第13話 猫耳

「少しは落ち着いたか?」

 とりあえず訓練場からは連れ出したが泣きじゃくられて困っている。


「でも……私が猫耳なの、あんなに大勢にみられちゃったから……もうこの学校にも通えません……。」


「おーい、おまえ勝ったんだって? まぁ最低限及第って感じじゃないか? 」

 ジュドーが俺を見つけて近寄ってくる。こいつはほんとに無神経だな。もうちょっと周りを見てくれ。お前は魔法以前に学ぶものがある。


「あー女の子泣かせてるー、いけないんだー」

 テレシアもなかなかのものだな。二人ともよく似てるよ。というか今気づいたけど二人しかいないな。


「ルージュはどこにいる?」


「ルージュは次の試合だから準備に行ったわ。ルージュ、ああ見えて強いから負けるなんてことはないと思うけど。」


「というか普通に優勝するだろ。」


「さすがにそれはひいき目で見すぎだけどね。優勝候補の一人、ってかんじじゃない? ほら、ジュドーはルージュに何かと甘いから。」


 それを皮切りに喧嘩が始まる。もうよしてくれよ。


「なぁ、『猫耳』ってなんかあるのか?」

 ここは気を使ったやつから損をしていく空間だ。俺も面倒ごとは直球で聞こう。


「それは、どこで聞いたか知らないけど、あんまり話題に出さないほうが無難だぜ。」

  テレシアも無言でうなずいている。その様子をみて隣での泣き方が激しくなる。この子には気を使うべきだったな。

 とはいえ臭いものにふたをしているばかりでは話は進まない。


「ちょっとその話について教えてもらっていいか?」

 状況を分かってなさそうなジュドーに泣いてる子のお守を任せて、テレシアと少し離れた場所へ行った。




 はるか昔、というわけではないがそこそこ昔、数世代前に獣人族と人間の大規模な戦争が勃発した。結果は人間の快勝。獣人族の多くは奴隷となってしまった。その過程で愛玩用に猫の遺伝子を組み込まれ人間好みの外見に、そして反抗できないように魔力が低めになるように作られた。猫耳はその子孫たちで能力的にも劣っていて、さらに人間たちの遺物を想起させる、ということで忌み嫌われている。テレシアからの話は大体こんな感じだ。


 まずいよな。俺、この子にむかって『かわいい』って言っちゃってるんだけど。


「それ、容姿は獣人族とかからはどう思われてるんだ?ほかの魔族とかからも。」


「獣人族は『強さが正義』みたいな価値観だから魅力的には映らないらしいわ。他の魔族からは悪いイメージが先行してるって感じかな。小さいころから染みついてるし。容姿は種族ごとに全然違うし。」


「この話ってそんなに常識的な話なのか?」


「今の王国の建国の歴史を学ぶときに必ず出てくるのよ。この戦争がきっかけで『対人間同盟』を掲げて他種族の連合国が作られたって。」

 全く知らない話だ。ジュドーも魔王の名前を覚えさせるくらいだったらこっちを先に教えるべきだろ。


「人間と魔族、で別れてると思っていたけど実は人間を含めた異種族が7つあるって区分なのか?」


「その見方が昔は主流だったみたいね。だから妖魔族とかは限りなく人間族に近いし、同じ国に住んではいるけどオーガ族とは子供も作れないほど遠縁だね。」


「あれ、数世代しかこの国やってないならなんで魔王があんなにたくさんいるんだ?」

 今必要のないことだが気になってしまう。悪い癖だ。一応賢者だから知識に飢えているんだろうか。


「それは……、ほら、初めての異種族での連合国だから、争いが、さ。」

 なんとなく察してしまった。いろいろと、大変だったんだな。


「とすると、魔族の間でも仲がいい種族とそうじゃない種族があるってことか?」


「そうね。例えばだけど、妖魔族はエルフ族とは建国以前からずっと交流があるし、逆にオーガ族とはずっと小競り合いを繰り返してるかな。」


 うーん。思っていた以上に複雑だ。



「おい、なにしてるんだよ。いつまで待たせるんだよ。」


 ジュドーがこっちに向かってくる。やばい、まだ対応を決めてないんだが。






 ジュドーは相手の子も連れてきていた。もう泣き切ったのか、落ち着きを取り戻しているようだ。

 かける言葉を考える。人間のせいで差別の対象になってるのを人間の俺が差別するってのもおかしな話だよな。でも差別するのが魔族的にはスタンダードなのか。

考えれば考えるほどわからなくなる。前世で獲得した知識を活用してフルパワーで考えるが答えは出ない。


「俺は猫耳かわいいとおもうよ。」

 頭がショートしたので思ったことをそのまま言ってしまった。テレシアから、あんたさっきの話聞いてた?、といった目で見られる。


「でも、私、ずっと醜い耳がついてるって言われてきて、それで」


「君の耳は魅力的だと俺は思うよ、ってだけ。ジュドーとかはそう思わない?」

 もう訳が分からなくなってきてしまった。とりあえずジュドーに投げる。


「まぁだから何だって感じではあるけど。オーガとかのほうがよっぽど醜い外見してると思うし。」

 こいつは平気で地雷発言をするんだな。それはオーガ族とかに聞かれて大丈夫な内容ではないだろうに。俺も人のことをとやかく言えないか。


「いろんな考えを持った人がいるしさ、一緒に頑張っていこうよ。」

 雑に話をまとめる。いい感じの着地点だろ。


 相手の子は顔を上げる。その顔は少しだけ笑顔が浮かんでいる気がする。

「あなたの名前、教えてもらってもいいですか?」

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