王立マーシャル学園初等部編

第10話 入学試験

 いよいよ明日は入学試験だ。問題がおきない様に、自分にかけた封印を再度確認してみる。

 

 神力は1割に封印。魔力は無制限状態をそのまま。使える魔法は、初級・中級・上級・帝級・神級の内、上級まで。但し、時空魔法と聖魔法は神級まで使えるようにしている。



「レイ様、朝ですよ。試験に遅れますよ。」と狐獣人のイリナに起こされた。



 慌てて身支度を整え、急いで食事をして、飛び出していった。外では、執事のセバスが馬車を待機させていた。



「レイ様、学校まで馬車でお送りします。」


「アルトお兄様もローザお姉様も、歩いて通っているんでしょ。僕も歩いていくからいいよ。」



 駆け足で学校に向かった。


 学校は入学試験のため、上級生はいない。僕は、そのまま案内板に従って試験会場に向かった。試験会場と書かれた教室には、すでに20人ほどの生徒が座っている。


 入学試験は、座学100点、剣術実技100点、魔法実技100点で行われる。よほどのことがないと入試で落ちることがない。

 

 では、何のための試験かというと、入学後のクラス分けのためである。クラスはSクラスが10人、それ以外のA・B・C・D・Eクラスは各30人となっている。

 

 学園には様々な種族、様々な身分の人が集まるが、差別は禁止である。差別等の問題行動があった場合、退学処分もある。


 残りの10人が着席したところで、ちょうど試験開始の時間が来たようだ。


 試験官が2名入って来て、今日の予定や注意事項を説明している。僕は、緊張もしていないので、どんな生徒がいるのか気になって1番後ろの席から教室内を眺めていた。


 エルフ族の男の子と女の子、獣人族の男の子と女の子、ドワーフ族の男の子と女の子、それと1番多いのが人族の男の子と女の子。そこで気が付いた。魔族の子が誰もいない。でも、他の教室にはいるかも、そんなことを考えていると、試験問題と解答用紙が配られ始めた。


 筆記試験は100問あり、時間は1時間だ。計算問題から、歴史問題、常識問題など様々な分野から出題されていたが、約1年間の努力のおかげで困ることなく無事終了した。


 解答用紙の回収が終わると、試験監督の先生から実技試験の会場に向かうように指示があった。

 

 渡されていた敷地内の地図を見ながら、1人でとことこと向かい始めた。すると後ろから声をかけられた。



「君、レイチェル様だよね。」

 


 レイが振り向くと、猫獣人族の女の子だった。



「えっ、何で知っているの?」


「お姉ちゃんから、君の話をよく聞かされていたからにゃ。銀髪で、超イケメンの男の子と言っていたから、直ぐわかったにゃ。」


「お姉ちゃん?」


「そうにゃ。冒険者ギルドで受付しているにゃ。」


「あっ、マリーさんだね。」


「へぇー、名前覚えていたにゃ。帰ったら、お姉ちゃんに教えてあげるにゃ。すごく喜ぶにゃ。」


「君の名前は?」


「私はミクにゃ。よろしくにゃ。」


「こちらこそよろしく。」

 


 この獣人族の女の子とは初対面のはずなのに、なんか不思議と、エリーに感じたのと同じように運命的なものを感じた。

 

 2人でいろいろ話をしながら歩いていると、剣術試験の会場に到着した。



「受験番号順に試験を始めるから、そこに並んで自分の使う武器を用意しておけ。」と試験監督から指示があった。

 

 試験は、学園が用意したゴーレムと、1対1で模擬戦を行う。時間は1人2~3分程度だ。使う武器は、木製の長剣と短剣と大剣と槍と弓、その他自前の武器の中から選べるようになっていた。

 

 試験会場には、怪我をしないように結界が張り巡らされている。怪我をしても、直ぐに回復される魔法がかけられているのだ。


 さすがに、6歳になったばかりの子ども達では、勝つことは難しい。それでも、獣人族の子ども達やドワーフ族の子ども達は、身体能力が高いせいか、いい試合をしていた。

 

 いよいよ最後に自分の番が来た。あまり目立ちたくない僕は、他の子達と同じように負けるつもりで試験に臨んだ。



「はじめ。」



 試験管の合図と同時に、ゴーレムが攻撃してきたが、その動きが遅すぎる。シリウス先生との訓練に慣れている僕に取って、すべてが止まったように見えるのだ。この遅さだと負けようにも負け方がわからない。避けてばかりだと逆に目立ってしまうので、短剣を上から振り下ろしてみた。



「ぶ――――ん。ばりっ。」



 嫌な音が聞こえたと思ったら、ゴーレムが上から2つに分かれてしまった。



「すごーい。すごーい。」



 拍手とともにみんなからの大きな歓声が上がっている。



“しまった!もう、しょうがないなぁ。”



