第7話 お披露目会

 いよいよ今日はお披露目会だ。レイは、大勢の集まりが苦手なせいか、朝から気分が暗い。そんな中、今日も元気なブラコンのお姉様は大はしゃぎだ。



「お母様。レイの服はやっぱりこちらの方が似合いますよね?でも、こっちもかわいいんだよなぁ。」



 僕は反抗せずに、お姉様の着せ替え人形になっている。



「レイは天使のようにかわいいんだから、どの服着ても似合うわよ。」

 


 お母様まで親馬鹿になってる。

 

 最後に、お姉様が僕の髪の毛をとかしてくれた。やっとすべての準備が整い、僕は、お母様と一緒にセバスの用意した馬車に乗り込んだ。



「お父様は、今日もお仕事ですか?」


「そうね。宰相として、お披露目会の準備が忙しいみたいだから。ここ最近、お城に泊まり込みで帰ってきてないのよ。ちょっと心配だわ。」

 

「お父様は、お母様に愛されているのですね。」



 そんな僕の言葉に、お母様は真っ赤な顔をして答える。



「この国は一夫多妻制なのに、お父様は側室を置かないのよね。やっぱり、お父様は私一筋なんだわ。」と嬉しそうに外を見た。

 


 お城に着くと、祝賀会の開かれる大広間に案内された。すると、さすがは公爵家。大勢の貴族が、お母様と僕に挨拶に来た。挨拶に来る貴族は王派閥が中心だった。だが、中には貴族派閥や中間派閥の貴族もいる。


 服装が豪華で小太りの男が、近づいてきた。



「これはこれは、公爵婦人。ご無沙汰しております。」


「お久しぶりです。ソガ侯爵殿。レイチェル、ご挨拶なさい。」


「初めまして。私、公爵家次男のレイチェル=リストンと申します。」


「私は、侯爵家のソガ=バッドリーです。公爵夫人、ご聡明なご子息ですな。ご長男のアルト殿といい、次男のレイチェル殿といい、うらやましい限りです。これで、公爵家も安泰でございますな。ワッハッハッ。」



 大声で笑いながら、ソガ侯爵は立ち去った。


 次に、様子を見ていた体が大きくマッチョな貴族が声をかけてきた。



「お久しぶりです。公爵夫人。それにしても、侯爵殿は品がありませんなぁ。あの方にも困ったものす。」


「お久しぶりですわ。クイラ辺境伯殿。レイチェル。」


「初めまして。公爵家次男のレイチェル=リストンです。」


「初めまして。私、クイラ=ファルトと申します。国王陛下より、辺境伯を任されております。レイチェル殿は公爵様に似て、美男子でございますなぁ。でも、髪の色が公爵様にも公爵夫人にも似ていませんが?」


「はい。僕にもわかりませんが、先祖返りと聞いています。」


「レイチェル殿、先ほどのソガ侯爵にはお気を付けなさいませ。あの御仁には、帝国とのつながりやら、黒いうわさが絶えませんゆえに。」


「はい。ご忠告ありがとうございます。」


 

 クイラ辺境伯が、2人から離れた後、僕は深くため息をついた。すると、それを見ていたお母様が声をかけてくれた。



「大丈夫?疲れた?レイ、これが貴族の世界なの。それぞれに、考えがあって動いているんですよ。」


「はい。お母様。わかっています。お父様も大変ですね。」


「そうね。みんなをまとめなければいけないのですからね。」


 

 あらためて思った。面倒な貴族の生活よりも、旅がしたい。


 しばらく挨拶していると、大きな鐘の音が鳴り響き、国王陛下と3人の王妃、続いて王女が入場してきた。最初に国王陛下の挨拶があり、第3王女エリーヌ様が皆に紹介された。その後、爵位の高い順に国王陛下への挨拶が始まる。当然、お母様と僕が1番最初だ。



「この度はおめでとうございます。エリーヌ様。」とお母様が挨拶をして、次に僕が挨拶をする。


「公爵家の次男でレイチェル=リストンと申します。国王陛下並びにそのご家族の皆様におかれましては、ご健勝で何よりでございます。」


「レイチェルよ。そなたはわしの甥じゃ。そんなに堅苦しくせずともよい。それより皆の挨拶が一取り終わったら、エリーヌを庭にでも連れ出してやってくれ。エリーヌは大勢の中が苦手なのじゃ。」


「承知しました。では、後ほど、お迎えに上がります。」



 にこやかにエリーヌ様を見ると、彼女は真っ赤な顔をして下を向いてしまった。

 

 1時間ほどして各貴族の挨拶が終了したので、僕はエリーヌ様のところに行き、ベランダにあるテーブルまで手を引いて連れてきた。



「エリーヌ様、何も召し上がっていませんよね?お腹がすいていませんか?何かお持ちしますよ。」


「ありがとうございます。では、レッドベリルのケーキと紅茶をお願いします。」


「わかりました。」



そう言って、僕はレッドベリルのケーキと紅茶を2人分用意した。



「エリーヌ様は、レッドベリルのケーキがお好きなのですか?」


「はい。」


「実は僕も大好きなのですよ。この甘酸っぱいところが最高です。」



 しばらくして、2人は庭に出ていろいろな話をした。エリーヌ様からは、お城での生活のこと、僕からは厳しい訓練のこと。


 エリーヌ様はなぜか不安な顔で尋ねてきた。



「レイチェル様は、将来貴族にはならないのですか?」


「エリーヌ様、僕のことはレイと呼んでください。」


「なら、私のこともエリーと呼んでくださいね。」


「わかりました。僕は、世界中を旅したいのです。東大陸の国だけでなく、西大陸も行ってみたいです。旅先で、美味しいものをたくさん食べて、いろんな種族の人たちと出会ってみたいですね。」 

 

「迷惑でなければ、私も一緒に世界を見て回りたいです。私は、まだお城から出たこともありませんから。」


「でも、旅は危険ですよ。」


「こう見えて、私も剣と魔法の訓練をしているのですよ。」


「じゃぁ、中等部を卒業するまでに、お互いに頑張ろうね。」


「はい。」



 2人が意気投合し、手を取り合って見つめあっている姿を、国王陛下とお母様は遠くから微笑ましく見ていた。

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