第8話 レイの修行(2)
今日でいよいよ家庭教師も卒業だ。シリウス先生がいつになく真剣な顔で言ってきた。
「レイ、いよいよ今日で最後だ。今日は、3人で東の森へ行く。いつもより深いところに行くから、気を引き締めろよ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
3人は東の森の入口に着くと、森の奥に向かって歩き始めた。
「なんかレイ君の家庭教師が、今日で最後だと思うと、お姉ちゃん寂しいな。」
ベガ先生がおどけて言っている。
「ずっと会えなくなるわけではありませんから。」
途中にE級の魔物の角兎が何匹もいたが、無視してどんどん奥へと進む。角兎は、すでに何度も狩ってきたので、訓練にならないのだ。
いつもより、大分奥まで来たところで、ゴブリンが何匹かいた。ゴブリンに気付かれないように後を付けていくと、洞窟が見えてきた。その入口付近には30匹以上いるだろうか、ゴブリンの群れがいた。
「今日は卒業試験だから、俺たちはなるべく手を出さないようにする。危険そうになったら手助けに入るから、そのつもりでな。」
「わかりました。では、行ってきます。」
レイは全身に身体強化の魔法をかけ、相手に気付かれないように『隠密』を発動し、背中から短剣を抜いて近づいていく。
“洞窟の中にどれだけいるかわからないよなぁ~。まずは、魔法で遠距離から攻撃して、数を減らすとするか。”
「バブルエアー」
僕は、中級の魔法を放つ。すると、入り口付近にいたゴブリンの顔の周りに空気の風船ができた。ゴブリンたちは苦しそうにもがき始め、1匹2匹と次々に倒れていく。近くにいたゴブリンたちは、何が起こったのかわからない様子だ。周りをきょろきょろと探しはじめていた。
オレは右手に短剣を持ち、その剣に雷を纏わせ、ゴブリンの中に突っ込んでいく。
「グギャ、ギャ、ギャ」とゴブリンは慌てている。
僕に気が付くと剣や槍を持ってこっちに向かってきた。僕は、相手の剣と槍を、余裕をもって躱しながら、短剣を振り抜いていく。
「ギャ、ギャ、ギャ」
入り口の前にいたゴブリンは全て片付いた。あとは洞窟の中だけである。中へ進もうとすると、外の騒ぎに気が付いたのか、中から次々とゴブリンが出てきた。50匹ほど出てきたところで、他のゴブリンよりも2周り大きなゴブリンが大剣を持って現れた。
50匹倒すのに剣が持つかどうか不安だったので、魔法で対処する。
「ストーム」
僕が風の中級魔法を唱えると、いくつもの竜巻が現れ、ゴブリンを上空に巻き上げながら風の刃が次々と切り刻んでいく。
気が付くと、最後に大きなゴブリンが1匹だけ残っていた。恐らくゴブリンキングだ。ゴブリンキングは、闘志をむき出しにして大剣を振るってきた。僕は、横に躱し、後ろに下がった。最後は魔法じゃなく、剣で仕留めようと考えながら、短剣を下に構え、ゴブリンキングに向かって進んだ。
「テレポート」
そう言うと、走っているレイの姿が突然消え、いつの間にか10メートル先のゴブリンキングの目の前にいた。ゴブリンキングは、何が起こったのかわからずに驚いている。
すれ違いざまに「炎剣」を発動し、剣を振りぬいた。振り返ると、ゴブリンキングは上下がサヨナラしていて、地面に倒れた。
「やったな。レイ。『炎剣』って付与魔法だろ。お前いつ覚えたんだ。その歳で、すごいじゃないか。もうこれ以上教えることは何もないな。」
「レイ君の魔法はすごいわね。『テレポート』って瞬間移動?そんな魔法使える人なんて誰もいないわよ。私にも教えてくれる?レイ君は魔力量も多いし、想像力もすごいから、魔法の威力が私と桁違いね。」
「ありがとうございます。これもシリウス先生とベガ先生のおかげです。洞窟の中も見てきたいんですが、いいですか?」
「いいけど、3人で一緒に行こうか。」と心配性なベガ先生に言われた。
3人は洞窟の中に入っていった。洞窟の中は薄暗く、ひどい悪臭がしていたので、僕は魔法をかけた。
「ライト」、
「クリーン」
匂いがおさまり、視界が開け、シリウス先生が何かに気が付いた。
「レイ。右に部屋があるぞ。」
右をみると部屋らしきものがあった。慎重に中に入る。そこには、犠牲になった人々の骨や武器類、ギルドカード、お金、宝石などの装飾品が、無造作に散らばっていた。
「この人達の骨や遺品を持ち帰りますが、いいですよね。」
「どうやって持ってくつもりなの?」
「こうやってです。」
僕は2人の前で空間収納を見せた。すると、2人とも大きく口を開けて固まってしまった。
「それって、もしかして空間魔法じゃない?」
「はい。そうですよ。」
「テレポートといい、空間収納といい、どうしちゃったの?」
「勉強したんですよ。必死で!」
「勉強しても使えるレベルの魔法じゃないわよ!」
「まあ、いいじゃないか。レイ。頼む。王都に帰って弔ってやりたいんだ。」
洞窟内の遺品とゴブリンの死体を、空間収納に入れて僕達3人は王都に戻った。
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