第10話 2次試験
その晩は昨日の宿屋で一晩を明かした。1次試験を通過できなかった人たちが帰った分なのか部屋に空きができ、一人部屋を手に入れることができた。昨日みたいにジュドーと同じ部屋にされて床で寝ることになったら最悪だからな。
いろいろあった今日の出来事を振り返っているうちに自然と眠りについていた。
「起きろ!!」
掛け布団をめくられ怒声が響き渡る。いやいやながら目を開けると目の前にはジュドーが腕を組みながら仁王立ちしている。
「今何時だと思ってる?」
「まぁ、朝なんじゃないか?」
窓から差し込む日光を見て適当に返す。その様子が火に油を注いだのかジュドーがいっそう声を荒げる。
「口を動かしてないで早く準備しろ!!」
結論としては、寝坊した、らしい。しかも部屋に鍵をかけて寝たせいで、起こそうにも店主が起きてくるのを待つしかなかった、らしい。誰が俺を待つかという話になった時にうまく言いくるめられてテレシアにその役割を押し付けられた、らしい。
準備をしている間にも延々と文句を言われ続ける。結構散々なことを言われているが、これは俺に非がある気がするな。
「開始時間まであとどれくらいあるんだ?」
「あと15分だ。その間に受験者手続きまで済まさないといけない。」
その言葉を聞き準備をする手を止める。
「ギリギリ間に合うかもしれないんだから、ほんとに急いでくれよ、頼むから……」
ジュドーはもうすでに半分涙目になっている。そんなジュドーに構わずゆっくりと用意をする。
「落ち着けよ、そんなに急ぐ必要ないだろ?」
「何言ってるんだよ、全力で走っても10分はかかるぞ。準備できたなら行くぞ!!」
壁にかかっている時計に目を移す。開始が7時で今が6時50分。普通に考えて間に合わない時間だ。
「急いで走って間に合ったとして、試験にさける体力が残ってなかったらしょうがないだろ?」
ジュドーの肩に手を載せ詠唱する。二人を中心に魔法陣が浮かび上がる────
「おい、これって、」
ジュドーが辺りを見回す。どうやら成功のようだな。無事に校門そばの裏通りに転移することができた。
「転移魔法なんて、失われた古代魔法の一つだぞ?どうしてそんなもんが使えるんだ?」
ジュドーは茫然としてその場に立ちすくむ。
「そんなことはどうでもいいだろ。それより『急いでる』んじゃなかったのか?」
ついさっきまで罵詈雑言を浴びせられていたのを思い出して、そんな気はなかったのだが嫌味を言ってしまった。
二人ですぐ近くの試験会場まで移動する。時間にも間に合ったし完璧のように見えた。しかし、その様子を目撃していた者がいた。
受験手続きを済ませると先に来ていたルージュたちが出迎えてくれた。
「間に合ったんだ、まぁよかったじゃん?」
「そんな一言で済ませていいわけがないだろ、こっちは来年再受験することも考えたんだぞ。」
目を話した目を離したすきにテレシアとジュドーはまた喧嘩を始めている。この二人はいつも喧嘩してるな。
「わたしは……絶対まにあうと……思ってたよ……」
「まぁ寝坊して間に合いませんでした、じゃさすがにね。」
受験者組にまじってしれっとルチアがいる。思っていることが顔に出ていたのかルチアが続ける。
「一応他種族間での協力を理念に設立された学校だからね。その試験は全種族の族長が見に来るのが通例になっているんだよ。こう見えて『族長』なのでね。」
得意そうに話す。こんな人が族長でいいのか?
「それよりも、昨日の試験どうなってるんですか?俺だけ実技試験受けさせてもらえなかったんですよ。」
「さっきルージュから聞いたよ、災難だったな。」
あっけらかんと笑う。軽く流してほしいわけではないんだが。
「そんなことより重要な話があるんだがちょっといいか?」
ルチアはあたりに人がいないことを確認し耳元で小声で話してくる。
「2次試験は手を抜いてもらっていいか?」
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