 次は魔法の試験会場に向うようにと指示が出たので、地図を見ながらミクと一緒に向った。



「レイは強いにゃ。お姉ちゃんが言っていた通りにゃ。」


「いやぁ、たまたまだよ。先にみんなが試験を受けていたから、動きも読めたし、それにヒビいっていたんじゃないかな。」


「レイって、カッコイイし、強いし、他の女の子に注目される前に、私が彼女になっちゃおうかにゃ?お姉ちゃんには悪いけど。」

 

「僕達まだ6歳だよ。まだまだ早いよ。友達でいいよ。」と顔を赤くして答えた。

 

「レイって、照れ屋にゃ。いいにゃ。友達でも。」


 ミクは僕の手をつないできた。


 

“手をつなぐぐらいなら、まぁ、いいか。”



 ミクと手をつないで、一緒に魔法の試験会場に向かった。 

 

 魔法試験の会場に着くと、まだ前のクラスの試験が終わっていなかったので、僕はその様子を見ていた。



 「バ――――――ン、ドドド―—―――ン。」 



 試験監督の先生方も、周りにいた生徒たちも口を開けて驚いている。

 

 少し離れたところに、その魔法を使ったらしい少女がいた。


 魔族だ。


 黒い帽子をかぶっている。背中に黒い蝙蝠のような羽があり、お尻のあたりから黒色の尻尾が出ていた。


 レイは、受験生の中に魔族の子がいたことが、なぜか嬉しかった。魔族は、別の大陸に住んでいて、どちらかというとこの大陸では嫌われている。そのため、いろいろな種族がいるこのステイル王国でも、めったに魔族に合うことはない。そんな中、同じ学園で魔族の子と一緒に勉強できることが、レイにとっては格別に嬉しかったのだ。


 前のクラスの魔法試験が終了し、いよいよ僕のクラスの試験が始まろうとしている。


 まず、魔力測定からだ。一人ずつ水晶玉に手を置き、魔力の適性を調べる。この世界では、全員が魔力を持っているが、種族や魔力量や練度によっては使える魔法の種類、規模、強さが変わってしまう。


 学校では、魔力が弱いからといって、差別されることがないよう教育している。



「じゃぁ、受験番号順に検査するから、順番に並んで。並んだ順に水晶玉に手を乗せるように。」

 

「はい。」と全員で答えた。



 生徒が水晶玉に手を乗せると赤く光ったり、青く光ったり、紫に光ったり、無色に光ったりと様々である。その光はさほど強くなく、どれも目で見ていられるほどの光であった。そして、僕の番だ。

 

 剣術の試験では思わず目立ってしまったから、今回は自重しようと、無限の魔力を極端に抑えて臨んだ。



「パリ―――――ン。」



 それでも割れた。虹色に光り始めたと思ったら、目を開けていられないほど光ったので、慌てて手を放したが、遅かった。



「シ―――――――ン。」



 誰も何もしゃべらない。いや、驚き過ぎるとはこのことか。しばらく静寂に包まれていた。そして、会場に皆の声が響いた。



「オ―――――!」


「エ――――――――。ウソでしょ。」



 その後、落ち着きを取り戻した試験会場では、魔法の試験が始まった。自分が得意とする魔法を、30m先の的に当てるのが試験だ。僕は、試験を免除されてしまった。どうやら、僕が魔法を使うのは危険らしい。


 すべての試験が終了し、帰宅しようとすると後ろから



「レイく~~ん。」と甘い言い方で、名前を呼ばれた。



 振り返るとミクがいた。


 

「レイは何者にゃ?」

 

「いやいや僕は普通の人間だよ。」

 

「普通の人間が水晶割るの?ありえないにゃ。」


「自分でも驚いているんだ。1年間、家庭教師の先生に教えてもらったから、能力が向上したみたい。」


「1年でにゃ?やっぱりレイは天才にゃ。将来、私を奥さんにするにゃ。」


「将来はわからないよ。もしかしたら僕、旅に出るかもしれないし。」


「なら、私もついていくにゃ。」



 なんか以前、誰かに同じようなことを言われた気がする。 


 帰宅した後、今日の試験の内容を家族に報告した。


 

「やっぱり、あたしのレイ君は天才ね。ご褒美に今日は一緒にお風呂に入って洗って・あ・げ・る!添い寝もしてあげるからね。」

 

 ローザお姉様はいつもよりぶっ飛んでいた。



「1週間後の発表が楽しみだな、レイ。」お父様は冷静だ。


「弟が入試でやらかしたって、僕まで何か言われそうだな。」と兄は苦笑いしている。


「早いわね。この前生まれたと思ったら、もう学校へ入学だものね。あなた、私、また、赤ちゃんが欲しくなっちゃったわ。」

  

 お母様は、お父様に爆弾発言をしていた。



“お父様がんばれ!”と心の中でお父様を応援するのであった。

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