第9話 開示

「やっぱり……レイだよね……私のこと……覚えてる……?」


「もしかして、ルージュ?」

 驚いたように顔を見合わせる。


「二人は知り合いなのか?」


 すごい偶然だな。ルージュは人付き合いしなさそうなのに。


「レイは族長の子供だからね。私たちもルチアによくついてってたから結構関わりがあったんだよね。」

テレシアが身を乗り出しながら言う。


「テレシアとジュドーも、久しぶり!もう2年ぶりくらいかな?」


 4人で思い出話に花を咲かせいる。いなかった時の話はできないので俺は運ばれてきたパンケーキをむさぼる。確かに普通のパンケーキよりうまい気はするな。

ふとジュドーが思い出したかのように話す。


「でもレイはどうして1次試験を受けてるんだ?」


 確か族長の子息は推薦されるから1次試験は免除されるんだっけ。


「うん、ちょっと親ともめちゃってね。」

 顔を伏せながら声がしぼんでいく。この件に触れてほしくないというオーラを放っている。

 悪くなった空気を変えようとテレシアが話題を変える。


「それにしても試験受けに行っただけで女の子とデートしてるなんて、案外隅に置けないのね、アランって。」


「確かになぁ、しかもおごってもらう立場でだもんな、将来はヒモにでもなるのか?」


 テレシアの一言を聞いてここぞとばかりにジュドーも煽りモードに入る。


「なんのことを言ってるんだ?男2人で昼食を食べに来るくらい普通だろ。」

しかもおごってもらった件だって、現金もってないの忘れてただけだから。


 2人はぽかんとした顔をする。テレシアはレイの深くかぶったフードを上にあげる。

「こんなかわいい女の子を見てどうすれば男だと思うのよ!!」


 レイはバツの悪そうな顔をして、頬をかきながら苦笑いをする。



 レイはエルフ族の族長の『娘』らしい。フードかぶってたし分からないって。フードかぶってなくても短髪で白い髪の中世的な顔立ちから、即座に女の子であるのを判別するのは難しそうだけどな。






 そのあとは1次試験の結果が張り出されるまでの時間つぶしに街を観光した。テレシアが延々と洋服屋に、ジュドーが武器屋に行こうとして喧嘩ばかりしていてなかなかに地獄だった。



 なんとか二人の喧嘩も収まり、ちょうどいい時間になったので学園に戻る。そろそろ1次試験通過者の掲示が出る頃か。


「あのさ、俺、落ちてたら、どうしたらいいとおもう?」

アクシデントのせいで実技試験を受けられなかったことを思い出す。


「落ちることなんかないわよ、よほど手を抜いたりしなかったならね。」


「そんなことが起きるようなら、ルチアも激おこだろうな。」

テレシアとジュドーからの圧に負けずに事情を説明する。


「そんなの学園側の問題だから、落とされるようなことがあれば文句言いに行けばいいだけでしょう?」


「いや、もしかしたら、アランが、そういうことか?」

楽観的なテレシアに対してジュドーがの顔がかげる。ジュドーの言葉を聞いてテレシアとルージュも暗い顔をする。


「どういうこと?どうしたの?」

 一切事情が分かっていないレイが不審そうに尋ねる。


 ジュドーが暗に指摘するまで気づかなかったけど、これもしかして俺が人間だから、みたいな話があるのか?


 実際は魔晶石は消耗品で、上限の魔力分使用されると壊れる、というものだ。アランの魔力が神からの複数のスキルのおかげで(せいで)異常な量に達しているため、魔晶石が即座に使用上限に達する。しかし魔晶石の研究は詳しくは進んでおらず、当然アランたちが知るはずはない。



 レイに俺が人間だと知られるわけにはいかないのでそれっぽくごまかす。レイは納得はしていないが何か事情があることは察してくれたようでそれ以上は追及してこなかった。






 校門前の広場では1次試験の受験者とその付き添いが集まっている。どうやらここで1次試験通過者の受験番号が張り出されるらしい。


「なんだか、緊張するね。」

 レイもどこか落ち着きのない様子を見せている。こっちは実技試験が何点扱いされているのかが一切わからないから、その比ではない。


「あっ、張り出され始めたよ!」


 受験番号と試験の点数が並べられた紙が張られていく。どうやら上位合格者から順に並べられているようだ。


「あった、あったよ!」

 隣からレイの声が聞こえてくる。テレシアたちと喜び合っているが、いまだに自分の番号を見つけられない俺は焦る。


 2枚目、3枚にも自分の番号はなく、心の中で言い訳を考える。いや、というかこれは魔晶石のシステムを理解してないルチアの計画性のなさが招いた事故だろ。

そんなことを頭の中で浮かべているときにルージュが近寄ってくる。


「あの……向こうに……番号……あったよ……」


 ルージュについていくと、ちょうど掲示の最後の1枚、それもその1番下に俺の番号があった。


「おめでとう……なんとかなったね……」


 想定外のことに驚きつつも安堵する。まあ結果だけ見ればなんとかなってるし良かったな。今度ルチアにあった時に文句は言うけどな。




 その日はそのまま1次試験通過祝いにテレシアの行きつけの焼肉屋に行った。だから、合格者掲示の後に実技と筆記、それぞれでの成績上位者が掲示されていたこと、そして実技が0点で筆記が1位での合格者がいるというのが噂になっていること、そんなことを知る由もなかった。



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