第24話 ダンジョン(1)

 オレ達は、中等部の4年になった。そして、もうすぐ夏の長期休暇だ。長期休暇に入る前に、予定を立てようということで、皆で食事に来ている。当然、お店は、ロラックス商会が経営するレストラン『フォラン』だ。ロラックスさんには悪いが、この店がオレ達のたまり場になっていた。



「ねぇ、レイ君。今年の夏休みはどうするの?」


「レイ~。なんかワクワクすることしたいにゃ。」


「ひと夏の体験、夏の誘惑。」



 言った後で、自分の言葉にもじもじするリリー。


 ここでオレは、皆の実力向上を目指して、一つの提案をした。



「公爵領に一つ大きなダンジョンがあるんだ。エンザというダンジョンなんだけど、そこに行こうかなって思っているんだ。」



 エリーとリリーは躊躇なく答えた。

 


「私達も一緒に行く~。」



 ミクだけは、姉のマリーが冒険者ギルドの受付とあって、ダンジョンについて知っていたので慎重だ。



「私も行くけど、確かそのダンジョンって、最難関のダンジョンじゃないかにゃ?出てくるお宝もすごいけど、相当危険だって聞いたにゃ。」

 

「そうだね。普通の人ならかなり危険かな?」

 

「レイ君と違って、私たちは普通よ。」


「3人を今まで見てきたけど、すでにシリウス先生やベガ先生よりも強いと思うよ。」


「うそにゃ~。だってあの2人S級にゃ!勝てる気がしなかったにゃ!」


「うん。うん。」と頷く2人。


「嘘じゃないよ。オレが言うんだから間違いないよ。」


「レイ君はいつも正しい。でも、エッチ。」



 リリーはなぜかオレのことを誤解しているようだ。いつか誤解を解かなきゃ。男は皆エッチなんだと。


 オレ達は、万全の準備をして、エンザの街に向かった。移動時間がもったいなかったので、オレが『ワープ』を発動して、一瞬で街に着いた。基本的に、『ワープ』は行ったことがある場所なら発動が可能だ。



「レイ君の『テレポート』も『ワープ』もすごいよね。一瞬で移動できるよね。私も覚えたい。」


「私も覚えたいにゃ。覚えたら、レイの部屋に毎晩行くにゃ。」


「レイ君、のぞき放題。」



 やっぱり、リリーは誤解している。


 エンザの街はダンジョンがあることから、冒険者が多く、活気があった。街のいたるところに酒場があり、昼から営業していた。体格のいい獣人族の男性やビキニアーマーの人族のお姉さん、酔いつぶれて道路のわきにいるドワーフ族の男性。この街も王都のように様々な種族の人達がいる。


 ダンジョンの入口付近には、冒険者ギルドのような建物があり、そこで、係の人達が冒険者カードをチェックしたり、ダンジョンで手に入れたお宝の買取をしていた。オレ達4人は、受付の女性に冒険者カードを見せてダンジョンの中に入った。


 ダンジョンは50階層までの予想になっている。10階層ごとにボス部屋がある。まだ、完全踏破した人はいない。最高で39層までだそうだ。どうやら、40層のボスが相当危険で、みんな避けているらしい。


 命あっての物種ということか。


 まず1層目から進む。9層目まではゴブリンとホブゴブリンが中心だ。ホブゴブリンの方が体が大きく、力が強い。どちらかというと、体術の勝負となるため、ミクが中心に相手をした。苦戦することもなく進み、10層のボス部屋の前だ。



「次は、ボス部屋だけどどうする?」


「レイ。私にやらせて。でも、危なくなったら援護よろしくね。」


 

 ボス部屋に入ると、昔懐かしい「ゴブリンキング」がいた。オレが5歳の時に戦ったやつだ。Bランクの魔物だけど、今のミクにとっては、瞬殺の相手だ。


 ミクは、身体強化をかけ、目にも止まらない速さでゴブリンキングの前まで行き、高くジャンプした。頭の上から『鉄拳』を振り下ろす。今までとはけた違いの威力だ。一撃でゴブリンキングの頭がなくなった。そして、ゴブリンキングが霧状になって消滅すると、剣が落ちていた。魔剣のようだ。


