下もお喜びになると思います。ですが、恐らく反乱軍は撤退すると思われます。」
「それは早計というものだろう。あちらはまだ、8,000の兵力がおる。王国軍は現在、4,000人程度であろう。数の上では圧倒的に向こうが有利だ。」
「数の上ならです。こちらには、1,000人の兵士を1人で屈服させるほどの人物が2名。さらに、10,000匹もの上位の魔物を、1人で壊滅するほどの人物がおります。どう考えても、向こうに勝ち目はないでしょう。」
クイラ辺境伯は、部下から北門以外の報告を受けていたが、とても信じられないでいた。
だが、北門以外を王国軍が鎮圧したのは事実である。この機に乗り遅れまいと、急いで駆けつけていたのだ。
“ほう、やはりあの報告は嘘でなかったか。やはり、王国軍に味方して正解だな。”
「して、その英雄たちはどちらに?」
「貴殿の目の前にいますよ。」
「なに!子どもではないか?」
「そうですよ。彼らこそ、我が国の英雄です。」
クイラ辺境伯はとても信じられないという顔をしていた。
「話を戻すが、アルト殿、こちらから攻撃してはどうだろうか?籠城されるとこちらの被害も大きくなるぞ。」
今までの話を聞いていて、オレはかなりムカついてきた。
「よろしいでしょうか?」
「レイ、意見があるならば話してみろ。」
ここで、クイラ辺境伯が来たので、アルトお兄様のことは、アルト様と呼ぶことにした。
「はい。アルト様。敵軍に降伏を迫ってはいかがでしょうか。同じ国民同士で殺しあうのは、国王陛下も望まないと思います。」
「降伏の条件はどうする?」
「反乱軍の中心となった貴族たちには、隠居していただきます。領地は、そのまま子どもに引き継がせます。ただし、ソガ侯爵だけは重罪です。命は取らずに、国家反乱罪で鉱山での労役とします。いかがですか?」
「無血で鎮圧か。国王陛下もお喜びになるだろう。早速王城にお伺いを立てよう。」
オレとお兄様のやり取りを聞いていたクイラ辺境伯は焦った。
“このままではまずい。王派閥の影響力が強くなりすぎて、中間派閥の中心である、私の立場が危うくなってしまう。”
「では、私は一旦、自分の軍に戻ります。」
「こちらがお願いするまで、クイラ辺境伯殿は動かないようにお願いします。」
焦った様子で帰ろうとしたクイラ辺境伯に、アルトお兄様は釘を刺した。
クイラ辺境伯は、自分の本陣に帰る間に考えた。
“こちらの兵は、5,000人。ここでわしが中心になって反乱軍に攻撃を仕掛ければ、王国軍も参戦するだろう。さすれば、こちらの勝利はゆるぎない。反乱軍鎮圧の1番の功績は、わし達中間派閥、いや、わしのものとなろう。”
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