第4話 レイの変化と今後(1)

 レイが神界に行っていた時間は、ごくわずかであったようだ。眩しい光がおさまると、そこには金髪から銀髪に変わったレイがいた。



「レイチェル様、大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」



 近くにいた大司教様があわてて聞いてきた。後ろからは、走って近づいてくる足音が聞こえる。



「レイ。大丈夫か?」


「髪の色が変わってるけど、どこか具合悪いところはない?大丈夫?」


 

 心配そうにお父様とお母様が聞いてくる。



「大丈夫ですよ。みんな心配そうにして、どうしたのですか?」



 すると大司教様はものすごく驚いた様子で説明した。


「レイチェル様が祈り始めたら、5大神の石像が光り始めたのですよ。こんなことは、過去の記録にも残っていません。何があったのですか?」


「僕にもわかりません。でも、どこも痛くないです。」



 それを聞いて、大司教様は安心した様子で、お父様とお母様に聞いてきた。



「公爵様、奥様。レイチェル様は神々に愛されているのかもしれません。このことを国王陛下にお知らせしてもよろしいでしょうか?」



 僕は大司教様の言葉に慌てた。



“まずいな。なるべく目立たずに楽しんで暮らしたいし。困っている人たちを助けながら、のんびり旅もしたいしな~。”



「待ってください。大司教様。たまたま石像が光ったように見えたのかもしれません。僕は、目立ちたくありません。僕は、みんなから期待されたくありません。僕にとって負担になります。」


「そうね。あなた、大司教様。今日のことは、ここにいる4人だけの秘密にしましょう。レイが特別な目で見られるのは、かわいそうだわ。」


「そうだな。大司教様。今日のことは内密にお願いします。」


「わかりました。公爵様がそうおっしゃるのであれば、私も一切口外しません。ご安心ください。」



“よかったぁ~。これで自由のままだ!”



 少し休んだ後、お父様は大司教様にお布施を渡してお礼を言い、レイたち一行は馬車で帰路についた。帰りの馬車の中で、レイはしばらく考えた。公爵家の次男という立場の自分が、世界を自由に旅することが可能なのだろうか、でも、この世界の人々に平和をもたらしたい。



「お父様、お母様、お願いがあります。」


「レイ、急にどうしたんだ。」 


「レイがお願いなんて珍しいわね。言ってごらんなさい。」


「僕は、学校に行く前に魔法や剣の勉強をしたいです。冒険者になっていろいろな国を回ってみたいのです。だめですか?」



 なんかお母様が心配そうな顔になった。



「レイは王位継承権を持っているのよ。それに、将来、公爵家から独立して、新たな伯爵家を立ち上げることになるのよ。冒険者になるのは、難しいのかな。」


「僕は貴族にならなくてもいいです。王位継承権もいらないです。それよりも世界中を旅したいのです。」



 お父様はなぜか不機嫌だ。



「この話は、家に帰ってからゆっくり話そう。」



 30分ほどして家に着いた。家に着くと玄関には、ローザお姉様が、今か今かと待ち構えていた。



「どうしたの?レイ。その髪。何があったの?」



 心配そうに姉が抱き着いてきて、僕の頭を撫でまわした。



「なんか気が付いたらこうなっていたんだよ。」


「二人とも玄関先じゃなくて、早く家の中に入りなさい。」


「はーい。」


 

 僕の家は公爵家なので、たくさんの使用人がいる。執事のセバス。それに、お兄様とお姉様と僕には、それぞれ専属のメイドがいる。それ以外にも、メイドが10人ほど働いている。キッチンには、料理人が3人いるし、庭が広いので、庭師も3人ほどいる。


 そして、現在居間では、お父様、お母様、お兄様、お姉様が椅子に座っている。僕は、お姉様の膝の上だ。3人のメイドが、僕たち家族のお茶の準備をしている。お兄様とお姉様と僕は、果実のジュースだ。部屋の入口には執事のセバスが、静かに立っている。



「レイ。なぜそんなに旅がしたいんだ?」


「えっ、レイは旅がしたいの?レイが旅するなら、お姉ちゃんもついていくよ。」



 するとアルトお兄様がニコニコ笑いながら言った。



「僕は無理だな。学校があるもの。美味しいお土産でも頼むよ。レイ。」



 お兄様の言葉で、少し緊迫した場の空気が和んだ。僕は自分の気持ちを正直に

伝えた。



「お父様、お母様。この国では種族による差別もなく、奴隷もいないし、みんな楽しそうに暮らしていますよね。でも、他の国では、苦しんでいる人達がたくさんいるって聞いています。」


「それとお前が旅に出るのと、何の関係があるんだ。」とお父様は不機嫌だ。


「僕は、お父様とお母様の子どもに生まれて幸せです。」


「ならばなぜ?」と心配そうなお母様。



 僕は、神界で母上と話した内容を思い出しながら、自分が神の子であることは秘密にして、気持ちを伝えた。 



「僕は強くなって、魔物や貧困や差別で苦しんでいる人達を何とかしたいのです。そのために、旅がしたいのです。」


「急にそんなこと言いだすなんて、教会の出来事と何か関係があるの?」



 お兄様もお姉様も不思議そうな顔をしている。そこでお父様が、今日、教会で起こったことを2人に話した。

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