 続く11層目からはオークとオーガが中心となった。オークとオーガは数が多かったので、みんなで倒していく。問題なく、20層のボス部屋に到着した。ボス部屋には、巨人タイタンがいた。



「このボスは3人で相手して。」



 今度は自分の番と思っていたエリーが聞いてきた。



「どうして?」 


「連携の練習をしておきたいんだ。危険になったらオレが援助するよ。」


「わかったわ。ミク、リリー、行くよ。」 



 エリーが剣に炎を纏い、切りかかる。相手の右足に切りつけた。たまらず、タイタンは地面に倒れこむ。そこを、ミクが頭上から、頭めがけて鉄拳を加える。最後は、倒れたタイタンに向けて、リリーが巨大な『サンダーアロー』を放った。タイタンは、黒い霧となって消えた。後には、オークキングの肉が落ちてきた。


 涎を拭いているミクに頼まれて、オークキングの肉は空間収納にしまった。多分これは売らないな。


 21層からは、死霊系の魔物が中心となった。21から29層までは、エリーが中心となって倒していく。エリーの聖魔法は、回復魔法だけでなく、死霊系の魔物にも効果的だ。そして、30層のボス部屋だ。このボス部屋にはリッチキングがいた。



「リッチキングは、回復能力が高いし、不死性があるから、打撃攻撃や普通の魔法攻撃が効かないんだ。聖魔法で攻撃するのが一番早いよ。」


「なら私ね。」



 エリーは抜いていた剣を腰にしまい、リッチキングの前に出た。リッチキングが闇魔法で攻撃してくるが、エリーが帝級魔法の『ホーリードラゴン』を放ち、魔法ごとリッチキングを消滅させた。リッチキングは、消滅と同時に『エリクサー』を落とした。『エリクサー』は、欠損部分も回復できる超激レアなポーションだ。


 次は31層だ。31層から39層までは、リザードマンが中心だった。リリーが、「私、頑張る。」と張り切っていたので、リリーを中心に倒していく。


 リリーは、眼前に現れるリザードマンに、お得意の魔法攻撃で、次々と倒していく。



「ウオーターカッター」



「ファイアアロー」



 現在38層にはかなりの数のリザードマンが集まっていた。そこで、まとめて倒すために上級魔法を発動させた。



「デスミスト」



 黒い霧が現れ、リザードマン達を覆っていく。黒い霧が晴れると、そこには何もなかった。リザードマンはすべて倒されて、霧になって消えた。


 40層のボス部屋の前に来た。他の冒険者達があきらめている階層だ。オレ達は、何の戸惑いもなくボス部屋に入った。ボス部屋の中には、竜がいた。羽がなく、肌が黒いことから地竜らしい。



「リリー。ボスは地竜だ。3人で連携して倒した方がいいんじゃないか?」


「私、一人で頑張る。」



 リリーと地竜の戦いが始まった。まず、リリーが仕掛ける。



「ウオーターカッター」


「ファイアアロー」



 皮膚が固く、全く効かない。逆に、地竜の放つ『アースロック』がリリーに襲い掛かる。直撃は避けたが、ダメージを受けてしまった。



「痛っ!さすがに強いね。」


「大丈夫?リリー!今、治癒魔法かけるね」



 エリーがリリーに『パーフェクトヒール』をかける。見る見るうちに、リリーの傷が治っていく。体力も魔力も回復した。



「エリー。ありがとう。」


「ちょっと大技使う。みんな後ろに下がって。じゃぁ、いくよ。」


「スペースカッター」



 神級魔法に近いとされる帝級魔法だ。これは、敵を空間ごと切り裂く魔法だ。さすがに地竜といえども、ひとたまりもない。地竜は、斜めに上と下が分かれ、霧となって消えていった。そして、大きな魔石だけが残された。



「やったな。リリー。」


「リリー。すっご―――い。」

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