第19話 冒険者ギルド

 オレたち4人は冒険者ギルドに着いた。入学前にシリウス先生達と来たことがあったので、迷子になることはなかった。中に入ると酒の匂いがすごい。左側には酒場があり、丸テーブルが30台、それぞれに4客の椅子がある。



「レイ君は来たことあるの?」


「あるよ。家庭教師の先生と一緒にね。」


「ここ、すっごくお酒くさいにゃ。私、獣人族だから鼻がいいにゃ。これきついにゃ~。」


「人少ないね?魔族の人もいないよ。ちょっと寂しい。」


「昼前だからね。みんなもう出かけたんだと思うよ。」


「冒険者っていろんな人がいるんだね。なんかみんな怖そうなんだけど。」


「エリーは、品のいい騎士団の人達しか見てないからね。見た目はあんなだけど、気さくでいい人が多いよ。」


「へぇ~。レイがそういうならそうかもね。でも、やっぱり臭い人は嫌だよ。」



 昼前だったせいか、人は少なめだ。それでも目つきの悪い人、すでに酔っぱらっている人、きわどい服を着た虎獣人の女の人、魔法使いのようなローブを纏い、杖を持ったエルフ族の女の人、2mぐらい背丈がありそうな超マッチョな人族の男の人、いろんな人がいた。

 

 その酒場の奥には掲示板があり、その前に、自分達よりもちょっと年上に見えるグループの人達がいる。掲示板を見て、あれこれと言い合っている。


 入口の正面にある受付カウンターには、ミクのお姉さんのマリーさんと、兎の耳をした兎獣人のお姉さん、人族のお姉さんと3人の美女がいる。オレ達は、真っすぐにマリーさんのところに向かった。



「ミク、やっと来たわね。どこかに寄り道していたんでしょ。」


「ばれたにゃ~?ちょっと買い食いしてきたにゃ。」



 マリーさん全然変わってないなぁ。



「レイく~ん、大きくなったわね。思っていたとおり、超イケメンになったわ。年上女房っていいわよ~。私なんかどうかしら。」



 いつ見ても胸がおおきいなぁ。手を振ってるから、胸も揺れてるよ。ちょっと目のやり場がないよ。困ったなぁ。どこ見て話せばいいんだよ。



「お姉ちゃん、レイは、私の彼氏に。ダ~メ。」


「お久しぶりです。マリーさん。ちょっと、ミクさぁ、オレお前の彼氏になったことないよな?」


「そうだったかにゃ。」



 エリーが目ざとくオレの泳いでいる視線に気づいた。


 

「レイ君、さっきから、どこ見てんの?なんか、目が挙動不審なんだけど。」


「レイ君のエッチ。」



“リリーよ。小声で言うのはやめてくれ~。聞こえてるんだよ~。”

  


 オレが慌ててそれを否定しようとしていると、突然、後ろからドスの利いた声で話しかけられた。



「よぉ、兄ちゃん、うらやましいな。こんな美人さんを3人も連れて。俺に一人譲ってくれや。」



 先ほど酒場にいた背丈の大きなマッチョさんと、金魚の糞が3人で絡んできた。

 


「ちょっと、ゴルドンさん、妹たちに何しているんですか?あなたB級冒険者でしょ?若い子いじめて、おかしいでしょ。ギルマスを呼びますよ。」


「今日、ギルマスは居ないんだろ?それより、そこのかわい子ちゃん、俺達のところにこいや。一緒に飲もうぜ。」



“めんどくさいなぁ。もう自重しないって決めたし、いいかな。話してわかる相手でもなさそうだし。”



 オレは、ゴルドンの前に手を出し、手に闘気を集中させる。



「フン!」


 すると、ゴルドンは、ギルドの入口のウエスタンドアから外に吹き飛んだ。それを金魚の糞達が、慌てて追いかける。


 喧騒に包まれていたギルド内は、突然の出来事に静まり返る。



「シ―――――ン」



 こちらの様子をにやにやしながら見ていた人達も、マリーさんやエリー達も、全員が「ポカン」と口を開けてみている。オレは、外に飛んでいったゴルドンの方にゆっくりと歩いて近づいていく。



「痛ぇな、小僧。舐めたマネしやがって、ただじゃおかねぇ。」



 ゴルドンが、背中の大剣を抜いて構えた。少し離れた場所には、すでにたくさんの見物人がいる。突然、大男が吹き飛んできたのだから当然、騒ぎになっている。



「剣を抜いていいのか?どうなっても知らないよ。」



 ゴルドンは、顔を真っ赤にして、こちらに切りかかってきた。レイは、その遅い動きを見つめながら、手を前に出し、手首を上下させ、重力魔法を発動した。



「グラビティ―」



 するとゴルドンは、地面に叩きつけられ、動こうにも動けない。それどころか、ゴルドンの体が地面にめり込んでいく。オレがゴルドンに近づこうとすると、見物人の後ろから見知った男性が歩いてきた。



「レイ、そこまでにしておけ。勘弁してやれ。」



 声のする方を見ると、そこにはシリウス先生がいた。オレは、シリウス先生に言われて魔法を解除した。



「ゴルドン、お前らじゃ、レイには勝てねぇよ。こいつは、5歳の時に、一人でゴブリンの集落を壊滅するほどのやつだぞ。謝っちまった方がいいと思うぞ。」



 ゴルドンと金魚の糞達はそれを聞いて、顔が青ざめている。



「申し訳なかった。ちょっと、飲みすぎちまった。許して欲しい。」



 ゴルドンが土下座すると、金魚の糞も一緒に土下座した。



「わかってくれればいいんです。飲み過ぎには気を付けてくださいね。」



 そう言って、オレはシリウス先生の所に行った。



「シリウス先生、お久しぶりです。ベガ先生とうまくいったんですね。」


「まぁな、でも一緒になってわかったが、女は変わるわ。」



 すると、見物人の中から、怒りながらベガ先生が現れた。



「シリウス、私が変わったってどういうこと!」


「いやいや、言葉のあやだよ。ベガはいつだっていい女だぜ。俺には過ぎ女房だと思ってるよ。」


「わかっているならいいわよ。ゆ・る・し・て・あ・げ・る。」



 ベガ先生もまんざらでもなさそうに、シリウスに抱き着くように腕を組んだ。



「レイ君、男前になったわね。ギルドに用事があるの?」


「はい。クラスメイト達と冒険者登録をしに来ました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る