第12話 1回戦

訓練場に集まっている野次馬の数。さすがに異常だ。上級生なんだろうか、制服を着た人たちも多数見受けられる。ちらほらとだが試験官以外の教員もいる。ルージュと同じいクラスになるためには1年間に成績優秀者として選ばれないといけないんだよな。入学後の成績と整合性が取れるように数回はトーナメントを勝ち上がっておくのが無難だな。


「それでは両者中央へ。」

中央にいる審判から声がかかる。異様な光景に戸惑いながらも指示に従う。


「1次試験の時はこちらの不手際で申しわけなかった。」

よくよく見ると審判は1次試験の時の試験官だ。そのまま犬の顔をしていた衝撃は1日で忘れられるものじゃないんでな。

 でも謝られたってことは魔晶石が割れたことと俺が人間であることに関係はないってことだろ?なんでこんなに観客が集まってるんだ?


「それでは両者試合の前の礼を行え。」

目の前にいる対戦相手が手に持っていた背丈ほどもある杖を地面に置き、膝をつき深々と礼をする。それを見て慌てて見よう見まねで対戦相手に倣う。ルチアはなんでこういうこまごまとしたことを教えておいてくれないんだ?


「両者距離をとれ。」

対戦相手が立ち上がり振り返って歩き出す。完全に一連の流れ、って感じの動作だ。と、対戦相手のお尻から茶色のしっぽが生えているのが見える。魔法使いが被るようなとんがり帽子を深くかぶっていてよく顔が見えないが、もしかして獣人族なのかな?


「早く動きなさい。」


まだたてひざ状態の俺に審判が声をかける。うるさいなぁ。相手が止まるまで見てから動かないとどこまで離れたらいいのかわからないだろ?

試験官がその後も何やら言っているが完全に無視する。こんなことならルージュの相手をしてる間にほかの試合を見ておくべきだったな。

しばらくして対戦相手が止まる。それを見てから同じ距離だけ離れた場所に向かう。


おもむろにポケットからコインを取り出す審判。そしてそれを指で上にはじく。

何をしているのか全く分からずに俺はぼーっとそれを眺めていた。


「ファイアー・アロウ!!」


突然火属性の初級魔法が飛んでくる。不意をつかれたが余裕をもってそれをかわす。まだ試合開始なんて一言も言ってないだろ?

抗議の意思をもって審判のほうを向く。しかし審判はただこちらを観察しているだけだ。


そうこうしている間にも相手は次の魔法の詠唱を始めている。1発目の初級魔法はそのための時間稼ぎか。ちゃんと魔法師としての戦い方が分かっているんだな。

相手の足元に魔法陣が浮かび上がっていく。これは中級魔法だな。でも戦いの最中に発動できるだけの練度はまだないようだ。杖を両手で握りながら詠唱してこれだけ時間がかかっているようでは実戦では使い物にならない。


 魔法陣に向けて手を向ける。詠唱は魔法陣を作り上げるためのものだ。詠唱途中に魔法陣を消滅させてしまえば魔法は発動しなくなる。


相手の魔法陣の5割ほどが出来上がったころだろうか、魔法陣破壊を行おうとして思いとどまる。これってどのくらいのレベルの魔法なんだ?魔法陣破壊は中魔法だが詠唱破棄でうつのはまずいのか?ジュドーとの決闘の時も中級魔法の詠唱破棄は高難易度の技って言われたしな。


そんなことを考え、詠唱することを決める。しかしその時には相手の魔法陣は完成していた。



「ファイアー・スピアー!!」


相手の頭上に無数の火の槍ができる。観客からはどよめきが起きる。これはまずい。勝敗の観点からみればまずいことは一切ない。が、平均を演じながら切り抜ける方法は思いつかない。魔族がどうなのかは知らないけど、あんなの人間が生身でくらったら死んじゃうだろ。という平均がどのくらいなのかわからないって。


相手が掲げていた杖を振り下ろす。それと同時に日の槍が広範囲に振り注いでくる。これはかわしようがないな。

仕方がないので水魔法で障壁を作る。火の槍は障壁にぶつかるとともに消えていく。


大技を無効化されて焦ったのだろうか、相手の動きが固まる。これ以上長引かせるのはよくないな。そう思って相手に剣を抜き相手に近づく。相手の抱えている杖を払い飛ばし切っ先を相手の喉に向ける。これで勝ちかな。相手は驚いたのか尻もちをついてしまう。その拍子に帽子が落ちる。茶色い大きな耳が二つ出てくる。いわゆる猫耳ってやつだな。


「それまで!!」

 審判から声がかかる。その言葉を聞き剣を鞘に収め、倒れこんでいる相手に手を貸す。慌てた様子で帽子を拾って被りなおす。周りの観客からはパラパラと失笑が起きる。


「大丈夫か?」

あまりの慌てように声をかける。だが目を合わせようとはしてくれない。


「笑わえばいいじゃないですか、私のこと。」


「負けたくらいでそんな笑ったりはしない。というかそれは逆に俺に対して失礼なんじゃないか?」


「何言ってるんですか、私、猫耳ですよ?」

簡単に倒せる相手、と思われていたわけではなさそうだな。よくわからんがまたなんか差別があるのか。魔族のほうが人間より大変なんじゃないか?


「なんか問題でもあるのか?俺はかわいらしいと思うけど。」

相手がまたしても固まる。審判が早く次の試合のために退場するよう急かしてくる。


「いいからいったんここから出よう。」

座り込んでいる相手の手を取って立ち上がらせ訓練場から退場した。その後すぐ次の試合が行われていた。






 ちなみに観客たちは『実技試験が0点だが筆記試験が1位のやつがいるらしい。』といううわさを聞いて集まってきていたのだ。幸か不幸か、アランの放った上級魔法、ウォーターフォールは『下級魔法で水を生み出し火を相殺した。』という認識をされていた。ここでの一戦でアランは『筆記試験1位のやつは最低限の魔法は使えるらしい。』という認識をされるようになった。












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