第26話 王都動乱(1)

 月日が流れ、オレ達もいよいよ卒業間近だ。今日は、学校でいつものように座学の授業を受けている。すると、突然サイレンが鳴った。



「ウー、ウー、ウー」



 この世界に来て初めて聞く音だ。何があったんだろうと、クラスの中ががやがやとしだした。すると、突然ドアを開けて、先生が入ってきた。そして、大声で叫んだ。



 「西の森でスタンピードが発生した。皆すぐに帰宅して、家族と一緒に避難するように!」



 S級パーティーとなっていたオレ達は、急いで冒険者ギルドに向った。ギルド内には、すでに大勢の冒険者が集まっている。その中に、シリウス先生がいたので聞いてみた。



「シリウス先生、どんな状況ですか?」


「詳しい内容は不明だ。今斥候が出て確認中だが、西の森の奥からおよそ10,000匹の魔物が、この王都ミライアに向っているらしい。進行速度が速く、あと1日で、王都まで来そうだ。」



 すると、ギルマスのアルタさんが、階段から厳しい顔をして降りてきて、皆に指示を出した。



「皆、よく集まってくれた。C級以上の冒険者諸君は、近衛騎士団と一緒にスタンピードの鎮圧に向ってもらう。それ以外の諸君は、住民の避難の誘導だ。」



 みんなが行動しようとしていた時、近衛騎士団の人が飛び込んできて、叫んだ。


「ギルマスのアルタ殿、S級パーティーの『愛の絆』と『ワールドピース』のメンバーは、至急王城まで来て欲しい。」



 ギルマスのアルタさんが反論する。



「それどころじゃないんだ。わかるだろ。もう魔物が大挙して押し寄せてきているんだ。俺はここから離れられねぇ。」


「わかりました。では、それ以外の方達だけでも、王城へ来てください。」



“この大変な時に何があったんだろう。”と疑問を持ちながら、6人は王城へ向かった。



 王城に到着すると、そのまま、大会議室に案内された。中に入ると、国王陛下と宰相であるバロンお父様、それに数名の王派閥の貴族が、大きな机に地図を広げて議論していた。



「『愛の絆』と『ワールドピース』の諸君、来てくれたか。」



 オレ達は、部屋の後ろで片膝をついて臣下の礼を取る。



「お待たせして申し訳あり・・・」とシリウス先生が言いかけたが、

 

「挨拶はよい。緊急事態だ。皆もこちらに来て、会議に参加してくれ。」と宰相であるバロンお父様が、状況の説明を始めた。


「西の森で発生したスタンピードは、約10,000匹の魔物だ。その中には、ゴブリンキング、オークキング、オーガキング、リザードマンロードなどの強力な魔物もいる。あと1日で、王都まで来るだろう。さらに、北からはソガ侯爵が率いる反乱軍が10,000の軍勢で攻めてきている。これも、あと1日で王都まで来るだろう。」



 オレは、バロンお父様の説明を聞いて不思議に思ったことをきいてみた。



「質問したいのですが、よろしいでしょうか?」


「許可する。」


「スタンピードと反乱軍と偶然には思えないのですが、いかがでしょうか。それと中間派の貴族達の動静と、こちらの兵力を教えてください。」


「暗部(宰相の手下の隠密機関)からの報告によると、スタンピードはソガ侯爵の手の者が、『魔物寄せの秘薬』で誘導しているようだ。どうやって薬を入手したのかは不明だ。中間派の貴族たちは、兵力5,000人をクイラ辺境伯の弟のテーラ伯爵の領地に集めている。恐らく、状況を見て、有利な方に加担するつもりなんだろう。こざかしい。こちらの兵力は、近衛騎士団1,000人、王国騎士団3,000人と、ギルドの冒険者たち、それにお前達だけだ。」


「ここにいる貴族の皆さんの兵は、いないのですか?」


「それぞれの領地にいて、1日では間に合わんのだ。」



 お父様は、これからの戦略について、説明を始めた。



「王都に入るためには、東西南北のいずれかの門からしか入れない。ご存じのとおり、王都を囲む城壁は、強度が高く、簡単には壊せない。さらに、15mの高さがあるから、門を通らず侵入するのは不可能だ。空からしかありえない。そこで、4か所の門を死守することにする。魔物が来る西門は、『ワールドピース』のメンバーと冒険者たちに任せる。東門と南門は、王国騎士団を1,500名ずつに分けて配置する。北門は、近衛騎士団1,000人と『愛の絆』で対応する。」


 

それを聞いていたオレは、正直絶望的だと思った。中間派の兵力5,000人も敵だと考えるならば、相手は15,000人だ。それを、いくら訓練されているとはいえ、わずか4,000人の騎士団で防ぎきれるわけがない。ましてや、10,000匹に及ぶ魔物、中には強力な個体もいる。それを、100名程度の冒険者で殲滅できるわけがない。



“あ~あ、自重はやめたけど、あまり目立ちたくないんだよな。目立つと、この国に縛られて、世界中を旅することができなくかも。でもやるしかないよなぁ。”

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