第21話 ランク決めの試験

 現在、オレ達4人は、冒険者ギルドの訓練場にいる。これから、順番に試験を受ける。

 

 試験官は、S級冒険者のシリウス先生とベガ先生だ。S級冒険者が、試験管を務めるとあって、見物人が大勢来ている。



「おい。この試験、S級パーティーの『愛の絆』の2人が相手するのか?あいつら2人ともS級冒険者だろ?あの子達かわいそうに、怪我しなきゃいいけどな。」



 オレは、そんな見物人達の話を聞いてシリウス先生に話しかけた。



「シリウス先生も、ベガ先生もS級になったんですか?おめでとうございます。オレ達、初心者なんで、お手柔らかに頼みますよ。」


「お前以外はな!」



“シリウス先生なに怒ってるんだ?”



 現在、試験会場には、シリウス先生とエリーが立っている。シリウス先生は長剣、エリーは短剣を持っている。審判はギルマスのアルタさんだ。



「2人とも準備はいいかな。では、はじめ!」


 

エリーが勢いよくシリウス先生に近づき、上から剣をふるうが、シリウス先生に簡単にかわされる。今度は、右から下からと剣を振るうが、すべて簡単に流される。シリウス先生はエリーの攻撃を全て防ぐと、逆に下から左からと剣を振るう。手を抜いているのか、エリーもそれを受けて防ぐ。

 

 試合開始から15分が経過した時点で、エリーの様子に変化が見られた。息が上がり、手がしびれているようだ。エリーからの攻撃はほとんどなく、エリーは防御だけしかできていない状態だ。もはや、一方的な試合だ。



「ここまでのようだな。」とアルタさんは試合を止めた。



 エリーは、格の違いを見せつけられたせいか、気を落としている。すると、シリウス先生がエリーに改善点を指摘した。



「エリーちゃんは、どこかで剣を習ったことがあるよね。でも、正直すぎるんだよね。だから、次の行動が簡単に予測できるんだ。攻撃にフェイントをいれるとか、もっと、実践が必要だな。あと、攻撃が軽くて、スピードがないから、身体強化の魔法を覚えるといいよ。レイに教えてもらいな。」


「はい。ありがとうございました。」



 エリーは肩で息をしながら降りてきた。


 次は、ミクだ。すでに、会場には、試合を終えたばかりのシリウス先生がいる。試合が終わったばかりなのに息一つ切れていない。さすがS級の冒険者だ。



「では、はじめ!」



 ミクも勢いよく飛び出すと、大きくジャンプして、上から鉄拳を打ち下ろす。シリウス先生は、ぎりぎりそれを躱す。さらに、ミクは下からジャンプするように、パンチを繰り出す。それも、シリウス先生はぎりぎり躱す。今度は、正面からキックを混ぜながらパンチを繰り出す。そして、シリウス先生めがけてミクの渾身のパンチが飛んできた。威力は十分だ。ところが、シリウス先生はそれをやすやすと片手でキャッチした。



“この、シリウスって人強すぎにゃ!さすがレイの師匠だけのことはあるにゃ。”



 今度は、逆にシリウス先生の攻撃だ。剣を使わずに体術だけで勝負している。パンチの速さも、キックの速さもミクよりはるかに早い。ミクの防御が間に合わない。そして、一瞬シリウス先生の姿が消えた。次の瞬間、ミクの顔面の直前でパンチが止まっていた。ミクや周りの人には見えていないようだが、シリウス先生は『縮地』を使ったのだ。



「パ――――ン。」と空気が振動する音が聞こえた。


「そこまで」とアルタ先生から試合終了の合図。



 全力を出したにもかかわらず、全く相手にされていなかったことに、ミクもショックを受けたようだ。最後のあのパンチを食らっていたら、大怪我をしていただろう。ミクの完敗である。



「ミクちゃんは種族的に身体能力が高いけど、それを十分活用できていないよ。連続攻撃する時に、フェイントを入れるだけで、もっと強くなれるよ。それと、やっぱりスピードとパンチの重さが足りないね。身体強化の魔法を、レイに教えてもらった方がいいかな。」


「はい。ありがとうございましたにゃ。後で、レイに手取り足取り教えてもらうにゃ。」



“ミク!なんか意味間違えているだろ!”



 次は、リリーの番だ。リリーは魔法中心だから、ベガ先生が相手だ。



「では、はじめ!」



 リリーが、炎の矢である『ファイアアロー』を空中に5本作る。どの矢も1mほどの大きさがある。入学試験で使用した魔法だ。威力は十分だ。それを、ベガ先生に向けて放つ。だが、ベガ先生は、同じ数で同じ大きさの『ファイアアロー』で応戦する。さらに、リリーは『ウォーターカッター』を放つが、これもベガ先生に同じ『ウォーターカッター』で相殺される。今度は、ベガ先生から『サンダーアロー』が放たれる。リリーは、転びながらなんとか避ける。試合開始から、20分経過した時点で、リリーの魔力が限界になった。



「そこまで」とアルタさんが試合を止めた。



 リリーも、魔力には自信があっただけにかなりショックのようだ。



「そうね。リリーちゃんは、レイ君ほどじゃないけど魔力量が相当多そうだから、中級までの魔法だけじゃなくて、上級や帝級ぐらいの魔法までなら、使えるようになると思うわよ。レイ君は、いろんな魔法を知っているから、教えてもらったらいいんじゃない。」


「はい。レイ君に教えてもらいます。ありがとうございました。」



 いよいよ、最後はオレの番だ。

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