第6話 修行(1)

 1週間後、いつも通り朝食も食べ終えると、セバスによばれた。庭に行くと、腰に長剣を刺した、恰幅のいい20代くらいの人族の男性がいた。その隣には、ビキニアーマーを身につけた、20代くらいのエルフ族の女性がいた。豊満な乳、最高!

 

 男性の冒険者が、気さくに挨拶してきた。



「よっ! 君がレイチェル君か?オレはA級冒険者のシリウスだ。よろしくな。」      

 

 女性は、かなり緊張した様子で挨拶してきた。

 

「初めまして。わ、わ、私は、B級冒険者のベガです。よろしくお願いします。」


「初めまして。僕は、公爵家次男レイチェル=リストンです。これからはレイと呼んでください。お二人は夫婦ですか?」


「ち、ち、ち、違います。」と真っ赤な顔をして、ベガさんが否定している。


「こんな美人さんが俺の嫁さんなわけがないだろう。同じパーティーのメンバーだよ。」



 シリウスさんは、まんざらでもなさそうだ。


 これから、午前中は座学、午後から剣術と魔法の実技が始まる。


 ワクワク ドキドキだ。


 この1週間で、ベガ先生からからこの世界「ユーピア」について学んだ。太陽が1つ、月が2つある惑星である。この世界が「球(星)」であることは航海により判明している。1年は360日であり、光・火・水・風・土・闇・聖の7日で1週間。1日は24時間である。日本のように春・夏・秋・冬の季節も存在する。


 そして、この世界には、大陸が2つある。面積が広く、人口が多い大陸が、東大陸だ。東大陸には、ステイル王国、ビクティア帝国、リーゼット聖教国などの人族が中心の大国と、エルフ族やドワーフ族、獣人族などを中心としたフェアリー連邦国がある。また、マルメット山脈以南には、伝説の地があるとされている。

 

 ステイル王国では、種族差別や奴隷制度はない。ただ、貴族に3つの派閥があって、争っている。王家と公爵家を中心とした王派閥、ソガ侯爵を中心とした貴族派閥、クイラ辺境伯を中心とした中間派閥だ。また、ビクティア帝国は人族中心主義国家で、種族差別や奴隷制度があり、軍事力に力を入れている。リーゼット聖教国では差別は帝国ほど酷くないが、奴隷制度はある。

 

 西大陸には、魔族の国がいくつかあり、親人族派の国と反人族派の国がある。現在、この西大陸では、反人族派の国から大魔王を名乗るものが現れ、派閥に関係なく他の国々に武力侵攻している。

 

 貨幣については、それぞれの国が発行しているが、重さにより価値は統一化されている。そのため、世界中でどの国の貨幣も使用が可能だ。


   銅貨(日本円で10円に相当)

   銀貨・・・・銅貨100枚

   大銀貨・・・銀貨10枚

   金貨・・・・大銀貨10枚

   大金貨・・・金貨10枚

   白金貨・・・大金貨10枚


 

 家庭教師の授業は、光の日から風の日までの週4日である。今日は初めての剣術の日だ。なんかワクワクが止まらない。



「レイ君、その木剣で力いっぱいかかってきていいよ。」


「はい。では、いきます。」



 力いっぱい切りかかったが、全く相手にならず、何度も何度も転んだり、叩かれたりで傷だらけになった。それでも、弱音を吐くことなく続けた。さすがにA級冒険者だけあって、シリウス先生は強い。相手が初心者だから当たり前なのかもしれないが、僕の木剣がかすりすらしない。剣は、魔法と違って体力と技術が必要だ。


 そして翌日は魔法訓練。

 


「レイ君は魔力の流し方わかるかな?」


「わかりません。教えてください。」


「じゃあ、私の手を握ってみて。」


「はい。」



 ベガ先生の手を握る。柔らかくて、温かい。



“なんか緊張するなぁ~!”



 ベガ先生が魔力を流し始めた。



「どう?体の中に熱いものがあるのがわかる?」


「はい。へその辺りから体全体に流れています。」


「そう。それが魔力なの。それを意識して体の中を巡らせるのよ。」


「やってみます。ん~。ん~。」


「できました。」


「えっ、もうできたの?なら、その流れを指先に持ってこられる?」


「なんとなくできました。」 


「そうしたら、指先に火が付くように想像してみて。」


「ベガ先生。火が付きました。これでいいですか?」


「レイ君、本当に初めてなの?はじめてでこれだけできるって、天才だよね。」


「先生の教え方が、わかりやすかったからです。」



 ベガ先生は嬉しそうに「ありがと」といいながらレイの頭をなでている。ちなみに、魔法は剣と違って、技術を必要としない。必要なのは、あくまでも魔力と知識と想像力だ。その点で、僕には魔法の方が向いている。


 ベガ先生との距離が近かったせいか、甘い匂いに頭がくらくらだ。


 それから、毎週予定通りのスケジュールをこなした。レイは、授業のない日も朝から一人で、訓練をした。時には、両親にも内緒で、こっそりと王都の郊外にある東の森に行って、魔物を狩っていた。

 

 訓練を初めてもうすぐ1年。レイは、みるみるうちに成長した。今やその能力は、はるか年上でA級冒険者のシリウス先生やB級冒険者のベガ先生に、負けず劣らずの状態にまでなっていた。


 先日も、こっそり行った西の森で、本来B級以上の冒険者達がティーで倒すような魔物『キングベア』を、単独で倒した。


 魔法に関しては、属性魔法の初級でも、信じられないほどの威力になる。それに、これまで存在が認められていなかった時空魔法の転移や空間収納、飛翔なども使えるようになっていた。


 レイの規格外の能力については、シリウス先生もベガ先生も、公爵家から口外しないようにと口止めされている。

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