第28話 王都動乱(3)

 バロンお父様の指示が出て、皆それぞれの持ち場に向かおうとしている。オレは、ミクとリリーを呼んだ。



「ミク、リリー。ちょっといいか?」


「何にゃ?レイ。」


「殺す相手は指揮官だけにしろ。他は、動けないように怪我をさせて無力化すればいい。なるべく殺生はするなよ。敵だけど同じ国民だ。」


「わかったにゃ。頑張ってみるにゃ。レイも気を付けるにゃ。」


「レイ君、任せて。わたしも頑張る。」



 悪魔王バビロンも、レイに好意的なミクとリリーの姿を、微笑ましく見ていた。


 オレは、エリーを呼んで、空間収納に保管していたエリクサーを渡した。 



「エリーは、聖魔法で欠損の治療もできるけど、死者の蘇生はできないよな?」


「うん。上級魔法の『パーフェクトヒール』や帝級魔法の『リカバリー』は使えるけどね。」


「これは、ダンジョンで手に入れた。『エリクサー』だ。即死の場合のみ、回復が可能だ。いざという時のために渡しておくよ。」


「レイ君、ありがとう。」



 東の空に朝日が昇り始めたころ、最初に動きがあったのが東門からだ。およそ1,000人の兵がぞろぞろと門に向ってくる。一番後ろに、馬に乗った騎士が3名いる。ソガ侯爵から東門の攻略を任された、この軍の指揮官たちだ。


 しばらく、その様子を見つめていたリリーは、精神を統一し、魔力を練り始めた。



「シャドウミスト」



 リリーが闇魔法を発動させる。あたり全体が黒い霧に包まれた。



「どうした?何があった?」


「霧で、何も見えん。」


「この霧黒くないか?」


「うろたえるな!静かにせい!」



 敵兵たちは慌てている。目の前の1m先どころか10cm先さえも見えない。見えないことが恐怖心をあおっているようで、大混乱である。その隙に、リリーは黒い羽根を広げて飛翔し、指揮官達に近づく。



「スネイクチェーン」



 大蛇が現れ、指揮官たちを拘束していく。



「縄で縛られて、体が動かん。」

 

「わしもだ!誰か何とかしろ!」

 

「なんだ?!この縄は生きているのか?」



 馬に乗った指揮官達は、自在に動く太い大蛇で縛られた。



「逆らえば殺す。」



 リリーが告げた無機質な言葉に、指揮官たちは青い顔をして怯え慄いた。


「ヒィ―――」


「命だけは、助けてくれ!」



 リリーは、縛り上げた大蛇をつかんで、3人を上空に引き上げ、東門の上まで飛んでいく。そして、リリーが東門まで来ると、黒い霧は消えていき、門の上には、捕縛されている3人の指揮官と、子どものような魔族の少女が見えてきた。



「お前たちの指揮官達は捕まえた。おとなしく降伏しろ。さもなければ、お前達は皆殺し。」


「エレクトリックドラゴン」



 大気中から電流が1か所に集まり、「パチッ、パチッ、パチッ」と大きな音を立て、10mほどのドラゴンとなった。



「おい、おい、おい、あれはなんだ。あんなのに勝てるわけねぇ。」


「俺には赤ん坊がいるんだ。こんなところで死にたくねぇ。」



 あきらめの声が聞こえてくる。リリーは、さらに追い打ちをかける。



「サンダー」



 電流を回りにまき散らす巨大なドラゴンの口から、兵士達の目の前に、レーザービームが吐き出された。



「ズドッドッドッドーン。」



 巨大なクレーターができていた。たまらず、兵士達は武器を捨て、両手を挙げて投降した。リリーは、全員を拘束して、十数人いる門番に後を任せた。



“東門は片付いたぁ。レイ君のところに行きたいけど、予定通り北門に行こう。”



 レイの配下となった悪魔王バビロンは、姿を消してその様子を眺めていた。 

 

 そして、リリーの力の巨大さに疑問を感じるのであった。



「あの少女の力は、もしや・・・・・・?」

 


 リリーが東門で戦っていたのと同じころ、南門でもミクが奮戦していた。


 ミクは、この4年の間、誰よりも努力した。それは、他の3人が魔法中心であったのに対して、身体強化が中心の肉弾戦が戦闘スタイルだからだ。


 彼女の両腕には、魔石が埋め込まれたガントレットが付けられている。レイからのプレゼントだ。それは、魔法が苦手なミクでも、上級魔法や帝級魔法まで使えるようなっている。


 南門に集まった敵兵は、予想通り1,000人程いる。指揮官は、ソガ侯爵の側近のゴーラ伯爵だ。


 ミクは、魔法を使わず身体強化だけで、相手を蹴散らしている。だが、人数が多く、キリがない。そこで、闘気と魔法の合わせ技を発動するのであった。


 ミクは、全身に纏っていた闘気を右手に集中させて、魔法を発動する。



「エクスプローション」

 

「ゴゴゴゴゴ―――――ン。」


 

ミクのいる位置から、指揮官のゴーラ伯爵のいる前まで、炎の道ができた。そこにいた敵兵は、後ろに大きく吹き飛ばされている。もう、邪魔するものは何もない。


 ミクは、その炎の道の中央を一気に駆け抜ける。まるで瞬間移動したかのような速さで、指揮官の目の前まで到達した。



「おのれ、小娘!」



 ゴーラ伯爵は持っていた槍で、馬上から突いてくる。ミクは、それを軽々と避け、「フン!」と足に力を入れて上空にジャンプした。ミクの姿を見失ったゴーラ伯爵は右、左と探しているが、ミクの姿はない。



「上か!」



 気づいたときにはすでに遅く、ミクの鉄拳をくらい、地面に叩きつけられ意識を失った。ミクは、甲冑の首のあたりを持ち、南門へと引きずっていく。


 それを見ていた兵士たちが、ミクに襲い掛かろうとしたが、ミクの身体から発せられる闘気に、動けないでいた。ミクは、ゴーラ伯爵を南門の上に連れて行き、眼前の敵兵に向って言った。



「お前たちの指揮官は、私が打ち取ったにゃ。だが、命は取らにゃい。同じ国民同士、なぜ殺しあうにゃ?すでに勝敗は決したにゃ。武器を捨てて投降するにゃ。」



 風魔法に乗せた声は、全員に響き渡った。



「俺たちは負けたのか?」

 

「あいつの言うとおりだ。なんで俺たちは命を懸けてまで、戦わなきゃいけないんだ。」


「俺、うちに帰りてぇ~。」と泣き始めるものも出た。



 一人二人と武器を落とし、全員が投降した。



“疲れたにゃ~。全て終わったらレイに癒してもらうにゃ。”



そんなことを考えながら、後の処理を、そこにいた20人ほどの騎士団に任せて北門に向うのだった。

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